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ひらりひらりと、目の前を桜の花びらが舞い落ちてきた。
伊織は見事に、自分の手のひらでそれをキャッチすると、ピンク色の小さな花びらをじっと見つめる。
(この高校三年間で、素敵な思い出ができますように……)
祈りをこめるように、その表面をそっとひと撫ですると、伊織は花びらにふっと息をふきかけ、再び舞い落ちる花びらをそのままに、入学式の行われる体育館へと足を向けた。
桜色の恋
「ここが体育館か……」
今日の入学式の会場。
現在朝の八時。十時開始の入学式に早すぎるくらい早くついてしまった伊織は、あと二時間後に行われるであろう入学式を頭に描きながら、今は誰もいないその会場に足を踏み入れた。
ぐるっと体育館中に首をめぐらすと、その広さに伊織は感嘆の息を漏らした。
広いだけでなく、体育館そのものに部室までついているらしい。バスケットボール部、バレー部……。部活動の名前が書かれたプレートがかかった扉が、いくつもあった。
「はぁあ~。さすが、私立の高校だけあって体育館も大きいな~。バスケのコートをオールで一面取りながら、バレーコートも二面取れそうだな……。お、バスケットボール!」
体育館の片隅にぽつんと置いてあったバスケットボールを見つけると、伊織はそれを手に取った。
感触を確かめるように手の中でくるくるっと回す。
「バスケ、体育の授業で得意だったんだよねー。それっ、シュー……」
ゴールに向かって今まさにボールを放とうとしたその時、バスケットボール部と書かれた扉が、突然勢いよく開いた。
中から姿を現した男子生徒が、伊織を見て声をあげる。
「あれ?」
「うわあっ!!」
突然の介入者にびっくりした伊織の手の中からボールが滑り落ち、バインと軽快な音を立てて伊織の頭でバウンドした。
「~~~~~~っ! いったぁあああぁっ!」
伊織は頭を抱えてしゃがみこんだ。
ぐおおぉぉおっと乙女らしからぬうめき声が、うずくまった背中から発せられる。
「――ぶっ。あはははは!」
その様子を見て、バスケ部の部室から出て来た男は、我慢できないというように吹き出し、笑い声をあげた。
(ひ……ひどい……!)
乙女が傷つき倒れているというのに。
伊織は怒りに任せて勢いよく顔を上げた、瞬間――。
「――!!」
心を、奪われた。
190はあるんじゃないかという、すらりと細い長身。
白い綺麗な肌に、均整の取れた優しい顔立ち。
「あはは! いや、笑ってごめんね。大丈夫?」
そう言って、目尻に浮かんだ涙を拭いながら、目の前に差し出された、広く大きな手。
伊織は自分の頬に熱が集まるのを感じながら、そっとその手を取る。
「あ……、いえ……。大丈夫……です」
「ほんと? かなり勢いよく頭で受け止めてたからね。とにかく、ケガがなくてよかった」
まだ喉の奥でクツクツ笑いながら自分を助け起こす目の前の男を、伊織はじっと見つめた。
先輩――だろうか。
「君、一年生?」
「あっ、ハイ!」
「そっか。名前は?」
「鈴村伊織っていいます」
「俺は二年の神宗一郎。よろしくね、伊織ちゃん」
「――!」
にこりと微笑んだその笑顔に、伊織は素敵な高校生活の始まりを予感した。
伊織は見事に、自分の手のひらでそれをキャッチすると、ピンク色の小さな花びらをじっと見つめる。
(この高校三年間で、素敵な思い出ができますように……)
祈りをこめるように、その表面をそっとひと撫ですると、伊織は花びらにふっと息をふきかけ、再び舞い落ちる花びらをそのままに、入学式の行われる体育館へと足を向けた。
桜色の恋
「ここが体育館か……」
今日の入学式の会場。
現在朝の八時。十時開始の入学式に早すぎるくらい早くついてしまった伊織は、あと二時間後に行われるであろう入学式を頭に描きながら、今は誰もいないその会場に足を踏み入れた。
ぐるっと体育館中に首をめぐらすと、その広さに伊織は感嘆の息を漏らした。
広いだけでなく、体育館そのものに部室までついているらしい。バスケットボール部、バレー部……。部活動の名前が書かれたプレートがかかった扉が、いくつもあった。
「はぁあ~。さすが、私立の高校だけあって体育館も大きいな~。バスケのコートをオールで一面取りながら、バレーコートも二面取れそうだな……。お、バスケットボール!」
体育館の片隅にぽつんと置いてあったバスケットボールを見つけると、伊織はそれを手に取った。
感触を確かめるように手の中でくるくるっと回す。
「バスケ、体育の授業で得意だったんだよねー。それっ、シュー……」
ゴールに向かって今まさにボールを放とうとしたその時、バスケットボール部と書かれた扉が、突然勢いよく開いた。
中から姿を現した男子生徒が、伊織を見て声をあげる。
「あれ?」
「うわあっ!!」
突然の介入者にびっくりした伊織の手の中からボールが滑り落ち、バインと軽快な音を立てて伊織の頭でバウンドした。
「~~~~~~っ! いったぁあああぁっ!」
伊織は頭を抱えてしゃがみこんだ。
ぐおおぉぉおっと乙女らしからぬうめき声が、うずくまった背中から発せられる。
「――ぶっ。あはははは!」
その様子を見て、バスケ部の部室から出て来た男は、我慢できないというように吹き出し、笑い声をあげた。
(ひ……ひどい……!)
乙女が傷つき倒れているというのに。
伊織は怒りに任せて勢いよく顔を上げた、瞬間――。
「――!!」
心を、奪われた。
190はあるんじゃないかという、すらりと細い長身。
白い綺麗な肌に、均整の取れた優しい顔立ち。
「あはは! いや、笑ってごめんね。大丈夫?」
そう言って、目尻に浮かんだ涙を拭いながら、目の前に差し出された、広く大きな手。
伊織は自分の頬に熱が集まるのを感じながら、そっとその手を取る。
「あ……、いえ……。大丈夫……です」
「ほんと? かなり勢いよく頭で受け止めてたからね。とにかく、ケガがなくてよかった」
まだ喉の奥でクツクツ笑いながら自分を助け起こす目の前の男を、伊織はじっと見つめた。
先輩――だろうか。
「君、一年生?」
「あっ、ハイ!」
「そっか。名前は?」
「鈴村伊織っていいます」
「俺は二年の神宗一郎。よろしくね、伊織ちゃん」
「――!」
にこりと微笑んだその笑顔に、伊織は素敵な高校生活の始まりを予感した。
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