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夢小説設定
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真っ青な空を小鳥が気持ちよさそうに両翼を広げて飛びまわっている。
綿菓子のような雲はゆったりと風に乗って流れていく。
その雲を動かすのと同じ風が、伊織の頬を柔らかく撫ぜていく。
ここは早朝の海南大学駅前。伊織はここで信長が来るのを待っていた。
伊織は一度腕時計に視線をやると、そのまま目を伏せる。
脳裏に昨日までのことがよみがえる。
テニスを失った過去。果たせなかった約束。傷つけてしまった家族たち。
振り返ればまだ胸は痛むけれど、でももう怖くはない。
宗一郎が受け止めてくれたから。
泣いていいと、自分を許していいと言ってくれたから。
あのとき大泣きしてから、どんよりとしていた霧が晴れたように、伊織の心はすっきりとしていた。
乗り越えるための強さは、ちょっとずつ、でも確実に伊織の中に芽生えてきている。
伊織は伏せていた顔をあげると、すがすがしい朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
なんだか生まれ変わったような心地がする。
いつもと同じ朝。いつもと同じ風景。
だけど、こちらの心ひとつ変わるだけで、世界は突然色鮮やかになって、こんなにも優しく見える。
学校に行くのは6日ぶりだ。
あの日からもうそんなに経っていたのかと、伊織はカレンダーを見て驚いた。
人形のようになっていたときの記憶はおぼろげであまりはっきりとしていない。
暗い暗い海の底で、ひとりで膝を抱えてすごしていたような錯覚さえある。
誰かたくさんの人たちの声が聞こえたことは覚えているけれど、それが誰なのかまではわからなかった。
ただ伊織の意識がこっちに戻ってきてから、家族が何日に誰がお見舞いに来てくれたのかということを教えてくれていたから、記憶としては残っていなくとも記録として覚ていた。
信長と仙道。
特にこの二人は伊織が人形のようになってからというもの、毎日お見舞いに来てくれていた。
(ちゃんとお礼しなきゃ……)
嬉しかった。
自分にはこんなにも心配してくれる人がいたのかと、すごく心強かった。
それに……。
(宗先輩……)
宗一郎の体温が急に思い出されて伊織は顔を赤くした。
まだ信じられない。
腕や頬にかすかに残る宗一郎の感触。
重ねるように伊織はそこに触れた。
耳元でよみがえる宗一郎の声。
『好きだよ』
「~~~~っ!」
脳裏に閃く記憶を散らすように、伊織は頭上で大きく手を振った。
突然のその行動に、行きかう人々がぎょっとして伊織を振り返る。
伊織はそれにも気付かずに今度は大きく頭を振った。
「なーにやってんだよ」
「わ」
首をちぎれんばかりに振っていた伊織の頭は、そんな声と共に誰かの手にがっちり掴まれた。
「ったく、朝っぱらから変な行動してんなよな~」
「ノブ!」
押さえつけられた手の隙間から頭上を窺い見れば、そこでは信長が眉を下げて笑っていた。
なんだか久しぶりに会う親友の顔に、伊織の顔が自然と綻ぶ。
「おはよう!」
「……おう」
信長は一度くしゃくしゃと伊織の頭を撫で回すと、その手を離してニカッと微笑んだ。
「来たな、ちゃんと」
「うん」
「……もう大丈夫か?」
綿菓子のような雲はゆったりと風に乗って流れていく。
その雲を動かすのと同じ風が、伊織の頬を柔らかく撫ぜていく。
ここは早朝の海南大学駅前。伊織はここで信長が来るのを待っていた。
伊織は一度腕時計に視線をやると、そのまま目を伏せる。
脳裏に昨日までのことがよみがえる。
テニスを失った過去。果たせなかった約束。傷つけてしまった家族たち。
振り返ればまだ胸は痛むけれど、でももう怖くはない。
宗一郎が受け止めてくれたから。
泣いていいと、自分を許していいと言ってくれたから。
あのとき大泣きしてから、どんよりとしていた霧が晴れたように、伊織の心はすっきりとしていた。
乗り越えるための強さは、ちょっとずつ、でも確実に伊織の中に芽生えてきている。
伊織は伏せていた顔をあげると、すがすがしい朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
なんだか生まれ変わったような心地がする。
いつもと同じ朝。いつもと同じ風景。
だけど、こちらの心ひとつ変わるだけで、世界は突然色鮮やかになって、こんなにも優しく見える。
学校に行くのは6日ぶりだ。
あの日からもうそんなに経っていたのかと、伊織はカレンダーを見て驚いた。
人形のようになっていたときの記憶はおぼろげであまりはっきりとしていない。
暗い暗い海の底で、ひとりで膝を抱えてすごしていたような錯覚さえある。
誰かたくさんの人たちの声が聞こえたことは覚えているけれど、それが誰なのかまではわからなかった。
ただ伊織の意識がこっちに戻ってきてから、家族が何日に誰がお見舞いに来てくれたのかということを教えてくれていたから、記憶としては残っていなくとも記録として覚ていた。
信長と仙道。
特にこの二人は伊織が人形のようになってからというもの、毎日お見舞いに来てくれていた。
(ちゃんとお礼しなきゃ……)
嬉しかった。
自分にはこんなにも心配してくれる人がいたのかと、すごく心強かった。
それに……。
(宗先輩……)
宗一郎の体温が急に思い出されて伊織は顔を赤くした。
まだ信じられない。
腕や頬にかすかに残る宗一郎の感触。
重ねるように伊織はそこに触れた。
耳元でよみがえる宗一郎の声。
『好きだよ』
「~~~~っ!」
脳裏に閃く記憶を散らすように、伊織は頭上で大きく手を振った。
突然のその行動に、行きかう人々がぎょっとして伊織を振り返る。
伊織はそれにも気付かずに今度は大きく頭を振った。
「なーにやってんだよ」
「わ」
首をちぎれんばかりに振っていた伊織の頭は、そんな声と共に誰かの手にがっちり掴まれた。
「ったく、朝っぱらから変な行動してんなよな~」
「ノブ!」
押さえつけられた手の隙間から頭上を窺い見れば、そこでは信長が眉を下げて笑っていた。
なんだか久しぶりに会う親友の顔に、伊織の顔が自然と綻ぶ。
「おはよう!」
「……おう」
信長は一度くしゃくしゃと伊織の頭を撫で回すと、その手を離してニカッと微笑んだ。
「来たな、ちゃんと」
「うん」
「……もう大丈夫か?」