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「そう? それならよかった。……俺、修行が足りないのかな。伊織ちゃんを前にするとどうも自分を抑制できなくなっちゃって……」
さっきも髪に触れちゃったしね、なんて爽やかに笑いながら宗一郎が言う。
どうしてこの人はこう、歯の浮くようなセリフを顔色ひとつ変えずさらりと言えてしまうんだろう。
涼しげに吐き出された一言で、こちらがどれほど翻弄されているのか気付いているんだろうか。
「だだ、大丈夫です! わ、わたしも極力意識しないようにがんばりますから!」
のぼせ上がった頭でなんとかそう言うと、宗一郎が驚いたような表情でこちらを見てきた。
そして、何かを企むように口の端を片方だけ持ち上げると、伊織の頬に触れる。
くいと、あごを上向かされた。
間近でぶつかる、長い睫毛に縁取られた宗一郎の綺麗な瞳。
伊織の体が金縛りにあったように動けなくなる。
「ダメだよ、それは。俺のことちゃんと意識して。俺は、伊織ちゃんに好きになってもらいたいんだから」
「!」
「もう気持ちもバレちゃってるし、これからは手加減しないから。――覚悟しといて」
目の前で宗一郎があやしく微笑む。
伊織はその微笑みに吸い込まれそうになりながらも、混乱する頭で必死に口を動かす。
「や、でも、宗先輩待つって言ってくれたじゃないですか」
「でも、攻めないとは言ってないよ」
「! そ、それって、なんだかとってもずるいような……」
過度の緊張に耐え切れず、がっくりと床に膝をついた伊織を見て、宗一郎が楽しそうに笑い声を上げる。
「あはは、そうかな」
「そうですよ、うう、心臓が持たない」
「それって、俺にときめいて?」
伊織の顔を覗き込むようにして、薄く笑う宗一郎。
その視線から逃れるように勢いよく真っ赤な顔を背ける伊織に、宗一郎がくつくつと喉の奥で笑い声をあげる。
「はは、ごめんごめん伊織ちゃん。冗談だよ」
言いながら宗一郎は伊織を助け起こす。
恨めしそうに見る伊織の視線の先で、宗一郎がにこりと爽やかに微笑んだ。
「じゃあ、得点板運ぼうか」
「……はい」
その言葉に、伊織はどっと疲れた気持ちになって頷いた。
こんなことがあといったいどれだけ続くんだろう。
(た、耐えられる自信がない……)
伊織は宗一郎に気付かれないように重い息をはいた。
そのとき、ガタンと倉庫の扉が揺れた音を、伊織は特に気に止めるでもなく聞いた。
伊織は小さく眉根を寄せてお弁当箱を膝の上で広げた。
たまには外で食べようということになって、伊織と信長とまりあの三人は中庭に来ていた。
校舎と校舎の間に挟まれたこの中庭は、なにを象ったのかよくわからないモニュメントを起点に花壇で囲まれていた。
そこには季節ごとにいろんな花が楽しめるよう、バランスよく色とりどりの花が植えられている。
今は紫陽花やヒメジオンがその花びらを優雅に揺らしていた。
いつもは大人気のスポットなのだが、今日は少し肌寒いせいか伊織たちの他には誰もいない。
本来なら、貸切状態に胸をときめかせながら三人で仲良くご飯を食べているはずだった。
そう、本来なら。
伊織は玉子焼きを口に運び、それを嚥下すると、心の中でため息をついた。
さっきも髪に触れちゃったしね、なんて爽やかに笑いながら宗一郎が言う。
どうしてこの人はこう、歯の浮くようなセリフを顔色ひとつ変えずさらりと言えてしまうんだろう。
涼しげに吐き出された一言で、こちらがどれほど翻弄されているのか気付いているんだろうか。
「だだ、大丈夫です! わ、わたしも極力意識しないようにがんばりますから!」
のぼせ上がった頭でなんとかそう言うと、宗一郎が驚いたような表情でこちらを見てきた。
そして、何かを企むように口の端を片方だけ持ち上げると、伊織の頬に触れる。
くいと、あごを上向かされた。
間近でぶつかる、長い睫毛に縁取られた宗一郎の綺麗な瞳。
伊織の体が金縛りにあったように動けなくなる。
「ダメだよ、それは。俺のことちゃんと意識して。俺は、伊織ちゃんに好きになってもらいたいんだから」
「!」
「もう気持ちもバレちゃってるし、これからは手加減しないから。――覚悟しといて」
目の前で宗一郎があやしく微笑む。
伊織はその微笑みに吸い込まれそうになりながらも、混乱する頭で必死に口を動かす。
「や、でも、宗先輩待つって言ってくれたじゃないですか」
「でも、攻めないとは言ってないよ」
「! そ、それって、なんだかとってもずるいような……」
過度の緊張に耐え切れず、がっくりと床に膝をついた伊織を見て、宗一郎が楽しそうに笑い声を上げる。
「あはは、そうかな」
「そうですよ、うう、心臓が持たない」
「それって、俺にときめいて?」
伊織の顔を覗き込むようにして、薄く笑う宗一郎。
その視線から逃れるように勢いよく真っ赤な顔を背ける伊織に、宗一郎がくつくつと喉の奥で笑い声をあげる。
「はは、ごめんごめん伊織ちゃん。冗談だよ」
言いながら宗一郎は伊織を助け起こす。
恨めしそうに見る伊織の視線の先で、宗一郎がにこりと爽やかに微笑んだ。
「じゃあ、得点板運ぼうか」
「……はい」
その言葉に、伊織はどっと疲れた気持ちになって頷いた。
こんなことがあといったいどれだけ続くんだろう。
(た、耐えられる自信がない……)
伊織は宗一郎に気付かれないように重い息をはいた。
そのとき、ガタンと倉庫の扉が揺れた音を、伊織は特に気に止めるでもなく聞いた。
伊織は小さく眉根を寄せてお弁当箱を膝の上で広げた。
たまには外で食べようということになって、伊織と信長とまりあの三人は中庭に来ていた。
校舎と校舎の間に挟まれたこの中庭は、なにを象ったのかよくわからないモニュメントを起点に花壇で囲まれていた。
そこには季節ごとにいろんな花が楽しめるよう、バランスよく色とりどりの花が植えられている。
今は紫陽花やヒメジオンがその花びらを優雅に揺らしていた。
いつもは大人気のスポットなのだが、今日は少し肌寒いせいか伊織たちの他には誰もいない。
本来なら、貸切状態に胸をときめかせながら三人で仲良くご飯を食べているはずだった。
そう、本来なら。
伊織は玉子焼きを口に運び、それを嚥下すると、心の中でため息をついた。