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夢小説設定
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「月に聞きました。彰さん、わたしが一年前に同じような状況になったときにも、来てくれてたんですね」
「結局、会いには行けなかったけど」
「それでも、わたしはそのことを知ってすごく嬉しかったです。だって一年前って言ったら彰さんもう神奈川にいたんでしょう? 電車を乗り継いで、時間だってかかるし交通費だってバカにならないのに……。それでも毎日のように来てくれてたって月が言ってました。ありがとうございます」
伊織は当時の仙道を思い浮かべるように、視線を遠くにやった。
知らなかった。気付かなかった。
暗い部屋で閉じこもる窓の外に、仙道の心配する瞳があったなんて。
もしもあのとき。
ふいに頭の中である思いが湧き上がった。
もしもあのとき、仙道が訪ねてきてくれていたら何か変わっていただろうか。こんな風に、自分は違う誰かを好きになってしまっていて、仙道はそれでもまだ自分を想い続けてくれているような、そんな未来は来なかっただろうか。
伊織はその思いの残酷さに気付いて、小さく頭を振った。
じわじわと脳内を侵食してくるそのやるせない気持ちを振り払うように頭を振って、きつく目を閉じる。
「もしも……」
仙道の、感情を押し殺したような硬い声が聞こえた。
伊織は仙道に視線を戻し、その目を見て声を失った。
今しがた伊織の脳内をしめたのと同じ種類の感情が、その奥から見てとれた。
仙道の瞳が暗く揺らめいて、伊織は思わず仙道から体を離した。
背中が象の耳にぶつかる。
仙道が伊織が離れた分よりさらに多く、伊織との距離を詰める。
吐息がかかりそうなほど近くにある仙道の顔に、伊織は顔を横に背けた。
後ろには象の耳。もう距離を開けられない。
仙道の大きな手の平が、伊織の緊張して冷たくなった頬に触れた。
びくりと大きく肩が揺れたのが、自分でもわかる。
バクバクと心臓が大きく脈打つ。
逃げられない。
すべり台のてっぺんで、下に向けて足を投げ出しながら二人で並んで座っていたはずなのに、いつのまにか体の横にあったはずの象の耳は伊織の背中にぴったりとくっついていて、伊織の前には仙道が覆いかぶさるようにいる。
自分の体に落ちる仙道の影。
逃げられない。
もう一度強くそれを思った。
いつもと違う、なんだかこちらを不安にさせるような仙道の顔。
伊織の心に、しだいに言い知れぬ恐怖が広がっていく。
「もしも、あの時オレがちゃんと伊織ちゃんに会ってたら……こんなことにはならなかったのかな」
「あ、きら……さん」
「今でも伊織ちゃんはオレの横で笑ってて、オレを好きだと言ってくれて、そしてオレもキミが好きで……。そんな風に幸せに過ごせてたのかな」
仙道の手がゆっくりと伊織の頬を撫でる。
大きくて安心できたその手の平に、今は恐怖が掻き立てられる。
「……や」
「伊織ちゃん。神に告白されたってほんと?」
伊織の頬が一瞬上気した。
仙道はそれを見逃さなかった。
仙道の瞳があやしく細められる。
その瞬間、伊織の知っている仙道が消えてしまったような気がした。
「や、あきらさん……!」
伊織のからだが震えた。
目の前の男の人はいったい誰だろう。
仙道の中身はいったい誰と入れ替わってしまったんだろう。
これが仙道だなんて信じられなかった。
怖い。
ここから逃げ出そうと伊織は仙道のからだを両手で強く押した。
だけど仙道のからだはびくともしない。
反対にその手を掴まれて、伊織の頭上で乱暴に拘束される。
伊織の両手の自由を、左手ひとつで軽々と奪う仙道に、伊織は心底恐怖を感じた。
「結局、会いには行けなかったけど」
「それでも、わたしはそのことを知ってすごく嬉しかったです。だって一年前って言ったら彰さんもう神奈川にいたんでしょう? 電車を乗り継いで、時間だってかかるし交通費だってバカにならないのに……。それでも毎日のように来てくれてたって月が言ってました。ありがとうございます」
伊織は当時の仙道を思い浮かべるように、視線を遠くにやった。
知らなかった。気付かなかった。
暗い部屋で閉じこもる窓の外に、仙道の心配する瞳があったなんて。
もしもあのとき。
ふいに頭の中である思いが湧き上がった。
もしもあのとき、仙道が訪ねてきてくれていたら何か変わっていただろうか。こんな風に、自分は違う誰かを好きになってしまっていて、仙道はそれでもまだ自分を想い続けてくれているような、そんな未来は来なかっただろうか。
伊織はその思いの残酷さに気付いて、小さく頭を振った。
じわじわと脳内を侵食してくるそのやるせない気持ちを振り払うように頭を振って、きつく目を閉じる。
「もしも……」
仙道の、感情を押し殺したような硬い声が聞こえた。
伊織は仙道に視線を戻し、その目を見て声を失った。
今しがた伊織の脳内をしめたのと同じ種類の感情が、その奥から見てとれた。
仙道の瞳が暗く揺らめいて、伊織は思わず仙道から体を離した。
背中が象の耳にぶつかる。
仙道が伊織が離れた分よりさらに多く、伊織との距離を詰める。
吐息がかかりそうなほど近くにある仙道の顔に、伊織は顔を横に背けた。
後ろには象の耳。もう距離を開けられない。
仙道の大きな手の平が、伊織の緊張して冷たくなった頬に触れた。
びくりと大きく肩が揺れたのが、自分でもわかる。
バクバクと心臓が大きく脈打つ。
逃げられない。
すべり台のてっぺんで、下に向けて足を投げ出しながら二人で並んで座っていたはずなのに、いつのまにか体の横にあったはずの象の耳は伊織の背中にぴったりとくっついていて、伊織の前には仙道が覆いかぶさるようにいる。
自分の体に落ちる仙道の影。
逃げられない。
もう一度強くそれを思った。
いつもと違う、なんだかこちらを不安にさせるような仙道の顔。
伊織の心に、しだいに言い知れぬ恐怖が広がっていく。
「もしも、あの時オレがちゃんと伊織ちゃんに会ってたら……こんなことにはならなかったのかな」
「あ、きら……さん」
「今でも伊織ちゃんはオレの横で笑ってて、オレを好きだと言ってくれて、そしてオレもキミが好きで……。そんな風に幸せに過ごせてたのかな」
仙道の手がゆっくりと伊織の頬を撫でる。
大きくて安心できたその手の平に、今は恐怖が掻き立てられる。
「……や」
「伊織ちゃん。神に告白されたってほんと?」
伊織の頬が一瞬上気した。
仙道はそれを見逃さなかった。
仙道の瞳があやしく細められる。
その瞬間、伊織の知っている仙道が消えてしまったような気がした。
「や、あきらさん……!」
伊織のからだが震えた。
目の前の男の人はいったい誰だろう。
仙道の中身はいったい誰と入れ替わってしまったんだろう。
これが仙道だなんて信じられなかった。
怖い。
ここから逃げ出そうと伊織は仙道のからだを両手で強く押した。
だけど仙道のからだはびくともしない。
反対にその手を掴まれて、伊織の頭上で乱暴に拘束される。
伊織の両手の自由を、左手ひとつで軽々と奪う仙道に、伊織は心底恐怖を感じた。