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夢小説設定
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ぼんやりと水の膜に覆われていたような視界が徐々にクリアになっていく。
まわりの音が次第に戻ってくる。
はっきりと見えたその視界に捉えたのは、愛しいその人。
「そ、宗先輩!」
伊織は思わず目の前の宗一郎に抱きついた。
しっかり受け止めてくれる力強い腕を感じる。
宗一郎のかおりが鼻腔をくすぐる。
夢じゃない。
幻じゃない。
全身で感じる。
たしかに宗一郎はここにいる。
「せ、せんぱい……っ!」
小さく震える伊織の体を安心させるように、宗一郎が囁く。
「伊織ちゃん、遅くなってごめんね」
「宗先輩……!」
ぎゅっと宗一郎を掴む手に力を込めた。
そうして現実感を取り戻した頭に、次に襲ってくるのは恐怖だった。
目を逸らし続けてきた記憶。
それが伊織を一気に取り囲む。
真っ暗な闇のなかに、ひとりぼっちで取り残されるような感覚。
伊織は恐怖に体を震わせて、宗一郎にすがりつくようにさらに身を寄せた。
「宗先輩……こわい……! わ、わたし、どうしたらいいかわからないの……! わたし、わたし……!」
脳裏にひらめく、家族の顔。コーチの顔。仙道の顔。
みんなみんな悲しそうに歪んでいる。
原因は自分。
自分の存在。
だけど。
伊織の瞳が見開かれる。
わからない。
どうしたらいいのか。
伊織は混乱した頭で訴える。
「わたし、ちゃんとわかってる……。愛されてるの。家族に、コーチに、彰さんに……! テニスを失っても、与えてくれる愛情は変わらない。だってみんなはテニスプレーヤーのわたしだけじゃなくて、わたし自身も愛してくれてる。それはわかるのに、それはわかるのに……! だからこそ笑顔でいなきゃって、わたしが悲しい顔していたらみんなが悲しむから、だからいつでも笑顔でいなきゃって……」
そう。誰もみんな愛する人が幸せでいてくれるのは、笑顔でいてくれるのは喜びだから。
だから愛してくれるみんなに報いるためにも、笑顔でいなくてはいけない。
元気でいなくてはいけない。
だけど。
よぎる、親戚たちの顔。
向けられる家族への誹謗中傷。
それだけじゃない。
気付かないフリをしてたけど、本当は知ってる。
雑誌でコーチが叩かれていたこと。
教育方針が悪かったのだと言われていたこと。
そして、仙道との守れなかった約束。
中途半端な状態のまま自分はさっさと離脱して、仙道たったひとりだけを袋小路に取り残した。
すべては伊織ひとりの責任なのに。
苦しむのは自分の大切なひとたちだった。
伊織の体が震えだす。
吐き気が込み上げる。
「伊織ちゃん」
脂汗のにじむ伊織に気付いた宗一郎が、体を離して伊織の顔を覗き込んだ。
青白い伊織の頬に、宗一郎の大きな手が気遣うように触れる。
あたたかいぬくもり。安心する。
ゆっくりと吐き気が落ち着いていく。
伊織は小さく息をつくと言葉を続ける。
まわりの音が次第に戻ってくる。
はっきりと見えたその視界に捉えたのは、愛しいその人。
「そ、宗先輩!」
伊織は思わず目の前の宗一郎に抱きついた。
しっかり受け止めてくれる力強い腕を感じる。
宗一郎のかおりが鼻腔をくすぐる。
夢じゃない。
幻じゃない。
全身で感じる。
たしかに宗一郎はここにいる。
「せ、せんぱい……っ!」
小さく震える伊織の体を安心させるように、宗一郎が囁く。
「伊織ちゃん、遅くなってごめんね」
「宗先輩……!」
ぎゅっと宗一郎を掴む手に力を込めた。
そうして現実感を取り戻した頭に、次に襲ってくるのは恐怖だった。
目を逸らし続けてきた記憶。
それが伊織を一気に取り囲む。
真っ暗な闇のなかに、ひとりぼっちで取り残されるような感覚。
伊織は恐怖に体を震わせて、宗一郎にすがりつくようにさらに身を寄せた。
「宗先輩……こわい……! わ、わたし、どうしたらいいかわからないの……! わたし、わたし……!」
脳裏にひらめく、家族の顔。コーチの顔。仙道の顔。
みんなみんな悲しそうに歪んでいる。
原因は自分。
自分の存在。
だけど。
伊織の瞳が見開かれる。
わからない。
どうしたらいいのか。
伊織は混乱した頭で訴える。
「わたし、ちゃんとわかってる……。愛されてるの。家族に、コーチに、彰さんに……! テニスを失っても、与えてくれる愛情は変わらない。だってみんなはテニスプレーヤーのわたしだけじゃなくて、わたし自身も愛してくれてる。それはわかるのに、それはわかるのに……! だからこそ笑顔でいなきゃって、わたしが悲しい顔していたらみんなが悲しむから、だからいつでも笑顔でいなきゃって……」
そう。誰もみんな愛する人が幸せでいてくれるのは、笑顔でいてくれるのは喜びだから。
だから愛してくれるみんなに報いるためにも、笑顔でいなくてはいけない。
元気でいなくてはいけない。
だけど。
よぎる、親戚たちの顔。
向けられる家族への誹謗中傷。
それだけじゃない。
気付かないフリをしてたけど、本当は知ってる。
雑誌でコーチが叩かれていたこと。
教育方針が悪かったのだと言われていたこと。
そして、仙道との守れなかった約束。
中途半端な状態のまま自分はさっさと離脱して、仙道たったひとりだけを袋小路に取り残した。
すべては伊織ひとりの責任なのに。
苦しむのは自分の大切なひとたちだった。
伊織の体が震えだす。
吐き気が込み上げる。
「伊織ちゃん」
脂汗のにじむ伊織に気付いた宗一郎が、体を離して伊織の顔を覗き込んだ。
青白い伊織の頬に、宗一郎の大きな手が気遣うように触れる。
あたたかいぬくもり。安心する。
ゆっくりと吐き気が落ち着いていく。
伊織は小さく息をつくと言葉を続ける。