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夢小説設定
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「伊織」
信長が名前を呼ぶと、伊織がゆっくりとふりむいた。
光を宿さない瞳で、じっと信長を見つめる。
信長はベッド脇にあるイスに腰掛けると、伊織に話しかけた。
朝のショートホームルームで松本が言ったバカな事。今日の授業の内容。それから部活の練習メニュー。それから、それから……。
伊織は聞いているのかいないのかわからない表情で、じっと信長を見つめていた。
にこりとも笑わない。
ぴくりとも表情を動かさない。
ただ無機的に呼吸をくりかえして、時折まばたきをしているだけ。
「伊織……っ!」
信長は胸がつまってたまらなくなって、立ち上がり伊織を抱きしめた。
ぎゅっと力を込めて抱きしめても、伊織はやめてくれとも言わない。
いつもの伊織なら、こんなことしたらパンチのひとつでも飛んでくるだろうに。
いや、もしかするとボコボコにされてるかもしれない。
それなのに今の伊織は、身じろぎひとつしなかった。
(なんだよこれ……! こんなの、お前らしくないだろ!?)
腕の中の折れそうなほど細いその体に、信長の胸が余計苦しくなる。
「伊織……! 今オレお前のこと抱きしめてるんだぞ!? やめてくれって言えよ! ……笑ってくれよ! いつもみたいにオレのことバカにしてはしゃげよ! なあ!」
信長はやりきれない思いをぶつけるように、伊織を抱く腕に力を込める。
「――なんで、オレじゃダメなんだよ……。なんで……! こんなに、こんなに伊織のこと好きなのに! 伊織!」
信長は伊織を抱きしめる腕を解くと、なんの感情もうつさないその顔をじっと見つめた。
信長の頬を幾筋も涙が流れ落ちる。
「伊織……」
見ていられなくなって思わず信長が目を閉じたとき、突然頬にぬくもりを感じた。
驚いて信長が目を開けると、伊織が無表情で信長の頬に手を伸ばしていた。
うつろな瞳で信長の頬を流れる涙を見て、ゆっくりとそれをぬぐう。
信長の胸が、潰れるようにしめつけられた。
「伊織……!」
自分の頬に触れる伊織の手を信長はぎゅっと握り締めた。
脳裏によみがえる、いつもの日常。
伊織が怒って、はしゃいで、膨れて、拗ねて、驚いて、ときどき泣いて、そして弾けるような笑顔で笑う。
いつもあんなにそばにあったのに……。
信長は苦しいくらい自分の無力さを痛感した。
何もしてやれない。
伊織のために、自分はなにもしてやれない。
伊織は、こんなになってまでも自分の涙をぬぐってくれるのに。
「伊織……」
信長は伊織をもう一度抱きしめた。
苦しい。
胸が痛い。
好きなのに。
こんなに好きなのに。
その笑顔を影ながら守るって誓ったのに。
それなのに!
(どうしてオレは、こんなにも無力なんだ……!)
再び信長の頬を涙が流れ落ちる。
「伊織、ごめんな……! オレ、何の力にもなってやれなくて……。神さんもセンドーも、説得……できなくて。お前は神さんを待ってるのに、なのに……! オレ、本当にお前に何もしてやれない……! ごめんな……!」