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星の瞳から涙がこぼれた。
叫ぶ拍子に、それはしぶきとなって飛んでいく。
「有望選手がケガで選手生命絶たれんのなんか、あんたら記者にとっちゃよくある悲劇のひとつなのかもしんねえけど、当事者にとったら今までの人生ひっくり返るようなでっけえ出来事なんだよ、想像くらいできんだろ!?」
星はちらりと伊織を視界に入れた。
視界の中の伊織は、ぴくりとも表情を変えない。
まるで、感情の糸が切れたように立ち尽くしている。
「ちくしょう……ちくしょう! 他人の痛みに慣れてんじゃねえよ! 他人の痛みになれて、鈍くなってんじゃねえよ!!」
星は渾身の力を込めて月を振り払うと、中村に殴りかかった。
もうすぐで中村に当たるというところで、思わぬ人物に止められた。
「星! 何やってるの? やめなさい!」
伊織は目の前で弟が人に殴りかかろうとしているのを見て、慌ててその間に入った。
星が、伊織を見てぽかんと呆気にとられたように大口を開けている。
星だけじゃない、見覚えのない顔がいくつもこちらを見て驚いたように表情を止めていた。
伊織はその異様な光景に一瞬息を呑むが、星の声にハッと我に返った。
「ねえ……ちゃん?」
「そうだよ、お姉ちゃんだよ? 星、いったいどうしたの? その人、誰? いったいなにしたのか知らないけど、人を殴るなんて絶対ダメよ、ね?」
「な、に言ってんだよ、ねーちゃん! 人がいいにも程があるよ! だってこいつねーちゃんの過去を……!」
「過去? なんのこと?」
伊織は星が何を言ってるのかわからなくて、首をかしげた。
過去?
伊織には、隠さなきゃいけないような過去なんてひとつもない。
疑問符を浮かべて首をかしげる伊織に、月も星も、困惑したような表情でこちらを見ている。
伊織はなんだか気味が悪くなって眉根を寄せた。
「な、なに? 月も星も、なんかこわいよ……?」
「ねーちゃん……。何言ってんだよ。しっかりしろよ、こいつ、この記者、ねーちゃんのこと……」
「記者ぁ!?」
そこで伊織が素っ頓狂な声をあげた。
「え、記者だったんですか? 取材? あ、まさか隠し撮り?」
「え?」
急に話の矛先を向けられて、中村がしどろもどろと言葉をつなぐ。
「え? えーと……」
「コーチに許可とってますか? コーチの許可があれば写真でもインタビューでもなんでも応えるんですけど、うちのコーチ、許可がないのにそういうことすると、すっごく怒るんですよ……。この前もそれでコーチと大喧嘩しちゃって、練習メニュー1.5倍にされたんで、残念ですが許可がない人にはご協力できません。コーチの許可を先にお願いします」
言って伊織はぺこりと頭を下げた。
その肩を急に誰かにがしりと掴まれる。
「伊織ちゃん!? どうしたの、何言ってるの伊織ちゃん?」
必死に自分の顔を覗き込んでくる顔。
整った柔和な顔立ちに、大きな黒い瞳。色白の肌。
誰だろう。見覚えがない。
伊織は恐怖を感じて、掴まれた肩を振り払った。
怯えたように一歩後ずさると、相手の綺麗な黒曜石の瞳に、困惑の色が浮かぶ。