17
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
にこりと笑いながら受け取る仙道に、伊織は得意げに胸を張ってみせた。
「任せてください。彰さんはジュースよりもスポーツ飲料、そしてアクエリよりポカリですよね」
「はは、正解。伊織ちゃんはジュースよりは紅茶。ストレートやミルクじゃなくてレモンティーだよね。それで時々こっそりコーラ」
「あはは、正解です!」
伊織は、炭酸飲料を飲むなとうるさく言うコーチに隠れて、仙道とふたり、こっそりコーラを飲んだ事を思い出した。
今にしてみれば大した事ではないけれど、当時はコーチの言いつけを破るということは大変なことだった。それをしているというスリルにわくわくして、ふたりで笑い合った昔がまぶたの裏に鮮明によみがえる。
「懐かしい! よく二人で隠れて飲んでましたね」
「飲んだ飲んだ。こっそり飲むのはあれだよね、普通に飲むときの何倍もおいしいよね」
「あはは、言えてます、それ! あのときのコーラはすっごくおいしかったなぁ」
思い起こすように夜空を見上げて、それから仙道を振り返る。
「それにしても、そんな昔のことよく覚えてましたね」
「忘れないよ、伊織ちゃんのことなら全部」
突然調子を変えて真剣に言う仙道に、伊織の心臓がどくんと跳ねる。
「そ、そう……ですか」
「そうデスヨ。オレの宝物だからね」
恥ずかしげもなくさらりと言う仙道に、伊織は紅潮した顔を伏せた。
宗一郎といい仙道といい、きっとどこかに羞恥心を置いてきてしまったにちがいない。
だからこんな歯の浮くようなセリフを顔色ひとつ変えずに言えてしまうのだ。
「はは、伊織ちゃん赤くなった。かーわいい」
「もう! からかわないでください!」
「からかってないよ。オレはいつでも伊織ちゃんには本気だよ」
「だっ、だからそういうのが……」
「からかってない。……本気」
仙道が真剣な瞳で伊織をじっと見つめる。
伊織はその視線から逃げるように慌てて話題を変えた。
それが一時的なその場凌ぎにしかならないことはわかっていたけれど、このままだとすぐにでも変なほうに話が流れていきそうで、伊織にはそれがすごく怖かった。
さっきも思ったけれど、今日の仙道はなんだかいつもと雰囲気が違う。
「あ、あの! そういえば、毎日お見舞いに来てくれてたって……。ありがとうございました」
「ああ、うん。いいよ、それは。オレが行きたかっただけだし。まあ、なんにもできなかったけどね」
仙道がいつもの調子に戻って言葉を返す。
伊織はそれにホッと胸をなでおろした。
「そんなことないです。嬉しかったですよ」
「伊織ちゃん、オレのことわかってなかったのに?」
「そ……っれは! 謝りますけど」
伊織は拗ねたように唇を尖らせた。
仙道がそれを見て軽快に笑う。
「ははっ。ごめんごめん。冗談だよ伊織ちゃん。怒らないで」
「別に怒ってはないですけど。相変わらず意地悪だなぁもう、彰さんは。……あ、あと、あのときも。ありがとうございました」
「あのとき?」
仙道が不思議そうに首を傾ける。
伊織はそれを告げるべきかどうか一瞬だけ迷って、言うことに決めた。
小さく仙道に向けて頷く。
「はい。――一年前のこと」
「!」
仙道が小さく息を呑む音が聞こえた。
伊織は目を伏せて言葉を続ける。