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「伊織ちゃん、さっき元気なさそうだったから。笑顔が見れて安心した」
「!」
伊織の胸がどきんと音を立てる。
嬉しい。心配してくれてたなんて。
たとえそれが、みんなに与えられる優しさなんだとしても、そんなこと今はもうどうでもよかった。
今だけは、宗一郎は自分だけを心配してくれている。
このときだけは、宗一郎は自分だけのものだった。
伊織は速度を上げる鼓動をごまかす様にてへっと笑う。
「あ、いや、ちょっと試合前で緊張してて……」
「そっか。ならよかった。でもさ、伊織ちゃん大丈夫?」
「え? なにがですか?」
質問の意味がわからなくて伊織は首をかしげる。
宗一郎が言いにくそうに口をもごもご動かした。
「あーいや、伊織ちゃん、あんまり運動得意そうに見えないから……」
「ええ!? そんなことないですよ、こう見えてけっこう運動神経いいですよ!?」
え、なんでそう見えるんですか、と衝撃を隠せない様子で言う伊織に、信長がケッと悪態をつく。
「なんでもなにも、いっつもどっかにぶつかったり転んだりしてるからだろ。運動神経いいやつはそういうことしねぇんだよ」
「ええ!? そっかな。そうなんですか、宗先輩」
「うーん……。まあ、ノブの言うとおり、ちょっと少ないかもね」
「そ、そっか、そういうもんなんだ……」
なんとなくショックな気持ちになって、伊織は顔を押さえた。
いや、たしかにもう競技としてのテニスを諦めなくてはいけなくなっているけれど、運動神経まで失ったわけではない。
というよりも、物心ついたときからずっと、こけたりぶつかったりは日常茶飯事だった。
今まではテニスの方が有名で一人歩きしていたから、運動神経が鈍そうなんて言われたことがなかったけれど。
(そっか。テニスがなくなると普段の行動はただのおニブさんに見えちゃうんだ、うわなんか衝撃の事実だ……)
それだけが唯一のとりえだったのになぁと顔を伏せてぼんやり思う伊織の頭を、宗一郎が優しく撫でる。
「大丈夫? なんかごめん、ショックなこと言っちゃった?」
「いえ、いいんです大丈夫です……。実際ちょっとわたし自分でもドジかなって思ったりしますし……」
「はは。そこがいいんだよ、伊織ちゃんは。でも、運動得意なんでしょ? 俺、ノブとここで見てるからさ、かっこいいとこ見せてよ」
「……はい!」
伊織は元気よく返事をしてコートへと入っていった。
さっきはハイなんて調子よく返事をしたけど、ほんとうはそんなに目立つつもりはなかった。
あんまり活躍して悪目立ちして、万が一自分に気付く人が出てきてしまったら困るからだ。
伊織はインタビューなどでテニス雑誌にも載ったりしているし、テニス雑誌じゃなくても注目のジュニア選手! とかいう特集記事でスポーツ雑誌や新聞の端っこのほうに載ったこともある。
そのときの記事を見ていた人が、ここの生徒にいるかもしれない。
昔のことは触れられたくない。まだ向き合えない。危険なことは避けるつもりだった。
試合開始のブザーが鳴る。
女子バレーの決勝の対戦相手も、牧と小百合のクラスの34組だった。
信長と宗一郎に合流して、ふたりも一緒に試合を観戦している。
伊織は自分の方に飛んできたボールをレシーブした。
勢いを殺されたボールがふわりと静かに前に飛んでいく。
それをセッターの舞子があげて、バレー経験者のチームメイトがアタックを決める。
今までの試合ではこの連携でどんどん勝ち進んでいたのだが、今回はそうはいかなかった。
相手チームにも、関東大会まで出場した中学の経験者がいた。
その人に、ことごとくチャンスの目をつぶされていた。
「!」
伊織の胸がどきんと音を立てる。
嬉しい。心配してくれてたなんて。
たとえそれが、みんなに与えられる優しさなんだとしても、そんなこと今はもうどうでもよかった。
今だけは、宗一郎は自分だけを心配してくれている。
このときだけは、宗一郎は自分だけのものだった。
伊織は速度を上げる鼓動をごまかす様にてへっと笑う。
「あ、いや、ちょっと試合前で緊張してて……」
「そっか。ならよかった。でもさ、伊織ちゃん大丈夫?」
「え? なにがですか?」
質問の意味がわからなくて伊織は首をかしげる。
宗一郎が言いにくそうに口をもごもご動かした。
「あーいや、伊織ちゃん、あんまり運動得意そうに見えないから……」
「ええ!? そんなことないですよ、こう見えてけっこう運動神経いいですよ!?」
え、なんでそう見えるんですか、と衝撃を隠せない様子で言う伊織に、信長がケッと悪態をつく。
「なんでもなにも、いっつもどっかにぶつかったり転んだりしてるからだろ。運動神経いいやつはそういうことしねぇんだよ」
「ええ!? そっかな。そうなんですか、宗先輩」
「うーん……。まあ、ノブの言うとおり、ちょっと少ないかもね」
「そ、そっか、そういうもんなんだ……」
なんとなくショックな気持ちになって、伊織は顔を押さえた。
いや、たしかにもう競技としてのテニスを諦めなくてはいけなくなっているけれど、運動神経まで失ったわけではない。
というよりも、物心ついたときからずっと、こけたりぶつかったりは日常茶飯事だった。
今まではテニスの方が有名で一人歩きしていたから、運動神経が鈍そうなんて言われたことがなかったけれど。
(そっか。テニスがなくなると普段の行動はただのおニブさんに見えちゃうんだ、うわなんか衝撃の事実だ……)
それだけが唯一のとりえだったのになぁと顔を伏せてぼんやり思う伊織の頭を、宗一郎が優しく撫でる。
「大丈夫? なんかごめん、ショックなこと言っちゃった?」
「いえ、いいんです大丈夫です……。実際ちょっとわたし自分でもドジかなって思ったりしますし……」
「はは。そこがいいんだよ、伊織ちゃんは。でも、運動得意なんでしょ? 俺、ノブとここで見てるからさ、かっこいいとこ見せてよ」
「……はい!」
伊織は元気よく返事をしてコートへと入っていった。
さっきはハイなんて調子よく返事をしたけど、ほんとうはそんなに目立つつもりはなかった。
あんまり活躍して悪目立ちして、万が一自分に気付く人が出てきてしまったら困るからだ。
伊織はインタビューなどでテニス雑誌にも載ったりしているし、テニス雑誌じゃなくても注目のジュニア選手! とかいう特集記事でスポーツ雑誌や新聞の端っこのほうに載ったこともある。
そのときの記事を見ていた人が、ここの生徒にいるかもしれない。
昔のことは触れられたくない。まだ向き合えない。危険なことは避けるつもりだった。
試合開始のブザーが鳴る。
女子バレーの決勝の対戦相手も、牧と小百合のクラスの34組だった。
信長と宗一郎に合流して、ふたりも一緒に試合を観戦している。
伊織は自分の方に飛んできたボールをレシーブした。
勢いを殺されたボールがふわりと静かに前に飛んでいく。
それをセッターの舞子があげて、バレー経験者のチームメイトがアタックを決める。
今までの試合ではこの連携でどんどん勝ち進んでいたのだが、今回はそうはいかなかった。
相手チームにも、関東大会まで出場した中学の経験者がいた。
その人に、ことごとくチャンスの目をつぶされていた。