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「そう、思うんですけど、でもわたしの存在が家族を、コーチを不幸にする……! わたしがいるからみんなが不幸になる……! それならいっそ消えてなくなりたいのに、でも、それもできない! みんなはそれでもこんなわたしを愛してくれてるから、わたしがいなくなったら悲しむから、だからできない……!」
怯えたように伊織は顔を押さえた。
わたしはみんなを愛している。
みんなもわたしを愛してくれている。
だから笑顔でいなければいけない。
そうすればみんなが幸せでいてくれるから。
でもわたしのせいでみんなは不幸になっていく。
わたしが存在しているから。
だから消えたいのに。
消えたらわたしを愛してくれているみんなが悲しむ。
出口がない。堂々巡りだった。
どうすればいいのかわからない。
苦しい。
どうすればいいのか。
伊織は自分の体をぎゅっと抱きしめた。
震えがとまらない。
息が吸えない。
苦しい。
足りない酸素を補おうと、呼吸が荒くなる。
「伊織ちゃん!」
伊織は強く宗一郎に腕を引かれた。
耳元で宗一郎の鼓動の音が聞こえる。
激しく上下する背中をなでてくれる、大きくてあたたかい手のひらを感じる。
そのぬくもりに後押しされるように、伊織はさらに言葉を続ける。
「わからないの。どうすればいいのか。ううん、ほんとうは笑顔でいるのが正解だってわかってる。だけど、笑顔でいればいるほど、胸が痛いの。どこかで声が聞こえるの。自分が原因でみんなを不幸にしておいて、よくも笑っていられるものだって、わたし自身がそう言うの。でも笑わなきゃ。そうでしょう? わたしが元気でいないと、家族は悲しむ。だから、笑わなきゃ……笑わなきゃ……!!」
どうすればいい。どうすれば。
何を選んでももうひとりの自分が囁く。
何も選び取れない。
激しいくらいの衝動がただ体の中を駆け巡るだけで。
何も選び取れない。
狂ってしまう。
このままでは狂ってしまう。
だれか……!
「伊織ちゃん!」
伊織は突然大きな声で名前を呼ばれ、ぐいと宗一郎に体を引き離された。
ずるずると暗闇の中に陥りそうになっていた伊織はそれでハッと我に返る。
「あ、宗……先輩……」
冷や汗が頬を伝う。
宗一郎の綺麗な黒曜石の瞳が、悲しげに揺れて細められる。
ふたたび伊織の頬に伸ばされる、宗一郎の大きくてあたたかい手。
優しいぬくもりが、そこから全身にめぐっていく。
「伊織ちゃん。いいんだよ、そんなに頑張らなくて。そんな風に自分をおいつめなくていいんだ」
「……宗先輩! でも、わたし、わたしが原因なのに……!」
「違うよ、伊織ちゃん」
「え?」
頬に触れる宗一郎の手、その親指が、愛おしむようにそこを小さく撫ぜる。
伊織のおでこに、こつんと宗一郎が自分のそれを合わせた。
至近距離で見つめられる瞳に、伊織の心臓が大きく跳ねる。
「伊織ちゃん。ちゃんと泣いた?」
「え?」
「そのことについて、ちゃんと泣いた? ケガをしたとき、コーチが泣いたとき、親戚にひどい誹謗中傷を浴びたとき、家族もそれを受けたとき。伊織ちゃん、ちゃんと泣いた?」
怯えたように伊織は顔を押さえた。
わたしはみんなを愛している。
みんなもわたしを愛してくれている。
だから笑顔でいなければいけない。
そうすればみんなが幸せでいてくれるから。
でもわたしのせいでみんなは不幸になっていく。
わたしが存在しているから。
だから消えたいのに。
消えたらわたしを愛してくれているみんなが悲しむ。
出口がない。堂々巡りだった。
どうすればいいのかわからない。
苦しい。
どうすればいいのか。
伊織は自分の体をぎゅっと抱きしめた。
震えがとまらない。
息が吸えない。
苦しい。
足りない酸素を補おうと、呼吸が荒くなる。
「伊織ちゃん!」
伊織は強く宗一郎に腕を引かれた。
耳元で宗一郎の鼓動の音が聞こえる。
激しく上下する背中をなでてくれる、大きくてあたたかい手のひらを感じる。
そのぬくもりに後押しされるように、伊織はさらに言葉を続ける。
「わからないの。どうすればいいのか。ううん、ほんとうは笑顔でいるのが正解だってわかってる。だけど、笑顔でいればいるほど、胸が痛いの。どこかで声が聞こえるの。自分が原因でみんなを不幸にしておいて、よくも笑っていられるものだって、わたし自身がそう言うの。でも笑わなきゃ。そうでしょう? わたしが元気でいないと、家族は悲しむ。だから、笑わなきゃ……笑わなきゃ……!!」
どうすればいい。どうすれば。
何を選んでももうひとりの自分が囁く。
何も選び取れない。
激しいくらいの衝動がただ体の中を駆け巡るだけで。
何も選び取れない。
狂ってしまう。
このままでは狂ってしまう。
だれか……!
「伊織ちゃん!」
伊織は突然大きな声で名前を呼ばれ、ぐいと宗一郎に体を引き離された。
ずるずると暗闇の中に陥りそうになっていた伊織はそれでハッと我に返る。
「あ、宗……先輩……」
冷や汗が頬を伝う。
宗一郎の綺麗な黒曜石の瞳が、悲しげに揺れて細められる。
ふたたび伊織の頬に伸ばされる、宗一郎の大きくてあたたかい手。
優しいぬくもりが、そこから全身にめぐっていく。
「伊織ちゃん。いいんだよ、そんなに頑張らなくて。そんな風に自分をおいつめなくていいんだ」
「……宗先輩! でも、わたし、わたしが原因なのに……!」
「違うよ、伊織ちゃん」
「え?」
頬に触れる宗一郎の手、その親指が、愛おしむようにそこを小さく撫ぜる。
伊織のおでこに、こつんと宗一郎が自分のそれを合わせた。
至近距離で見つめられる瞳に、伊織の心臓が大きく跳ねる。
「伊織ちゃん。ちゃんと泣いた?」
「え?」
「そのことについて、ちゃんと泣いた? ケガをしたとき、コーチが泣いたとき、親戚にひどい誹謗中傷を浴びたとき、家族もそれを受けたとき。伊織ちゃん、ちゃんと泣いた?」