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伊織が笑顔を望んだ愛してやまない人たちが、ひとり残らず泣いている。
「あ、はは……。あははは」
どうしていいかわからなくて。
気付いたら伊織は力なく笑っていた。
ちっともおかしくなんてないのに。
胸は絶望で溢れているのに。
なんでだろう。
感情が極限まで振り切れるとひとは思わず笑ってしまうものなんだと、伊織はこのときはじめて知った。
それからの数日間も、伊織は普通に日常を過ごしていた。
朝起きて、学校に行って、帰って、寝る。
ただそこにテニスがないだけ。
そんな日常を過ごしていた。
伊織の胸はぽっかりと穴が開いたようになっていて、不思議とあれからも涙は出なかった。
でもそのかわり、何を見ても何も感じなかった。
大好きだったテレビ番組を見ても、いつも頭に来る上り坂も、思わず口ずさんでしまう歌を聴いても。
ぴくりとも心が動かなかった。
でも、伊織はテレビ番組を見れば笑うし、上り坂を見たら眉をあげるし、歌を聴いたら口ずさんだ。
心は動かなくても、タイミングは覚えている。
ここで笑わなければ。怒らなければ。口ずさまなければ。
家族が心配する。
家族はあの診察室で泣き崩れたのを最後に、伊織の前では決して涙を見せなかった。
時折伊織のいないときに、すすり泣く声を聞いたりはしたけれど。
伊織の前では気丈に、今までどおりに振舞ってくれていた。
伊織がテニスでプロになるために、多額の費用を注ぎ込んでくれた両親。
それが一瞬で水の泡となっても、文句ひとつ言わなかった。
テニスが強くていつも自慢の姉ちゃんだと言ってくれていた弟たち。
テニスができなくなったあの日以降も、自慢だと、大好きだと言い続けてくれていた。
これ以上ない裏切りをした自分を、あたたかく受け入れてくれていた。
変わらずに愛してくれていた。
そんな家族たちを、もう二度と悲しませたくなんてなかった。
だけど。
ある日曜日、荒々しいチャイムの音が家に鳴り響いた。
びくりと家族全員がその身を震わせた。
雑誌記者かと身を硬くした父が、インターホンを確認する。
正体は親戚たちだった。
何度も何度も激しく鳴らされるチャイムの音に、父が焦ったように親戚たちを中に引き入れて。
何事かと顔を出した伊織は、激しく突き飛ばされた。
『何をへらへら笑ってんだいこの子は!』
『あんた、くだらないケガをしてテニスができなくなったっていうのは本当なのかい!?』
呆然とする伊織。
かばうようにその前に立つ家族。
吐き出される、言葉の刃。
『金食い虫! あんたを生かすのに、あんたの両親はいったいいくら使えばいいんだい! まさかこの先も生きて、学費やなんかで金を使わせようっていうのかい!?』
『よくあんなことになって生きてられるねぇ。期待させるだけさせといて、結局金だけ浪費して何も残さず消えただけかい。私だったらとても恥ずかしくて世間様に顔向けできないよ』
『俺、あんたの賞金あてにしてたんだよね。将来高い車乗ってイイオンナととっかえひっかえ楽しむつもりだったのに、どうしてくれんだよ?』
『テニス以外なんの取り得もないクセして、ほんとうに憐れだな』
『生きる価値も意味もない、この抜け殻!』
『肩じゃなくて、いっそのこと頭でも打って死んでしまえば、お前も楽だったのに……かわいそうにな』
『やめてくださいっ!』
泣き叫ぶ母の声。
矛先は、家族に向かう。
『なんだい、美奈子さん。元はといえばあんたが悪いんだろ!? あんたが欠陥品のくせにうちの真幸をたぶらかして、こんなことになったんだろ!?』
愕然と目を見開く母の前に、父が立ちはだかる。
『姉さん、何言ってるんだ! やめてくれ! そんなわけないだろう!? 結婚したときはいい嫁をもらったってあんなに言ってたじゃないか』
「あ、はは……。あははは」
どうしていいかわからなくて。
気付いたら伊織は力なく笑っていた。
ちっともおかしくなんてないのに。
胸は絶望で溢れているのに。
なんでだろう。
感情が極限まで振り切れるとひとは思わず笑ってしまうものなんだと、伊織はこのときはじめて知った。
それからの数日間も、伊織は普通に日常を過ごしていた。
朝起きて、学校に行って、帰って、寝る。
ただそこにテニスがないだけ。
そんな日常を過ごしていた。
伊織の胸はぽっかりと穴が開いたようになっていて、不思議とあれからも涙は出なかった。
でもそのかわり、何を見ても何も感じなかった。
大好きだったテレビ番組を見ても、いつも頭に来る上り坂も、思わず口ずさんでしまう歌を聴いても。
ぴくりとも心が動かなかった。
でも、伊織はテレビ番組を見れば笑うし、上り坂を見たら眉をあげるし、歌を聴いたら口ずさんだ。
心は動かなくても、タイミングは覚えている。
ここで笑わなければ。怒らなければ。口ずさまなければ。
家族が心配する。
家族はあの診察室で泣き崩れたのを最後に、伊織の前では決して涙を見せなかった。
時折伊織のいないときに、すすり泣く声を聞いたりはしたけれど。
伊織の前では気丈に、今までどおりに振舞ってくれていた。
伊織がテニスでプロになるために、多額の費用を注ぎ込んでくれた両親。
それが一瞬で水の泡となっても、文句ひとつ言わなかった。
テニスが強くていつも自慢の姉ちゃんだと言ってくれていた弟たち。
テニスができなくなったあの日以降も、自慢だと、大好きだと言い続けてくれていた。
これ以上ない裏切りをした自分を、あたたかく受け入れてくれていた。
変わらずに愛してくれていた。
そんな家族たちを、もう二度と悲しませたくなんてなかった。
だけど。
ある日曜日、荒々しいチャイムの音が家に鳴り響いた。
びくりと家族全員がその身を震わせた。
雑誌記者かと身を硬くした父が、インターホンを確認する。
正体は親戚たちだった。
何度も何度も激しく鳴らされるチャイムの音に、父が焦ったように親戚たちを中に引き入れて。
何事かと顔を出した伊織は、激しく突き飛ばされた。
『何をへらへら笑ってんだいこの子は!』
『あんた、くだらないケガをしてテニスができなくなったっていうのは本当なのかい!?』
呆然とする伊織。
かばうようにその前に立つ家族。
吐き出される、言葉の刃。
『金食い虫! あんたを生かすのに、あんたの両親はいったいいくら使えばいいんだい! まさかこの先も生きて、学費やなんかで金を使わせようっていうのかい!?』
『よくあんなことになって生きてられるねぇ。期待させるだけさせといて、結局金だけ浪費して何も残さず消えただけかい。私だったらとても恥ずかしくて世間様に顔向けできないよ』
『俺、あんたの賞金あてにしてたんだよね。将来高い車乗ってイイオンナととっかえひっかえ楽しむつもりだったのに、どうしてくれんだよ?』
『テニス以外なんの取り得もないクセして、ほんとうに憐れだな』
『生きる価値も意味もない、この抜け殻!』
『肩じゃなくて、いっそのこと頭でも打って死んでしまえば、お前も楽だったのに……かわいそうにな』
『やめてくださいっ!』
泣き叫ぶ母の声。
矛先は、家族に向かう。
『なんだい、美奈子さん。元はといえばあんたが悪いんだろ!? あんたが欠陥品のくせにうちの真幸をたぶらかして、こんなことになったんだろ!?』
愕然と目を見開く母の前に、父が立ちはだかる。
『姉さん、何言ってるんだ! やめてくれ! そんなわけないだろう!? 結婚したときはいい嫁をもらったってあんなに言ってたじゃないか』