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夢小説設定
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自分がどれほど伊織を大切に思っていても、伊織が望まないことをやっていれば、それはただの自己満足に過ぎなかった。
そのことに、今はっきりと仙道は気がついた。
「どうする、神。それでもまだお前はここでウジウジしてるか?」
「…………」
視線をさまよわせて戸惑う宗一郎に、仙道は座っていた柵から腰をあげた。
「まあ、それならそれでオレは構わないが。――もしかしたら、伊織ちゃんはいなくなっちゃうかもな」
「え?」
「前も、そうだったんだ。前も……」
「前……?」
仙道はゆっくり瞳を閉じる。
今でも鮮明に思い出せる、伊織のいなくなった日のこと。
「伊織ちゃんがケガを負ったとき……。オレも、今のお前みたいに伊織ちゃんに会いに行けなかった。会っても何言っていいかわからなくて、ましてオレに伊織ちゃんを支えられるのかって……。でもそうやって迷って、逃げて、何日も会わないでいるうちに、いつのまにか伊織ちゃんは引越しちまった」
「――!」
「行き先も連絡先もわからなくて。当然探すこともできない。そうなったら後悔したって遅いんだ。オレはまたこうして運良く再会できたけど、ほんとうだったらもう一生会えなかった……」
仙道は瞠目したままの宗一郎の瞳を真剣に見つめる。
「なあ、神。お前はそれでいいのか? 今ならまだ間に合うのに、このまま何もしないで、そんな風に伊織ちゃんと会えなくなって、お前はほんとうにそれでいいのか?」
「仙道……」
「ちなみに、伊織ちゃんはオレにもなんにも反応を返してくれない。伊織ちゃんは、多分お前を待ってるんだ。ずっと」
「…………」
しばらく沈黙があたりを包んだあと、宗一郎が迷いが取れたような静かな顔つきで唇を持ち上げた。
「俺、伊織ちゃんに会いに行ってくる」
言ってゆっくりと立ち上がる。
「ありがとう、仙道」
真剣な顔でお礼を言ってくる宗一郎に、仙道は苦笑する。
「お礼ならノブナガくんに言ってやって。オレはノブナガくんに言われるまで、神を説得する気なんてさらさらなかったんだ」
「はは、わかった」
小さく笑って宗一郎が自転車に向かって歩き出す。
その背中を引き止めたいような送り出したいような複雑な気持ちで見つめて、仙道は口を開く。
自分にはできなかったことを、宗一郎に託して。
「神」
宗一郎が振り返る。
「伊織ちゃんを頼むな」
真剣な表情で小さく頷いて、自転車にまたがり走り出す宗一郎の背中を見送ると、仙道はもう一度ブランコの柵に腰を降ろした。
空を見上げる。
(そろそろ潮時だよなあ……)
仙道の口許に淋しげな笑みが浮かんだ。
きっとこれでもう伊織は大丈夫だろう。
宗一郎が行けば、きっといつもの元気な伊織に戻るはずだ。
もう結果なんて、火を見るより明らかだった。
それなのにどうしてなんだろう。
こんな決定的な事実を目の前にしても。
(なんでまだあきらめがつかないんだろうな)
仙道の口許に自嘲が浮かぶ。
いい加減しつこいって自分でも思うのに。
それでもまだめだった。
まだ区切りがつけられない。
もう少し。
もう少しだけ。
(ごめんね、伊織ちゃん。あともう少しだけ頑張らせて……)
思って仙道は小さく息を吐き出すと、しばらくの間そこで星を眺めた。
伊織の家までの距離がひどくもどかしく感じた。
宗一郎はペダルをこぐ足に力を入れる。
伊織に会いたい。
すごく伊織に会いたかった。
みんなが言うように伊織が自分を待ってるだなんて、そんなの全然思えないけど。
伊織に本当に自分が必要かどうかなんて、そんなの全然自信がないけれど。
でも気付いたから。
ただ逃げてるだけだったって。
仙道と信長が気付かせてくれたから。
(俺はまだ、俺にできることを何一つやってない)
会って逃げられてもいい。
怯えられてもいい。
自分のことを覚えてなくても……いい。
会わなきゃなにも始まらないのに、大事な事を忘れてた。
自分は伊織が大切で、その笑顔を守りたい。
(できるなら伊織ちゃんの一番近くで、ずっと見守っていきたいんだ)
だから。
宗一郎は決意を新たにペダルをこいだ。
伊織の家はもうすぐそこだ。
To be continued…
そのことに、今はっきりと仙道は気がついた。
「どうする、神。それでもまだお前はここでウジウジしてるか?」
「…………」
視線をさまよわせて戸惑う宗一郎に、仙道は座っていた柵から腰をあげた。
「まあ、それならそれでオレは構わないが。――もしかしたら、伊織ちゃんはいなくなっちゃうかもな」
「え?」
「前も、そうだったんだ。前も……」
「前……?」
仙道はゆっくり瞳を閉じる。
今でも鮮明に思い出せる、伊織のいなくなった日のこと。
「伊織ちゃんがケガを負ったとき……。オレも、今のお前みたいに伊織ちゃんに会いに行けなかった。会っても何言っていいかわからなくて、ましてオレに伊織ちゃんを支えられるのかって……。でもそうやって迷って、逃げて、何日も会わないでいるうちに、いつのまにか伊織ちゃんは引越しちまった」
「――!」
「行き先も連絡先もわからなくて。当然探すこともできない。そうなったら後悔したって遅いんだ。オレはまたこうして運良く再会できたけど、ほんとうだったらもう一生会えなかった……」
仙道は瞠目したままの宗一郎の瞳を真剣に見つめる。
「なあ、神。お前はそれでいいのか? 今ならまだ間に合うのに、このまま何もしないで、そんな風に伊織ちゃんと会えなくなって、お前はほんとうにそれでいいのか?」
「仙道……」
「ちなみに、伊織ちゃんはオレにもなんにも反応を返してくれない。伊織ちゃんは、多分お前を待ってるんだ。ずっと」
「…………」
しばらく沈黙があたりを包んだあと、宗一郎が迷いが取れたような静かな顔つきで唇を持ち上げた。
「俺、伊織ちゃんに会いに行ってくる」
言ってゆっくりと立ち上がる。
「ありがとう、仙道」
真剣な顔でお礼を言ってくる宗一郎に、仙道は苦笑する。
「お礼ならノブナガくんに言ってやって。オレはノブナガくんに言われるまで、神を説得する気なんてさらさらなかったんだ」
「はは、わかった」
小さく笑って宗一郎が自転車に向かって歩き出す。
その背中を引き止めたいような送り出したいような複雑な気持ちで見つめて、仙道は口を開く。
自分にはできなかったことを、宗一郎に託して。
「神」
宗一郎が振り返る。
「伊織ちゃんを頼むな」
真剣な表情で小さく頷いて、自転車にまたがり走り出す宗一郎の背中を見送ると、仙道はもう一度ブランコの柵に腰を降ろした。
空を見上げる。
(そろそろ潮時だよなあ……)
仙道の口許に淋しげな笑みが浮かんだ。
きっとこれでもう伊織は大丈夫だろう。
宗一郎が行けば、きっといつもの元気な伊織に戻るはずだ。
もう結果なんて、火を見るより明らかだった。
それなのにどうしてなんだろう。
こんな決定的な事実を目の前にしても。
(なんでまだあきらめがつかないんだろうな)
仙道の口許に自嘲が浮かぶ。
いい加減しつこいって自分でも思うのに。
それでもまだめだった。
まだ区切りがつけられない。
もう少し。
もう少しだけ。
(ごめんね、伊織ちゃん。あともう少しだけ頑張らせて……)
思って仙道は小さく息を吐き出すと、しばらくの間そこで星を眺めた。
伊織の家までの距離がひどくもどかしく感じた。
宗一郎はペダルをこぐ足に力を入れる。
伊織に会いたい。
すごく伊織に会いたかった。
みんなが言うように伊織が自分を待ってるだなんて、そんなの全然思えないけど。
伊織に本当に自分が必要かどうかなんて、そんなの全然自信がないけれど。
でも気付いたから。
ただ逃げてるだけだったって。
仙道と信長が気付かせてくれたから。
(俺はまだ、俺にできることを何一つやってない)
会って逃げられてもいい。
怯えられてもいい。
自分のことを覚えてなくても……いい。
会わなきゃなにも始まらないのに、大事な事を忘れてた。
自分は伊織が大切で、その笑顔を守りたい。
(できるなら伊織ちゃんの一番近くで、ずっと見守っていきたいんだ)
だから。
宗一郎は決意を新たにペダルをこいだ。
伊織の家はもうすぐそこだ。
To be continued…