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夢小説設定
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(空耳?)
思うと同時に、もう一度声が聞こえる。
「伊織ちゃん!」
すべり台の下からだった。
宗一郎は伊織と目が合うと、勢いをつけてすべり台を下から駆け上がってきた。
目の前まで来た宗一郎に、伊織はほとんど無意識に思わずすがりついた。
「宗先輩っ!」
「伊織ちゃん……? 泣いてるの? どうしたの、大丈夫? 仙道となにかあったの?」
「どうしよう……どうしよう宗先輩! 彰さん、わたしが考えていたよりずっとずっと深く傷ついてた! 彰さん自身どうしようもできなくてすごく苦しんでて……! どうしよう、わたしどうしよう! 彰さん……っ!」
「伊織ちゃん、大丈夫だよ、大丈夫」
宗一郎が伊織を落ち着かせるように抱きしめてくれる。
あたたかい腕に包まれて、伊織の不安が少しずつ溶けていった。
このままずっとこうしていたかった。離れたくなかった。
だけど、伊織は心に決めた。
仙道と約束を交わして、ひとつ決意した。
それを告げるために、伊織は宗一郎の腕から体を離す。
「伊織ちゃん?」
突然無口になった伊織に、宗一郎が訝しげに眉を寄せた。
伊織は唇を固く引き結ぶと、声が震えないように細心の注意を払いながら、言った。
「ごめんなさい、宗先輩。わたし、宗先輩とは付き合えません」
「え……?」
目の前の宗一郎が、見る見る顔色をなくしていく。
伊織はそれを胸が潰れるような思いで見つめた。
仙道と約束を交わして決めたこと。
それは、宗一郎を自由にしてあげること。
今は6月で、インターハイ出場が決まるのは早くても7月下旬頃だろう。
そんなにも長い間宗一郎を待たせるなんて、そんなことできなかった。
それに、まりあのこともある。
これ以上中途半端な対応で誰も苦しめたくなかった。
「な、なんで? 伊織ちゃん、俺が嫌いになったの? それとも、仙道と……、仙道と付き合うことにしたの?」
「…………」
伊織は無言で首を振った。
宗一郎の歪んでいく顔を見ていられなくて、伊織は目を伏せる。
「じゃあなんで!?」
宗一郎に強い力で肩を掴まれた。
そのとき突然目の前の宗一郎がハッと息を呑んだ。
伊織は伏せていた瞳を宗一郎に戻した。
宗一郎の瞳が、驚愕に見開かれて一点を食い入るように見つめていた。
首と顔の付け根。
伊織はそこになにがあるか思い出して、勢いよく手でソレをかくした。
「やっ!」
あのときの恐怖がまざまざとよみがえってきて、体が勝手に小刻みに震えだす。
「伊織ちゃん、それ……。それどうしたの? まさか、仙道に……?」
「ち、ちがいます! 虫に、そう、虫に刺されちゃって……」
「ウソだ。伊織ちゃん、虫に刺されたってそんな風にはならないよ! ねえ、どうしたの、それ。仙道につけられたの?」
宗一郎のその言葉に、伊織の体が無意識にびくりと震えてしまった。
宗一郎が息を吸い込む音が聞こえた。
ダメだ、もう誤魔化せない。
軽蔑される。
思ったとき伊織の体が優しく宗一郎に包まれた。