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「合格」
喜びをおさえてさらりと言ってやると、伊織がきょとんとした表情でまりあを見つめてきた。
へ? と伊織が間の抜けた声をあげる。
「だーから、合格って言ってんの!」
わざと乱暴に言うと、まりあは伊織の頭をべしんと平手打ちした。
自分よりちょっと高い位置にある伊織の頭が、いたっという声とともに下にさがる。
伊織の表情はすっかり困惑しきっていた。
「まったく世話かけさせんじゃないわよ、これで諦めるとか言ったら今度こそほんとうに絶交だったわよ! まだまりあの友達でいられるんだからありがたく思いなさいよねええ!?」
その言葉にようやく状況を理解したのか、伊織が顔を輝かせた。
まりあちゃん! と声をあげる伊織に、まりあは両手をがしりと掴まれる。
まりあはそれを顔をしかめて振り払う。
「それで、どういういきさつなの? 宗ちゃんにはもう告白されてるの?」
まりあがそう口火を切ると、目の前の伊織はしっかりとした口調で話し始めた。
宗一郎に告白されたこと。
仙道とのことをちゃんとさせるまで、返事は待つと宗一郎が言ったこと。
だから、伊織はまだ宗一郎に気持ちを伝えていないこと。
まりあは伊織が順を追ってそこまで話すのを、静かに聞いていた。
胸に鈍い痛みが走る。
まりあは宗一郎を思った。
伊織の語る宗一郎は、まりあの知らない男のひとだった。
宗一郎は、自分にはそんな風にはしない。
宗一郎はいつだって自分よりも他人が優先で、自分のしたいことを無理矢理通したりなんてことしなかった。
もしそうしたいと思っても、相手の出方を待つ宗一郎はその意思を変える努力をする程度だ。
嫌だと言われて、それでも無理矢理抱きしめたりなんて、絶対にしない。
(でも、伊織ちゃんにはするのね……)
宗一郎の気持ちの強さを痛感した。
宗一郎がどれほど伊織のことを好きなのか、一番身近で宗一郎を見てきたまりあはよくわかっていたつもりでいたけれど、そんなものただの一端でしかなかった。
(だけど、まだあきらめない……!)
今のまま引き下がったら、絶対に後悔する。
最後まで粘って粘って、思う存分二人の邪魔をして、そうして……。
(いつか、ちゃんと二人を受け入れられるようになったら……)
そしたら、宗一郎に告白をしてフラれよう。
生まれてからずっと、物心ついたころから大切にしていたこの16年分の想い、告げずに封印してしまうのは、あまりにも自分がかわいそうだ。
だから。
まりあはきっと両眉を吊り上げて、伊織を見つめる。
「伊織ちゃん。まさか宗ちゃんに告白されたからって、もうまりあに勝った気でいるんじゃないでしょうねえ?」
「え!? そんなこと思ってないよ、全然!」
伊織が慌てたように首を振る。
「ふうん? それならいいけど……まだ勝負は決まってないんですからね! まりあは今からでも宗ちゃんを振り向かせる自信があるんだから!」
うそだ。そんなものはない。
あるのはただの絶望にも似たあきらめの気持ちだけだ。
「伊織ちゃんが仙道さんとだらだら区切りをつけられないでいるうちに、まりあが宗ちゃんもらっちゃうんだから! それに、それを聞いたからにはまりあはオニのように二人を妨害するわ! 絶対うまくなんていかせない! あの手この手で全力で妨害してやるっ!」
びしっと人差し指を伊織に突きつけながらまりあがそう宣言すると、一瞬呆気に取られていた伊織の表情が嬉しそうに綻んだ。
「うん! わたしもまりあちゃんに負けないように頑張る!」
その笑顔に、まりあは毒気を抜かれたように目を丸くした。
ほんとうにもう、この人はどうしてこのタイミングでこんな屈託もなく笑えるんだろう。
(しょうがないなぁ……)
嬉しそうににこにこ笑う伊織に、まりあは緩みそうになる頬を改めて引き締めると、ちっとわざと大きく舌打ちをした。
「あーあ、もう! 伊織ちゃんがすっごいやなヤツだったらよかったのに! そうしたらまりあだってこんな風に正々堂々ライバル宣言なんてしないで、それこそ伊織ちゃんに関するあることないこと宗ちゃんに吹き込んで、二人の仲を引き裂くどころかもう顔も見たくないって宗ちゃんに思わせるくらいのことができるのに!」
「うわ、それは、怖い……なあ」
「あったりまえでしょ!? まりあから宗ちゃんを奪うヤツなんて悪魔なのよ!? 悪魔祓いしてなにが悪いって言うの!? あーもうほんとちくしょー!!」
まりあが空に向かってうがーっと吠えた。
それを見て、今まで黙って二人の様子を見守っていた信長が楽しそうに笑い声をあげる。
「青春だな、青春! まりあちゃんは、神さんと同じくらい伊織が大好きってことだな」
「ちょっと恥ずかしいこと言わないでよノブくん! ほら見て、鳥肌立った!」
言ってまりあは腕にできた鳥肌を、袖をまくって信長と伊織の二人に見せ付ける。
「でも、好きなんだろ?」
信長がにやりと嫌味に口の端を持ち上げてまりあを見てくる。
まりあはその表情にぐっとつまった。
無視を決め込むまりあに、もう一度信長が言う。
「まりあちゃんは、伊織が大好きなんだよな?」
「……っるっさいなぁ! 好きじゃなかったら今頃伊織ちゃんはコンクリートの下にでも埋まってるわよ! もう、天上天下唯我独尊の雪原まりあには、こんな中学生日記みたいな展開似合わないのにもうもうもう!」
髪を掻き毟って声をあげるまりあに、二人は声をあげて笑った。
ぎゅっと、まりあは伊織に抱きしめられる。
「まりあちゃん、ありがとう! まりあちゃん大好き!」
「……ふん。伊織ちゃんなんか、だいっ嫌いなんだから」
「うん!」
嬉しそうに頬をこすりつけてくる伊織に、まりあは複雑なため息をついた。
雪原まりあには、こんな展開似合わない。
ライバルなんか蹴落として、いつでも男に囲まれて。
同性からは疎まれつつもそれでも憧れの対象で。
それが雪原まりあなのに。
(でも、たまにはこういうのも悪くない……かな)
宗一郎を失うことにはまだ耐えられそうもないけれど、相手が伊織ならまだ許せるような気がした。
二人がほんとうに付き合うまでは、決して手を緩めたりなんかしないけど。
まりあはそんなことを考えながら、自分を抱きしめる優しい伊織のぬくもりを感じて目を閉じた。
To be continued…
喜びをおさえてさらりと言ってやると、伊織がきょとんとした表情でまりあを見つめてきた。
へ? と伊織が間の抜けた声をあげる。
「だーから、合格って言ってんの!」
わざと乱暴に言うと、まりあは伊織の頭をべしんと平手打ちした。
自分よりちょっと高い位置にある伊織の頭が、いたっという声とともに下にさがる。
伊織の表情はすっかり困惑しきっていた。
「まったく世話かけさせんじゃないわよ、これで諦めるとか言ったら今度こそほんとうに絶交だったわよ! まだまりあの友達でいられるんだからありがたく思いなさいよねええ!?」
その言葉にようやく状況を理解したのか、伊織が顔を輝かせた。
まりあちゃん! と声をあげる伊織に、まりあは両手をがしりと掴まれる。
まりあはそれを顔をしかめて振り払う。
「それで、どういういきさつなの? 宗ちゃんにはもう告白されてるの?」
まりあがそう口火を切ると、目の前の伊織はしっかりとした口調で話し始めた。
宗一郎に告白されたこと。
仙道とのことをちゃんとさせるまで、返事は待つと宗一郎が言ったこと。
だから、伊織はまだ宗一郎に気持ちを伝えていないこと。
まりあは伊織が順を追ってそこまで話すのを、静かに聞いていた。
胸に鈍い痛みが走る。
まりあは宗一郎を思った。
伊織の語る宗一郎は、まりあの知らない男のひとだった。
宗一郎は、自分にはそんな風にはしない。
宗一郎はいつだって自分よりも他人が優先で、自分のしたいことを無理矢理通したりなんてことしなかった。
もしそうしたいと思っても、相手の出方を待つ宗一郎はその意思を変える努力をする程度だ。
嫌だと言われて、それでも無理矢理抱きしめたりなんて、絶対にしない。
(でも、伊織ちゃんにはするのね……)
宗一郎の気持ちの強さを痛感した。
宗一郎がどれほど伊織のことを好きなのか、一番身近で宗一郎を見てきたまりあはよくわかっていたつもりでいたけれど、そんなものただの一端でしかなかった。
(だけど、まだあきらめない……!)
今のまま引き下がったら、絶対に後悔する。
最後まで粘って粘って、思う存分二人の邪魔をして、そうして……。
(いつか、ちゃんと二人を受け入れられるようになったら……)
そしたら、宗一郎に告白をしてフラれよう。
生まれてからずっと、物心ついたころから大切にしていたこの16年分の想い、告げずに封印してしまうのは、あまりにも自分がかわいそうだ。
だから。
まりあはきっと両眉を吊り上げて、伊織を見つめる。
「伊織ちゃん。まさか宗ちゃんに告白されたからって、もうまりあに勝った気でいるんじゃないでしょうねえ?」
「え!? そんなこと思ってないよ、全然!」
伊織が慌てたように首を振る。
「ふうん? それならいいけど……まだ勝負は決まってないんですからね! まりあは今からでも宗ちゃんを振り向かせる自信があるんだから!」
うそだ。そんなものはない。
あるのはただの絶望にも似たあきらめの気持ちだけだ。
「伊織ちゃんが仙道さんとだらだら区切りをつけられないでいるうちに、まりあが宗ちゃんもらっちゃうんだから! それに、それを聞いたからにはまりあはオニのように二人を妨害するわ! 絶対うまくなんていかせない! あの手この手で全力で妨害してやるっ!」
びしっと人差し指を伊織に突きつけながらまりあがそう宣言すると、一瞬呆気に取られていた伊織の表情が嬉しそうに綻んだ。
「うん! わたしもまりあちゃんに負けないように頑張る!」
その笑顔に、まりあは毒気を抜かれたように目を丸くした。
ほんとうにもう、この人はどうしてこのタイミングでこんな屈託もなく笑えるんだろう。
(しょうがないなぁ……)
嬉しそうににこにこ笑う伊織に、まりあは緩みそうになる頬を改めて引き締めると、ちっとわざと大きく舌打ちをした。
「あーあ、もう! 伊織ちゃんがすっごいやなヤツだったらよかったのに! そうしたらまりあだってこんな風に正々堂々ライバル宣言なんてしないで、それこそ伊織ちゃんに関するあることないこと宗ちゃんに吹き込んで、二人の仲を引き裂くどころかもう顔も見たくないって宗ちゃんに思わせるくらいのことができるのに!」
「うわ、それは、怖い……なあ」
「あったりまえでしょ!? まりあから宗ちゃんを奪うヤツなんて悪魔なのよ!? 悪魔祓いしてなにが悪いって言うの!? あーもうほんとちくしょー!!」
まりあが空に向かってうがーっと吠えた。
それを見て、今まで黙って二人の様子を見守っていた信長が楽しそうに笑い声をあげる。
「青春だな、青春! まりあちゃんは、神さんと同じくらい伊織が大好きってことだな」
「ちょっと恥ずかしいこと言わないでよノブくん! ほら見て、鳥肌立った!」
言ってまりあは腕にできた鳥肌を、袖をまくって信長と伊織の二人に見せ付ける。
「でも、好きなんだろ?」
信長がにやりと嫌味に口の端を持ち上げてまりあを見てくる。
まりあはその表情にぐっとつまった。
無視を決め込むまりあに、もう一度信長が言う。
「まりあちゃんは、伊織が大好きなんだよな?」
「……っるっさいなぁ! 好きじゃなかったら今頃伊織ちゃんはコンクリートの下にでも埋まってるわよ! もう、天上天下唯我独尊の雪原まりあには、こんな中学生日記みたいな展開似合わないのにもうもうもう!」
髪を掻き毟って声をあげるまりあに、二人は声をあげて笑った。
ぎゅっと、まりあは伊織に抱きしめられる。
「まりあちゃん、ありがとう! まりあちゃん大好き!」
「……ふん。伊織ちゃんなんか、だいっ嫌いなんだから」
「うん!」
嬉しそうに頬をこすりつけてくる伊織に、まりあは複雑なため息をついた。
雪原まりあには、こんな展開似合わない。
ライバルなんか蹴落として、いつでも男に囲まれて。
同性からは疎まれつつもそれでも憧れの対象で。
それが雪原まりあなのに。
(でも、たまにはこういうのも悪くない……かな)
宗一郎を失うことにはまだ耐えられそうもないけれど、相手が伊織ならまだ許せるような気がした。
二人がほんとうに付き合うまでは、決して手を緩めたりなんかしないけど。
まりあはそんなことを考えながら、自分を抱きしめる優しい伊織のぬくもりを感じて目を閉じた。
To be continued…