『うまく騙されたよ。なあ、真幸。あんたもとんだはずれくじをつかまされたもんだなぁ』
『なっ！』

あまりのことに絶句する父。
今度はその前に、弟たちが立ちはだかる。

『やめろよ！　ねーちゃんも父さんも母さんも、悪く言うなんて許さないぞ！』
『そうだ！　そんなの言いがかりだ！』
『へえ。出来損ないがまた二人……か。お前たちのせいで、伊織に与えられるはずだった健全な遺伝子が弱まってこんなことになったんだろ？　お前たちの両親は、お前たちを生んだことすらも失敗だったんだ。それともなんだ？　お前たちが伊織の分まで有名になって稼いで、俺たちに楽させてくれるのか？　お前たちの容姿ならアイドルになってそこそこ稼ぐくらいできるだろう。しかも同じ顔が二つあるんだ。なあ、お金が入るなら、俺たちは別にそれで構わないんだぜ？』

愕然と涙を滲ませる月と星。
家族に向けられた言葉が、すべて冷たい刃となって伊織の心を切り刻んだ。
どうして。
わたしのせいで。
どうして家族までこんなことを言われなければならない。
愛した家族が、わたしのせいで苦しんでいく。不幸になっていく。
どうして。
違う。
そうじゃない。
そうじゃないんだ。
全部、わたしのせいなのに。
そう。その理論で行くのなら。
すべてわたしが生まれてこなければ。

（わたしさえ、いなければ……！）

そう思ったとき、ぐるんと世界が反転した。
胃がひっくり返ったようになって、耐え難い吐き気がこみあげてくる。
体の中をなにかがめまぐるしく走り回ってるみたいな衝動を感じる。
気持ち悪い。狂ってしまいそうだ。
どうか。
消して。
誰かお願い。
どうか、わたしを。

（消して……！）




ハッと、伊織は目を開けた。
夢を、見た。
あの、悪夢の一日。
そうだった。思い出した。

（わたし…………）

どうしていままであんな大切なこと忘れていたんだろう。
家族を苦しめて不幸にしておいて、自分はそんなこと忘れてへらへら笑って過ごしていたなんて。
自分自身が信じられなかった。
伊織の心が冷たく冷えていく。
全ての感覚が遠ざかっていく。
もう何も見たくない。聞きたくない。消えてしまいたい。
伊織の光を宿さない瞳から、涙が一滴零れ落ちた。