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夢小説設定
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伊織は得点板を準備するために体育倉庫に足を踏み入れた。
ここに入るのも6日ぶりだ。
鼻をかすめる埃っぽいにおいにさえ、なんだか懐かしさを感じる。
得点板を出すのはすっかり伊織の役目に定着してしまった。
伊織は得点板に歩み寄ると、それにそっと手を触れる。
ひんやりと心地よい冷たさが、手の平を通して伝わってくる。
手になじむこの感触に、伊織は戻ってきた実感を深くした。
「その感触が懐かしい?」
急に背後から声が聞こえて、伊織は驚いて振り返った。
確かめなくてもそれが誰だかわかる。
声を聞くと自然に早鐘を打ち始める心臓。
急激に熱のあがる体。
「そ、宗先輩!」
『好きだよ』とあの日囁かれた言葉が、急に耳元によみがえる。
あれから宗一郎に会うのは初めてだ。
どんな顔をしていいかわからず、伊織は顔を俯かせた。
顔が熱い。
心臓がうるさい。
困惑に思わず閉じた視界の中で、体育倉庫の扉の閉まる音がやけにはっきりと耳に届く。
伊織が目を開けると、宗一郎が感情の読めない顔で小さく微笑んでいた。
「そんなに怯えないで、伊織ちゃん。まあ、あんなこと言っちゃった後だし難しいかもしれないけど……普通にして?」
「あ、は、はい!」
扉の閉まった、体育倉庫に二人きり。
緊張して声が上ずってしまった。
宗一郎に変に思われなかっただろうか。
伊織は不安げに喉もとをさする。
「おはよう、伊織ちゃん。――元気に学校に来てくれてよかった」
「そ、宗先輩のおかげです! 昨日、宗先輩がわたしの話を聞いてくれたから……」
「……こんな俺でも伊織ちゃんの役に立てたならよかった。すごく嬉しいよ」
宗一郎の手が伊織の髪に触れた。
どきんと伊織の胸が飛び跳ねる。
宗一郎は伊織の髪をひと房手に取ると、それをもてあそぶように、さらさらと手の中から全て零してはまたそれを繰り返した。
顔のすぐ横に、宗一郎の大きな手がある。
髪の毛に神経が通っていないなんて絶対ウソだ。
だってこんなにも宗一郎の触れたところが、燃えるように熱い。
もどかしいような感触が伝わってきて、胸が苦しいくらいに締め付けられて、その熱に酔ってしまいそうになる。
「そ……せんぱい」
「伊織ちゃんの髪、綺麗だよね。こうするときらきら輝いて流れていくんだ。手触りもやわらかくて、好きだな」
これ以上は耐えられなくて、伊織は宗一郎の肩をとんと小さく押した。
気付いた宗一郎が、伊織を見て瞳を細めて笑う。
「はは、ごめん。嫌だった?」
伊織は小さく首を振ることでそれに答える。
宗一郎は伊織の髪から手を放すと、綺麗な黒曜石の瞳を伊織に向けた。
「ねえ、伊織ちゃん。……昨日無理矢理抱きしめたこと、怒ってる?」
「お、怒ってないです、けど」
「けど?」
「い、いえ……」
自分もあのとき宗一郎の胸で甘えてしまったからおあいこだと、伊織は心の中だけで呟く。
こんなこと、恥ずかしくて宗一郎に言えるわけがない。
伊織はどきどきする心臓をなだめながら、宗一郎を見つめ返す。
「宗先輩こそ、急にそんなこと聞いてきてどうしたんですか?」
「うん。あれで嫌われちゃったらヤダなって思って」
「そんな! 嫌ったりなんてしないです!」
ここに入るのも6日ぶりだ。
鼻をかすめる埃っぽいにおいにさえ、なんだか懐かしさを感じる。
得点板を出すのはすっかり伊織の役目に定着してしまった。
伊織は得点板に歩み寄ると、それにそっと手を触れる。
ひんやりと心地よい冷たさが、手の平を通して伝わってくる。
手になじむこの感触に、伊織は戻ってきた実感を深くした。
「その感触が懐かしい?」
急に背後から声が聞こえて、伊織は驚いて振り返った。
確かめなくてもそれが誰だかわかる。
声を聞くと自然に早鐘を打ち始める心臓。
急激に熱のあがる体。
「そ、宗先輩!」
『好きだよ』とあの日囁かれた言葉が、急に耳元によみがえる。
あれから宗一郎に会うのは初めてだ。
どんな顔をしていいかわからず、伊織は顔を俯かせた。
顔が熱い。
心臓がうるさい。
困惑に思わず閉じた視界の中で、体育倉庫の扉の閉まる音がやけにはっきりと耳に届く。
伊織が目を開けると、宗一郎が感情の読めない顔で小さく微笑んでいた。
「そんなに怯えないで、伊織ちゃん。まあ、あんなこと言っちゃった後だし難しいかもしれないけど……普通にして?」
「あ、は、はい!」
扉の閉まった、体育倉庫に二人きり。
緊張して声が上ずってしまった。
宗一郎に変に思われなかっただろうか。
伊織は不安げに喉もとをさする。
「おはよう、伊織ちゃん。――元気に学校に来てくれてよかった」
「そ、宗先輩のおかげです! 昨日、宗先輩がわたしの話を聞いてくれたから……」
「……こんな俺でも伊織ちゃんの役に立てたならよかった。すごく嬉しいよ」
宗一郎の手が伊織の髪に触れた。
どきんと伊織の胸が飛び跳ねる。
宗一郎は伊織の髪をひと房手に取ると、それをもてあそぶように、さらさらと手の中から全て零してはまたそれを繰り返した。
顔のすぐ横に、宗一郎の大きな手がある。
髪の毛に神経が通っていないなんて絶対ウソだ。
だってこんなにも宗一郎の触れたところが、燃えるように熱い。
もどかしいような感触が伝わってきて、胸が苦しいくらいに締め付けられて、その熱に酔ってしまいそうになる。
「そ……せんぱい」
「伊織ちゃんの髪、綺麗だよね。こうするときらきら輝いて流れていくんだ。手触りもやわらかくて、好きだな」
これ以上は耐えられなくて、伊織は宗一郎の肩をとんと小さく押した。
気付いた宗一郎が、伊織を見て瞳を細めて笑う。
「はは、ごめん。嫌だった?」
伊織は小さく首を振ることでそれに答える。
宗一郎は伊織の髪から手を放すと、綺麗な黒曜石の瞳を伊織に向けた。
「ねえ、伊織ちゃん。……昨日無理矢理抱きしめたこと、怒ってる?」
「お、怒ってないです、けど」
「けど?」
「い、いえ……」
自分もあのとき宗一郎の胸で甘えてしまったからおあいこだと、伊織は心の中だけで呟く。
こんなこと、恥ずかしくて宗一郎に言えるわけがない。
伊織はどきどきする心臓をなだめながら、宗一郎を見つめ返す。
「宗先輩こそ、急にそんなこと聞いてきてどうしたんですか?」
「うん。あれで嫌われちゃったらヤダなって思って」
「そんな! 嫌ったりなんてしないです!」