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夏の大会。いつも一回戦敗退がお決まりの湘北高校男子バスケ部だったが、今年は早くも県大会二回戦突破を決めていた。
だけど、それとは別に日常は進んでいくわけで……。
伊理穂は鳴り響くチャイムの音と共に、地理の教科書を机の中にしまった。
ノートはそのまま隣りの席の流川にはいと差し出す。
「ん。サンキュ」
流川は寝ていた体を起こすと、短くお礼を言ってノートを受け取った。
それに伊理穂が笑顔を返すと、お弁当を食べるのに席を移動してきていた結子が深くため息をついた。
「また性懲りもなく伊理穂は。流川なんかに貸すことないって言ってるのに。流川、あんた自分で取ってるノートあるの?」
流川が小さく首を横に振った。
それに呆れたように結子が片眉をあげる。
「まあ、もう伊理穂が何も言わないならいいけど。流川、伊理穂のノート借りるんだったら勉強もちゃんとがんばりなさいよね」
「…………」
結子の言葉に、流川はしぱしぱと瞳をしばたたかせた。
こりゃやらないわ、と肩をすくめる結子に、伊理穂が苦笑を零す。
流川は自分の席で昼食をとることが多く、最近では三人で会話をしながら食べることが増えてきた。
結子が用意した机に腰を降ろし、お弁当をつつきながらまじまじと伊理穂の頬を見つめて言った。
「それにしても頬、痕残らなくてよかったわねぇ」
「うん! これも洋平のおかげっ」
「ほんとうよ。ことある毎に湿布変えに来て、水戸くんのかいがいしさったらなかったわよね」
その様を思い出しているのか、結子がしみじみと天井を見上げながら言う。
伊理穂はそんな結子を見てくすくすと笑みを零した。
「洋平は面倒見がいいからねえ……」
「……まあ、面倒見がいいで片付けられちゃう水戸くんに、わたしは同情を禁じ得ないけどね」
「? なんで?」
「それはわたしが言うべきことじゃないから」
「?」
わけがわからないというように眉を寄せる伊理穂に、結子が大きく肩を落とす。
「ほんと、水戸くんかわいそう」
「洋平、かわいそう……?」
「あんたの世話ばっかりさせられてよ」
「…………。洋平、やっぱり迷惑かな?」
ふいに伊理穂が深刻な表情で黙り込んだ。
結子はそれに驚いたように小さく目を見開く。
「どうしたの、伊理穂。あんたがそんなこと気にするなんて」
「あ、ううん。洋平にあんまりガマンさせるのもよくないかなって」
「?」
どこか淋しそうに呟く伊理穂に、それまで黙っていた流川が小さく口を開く。
「あいつは好きでオメーの面倒見てる。だから迷惑なんて思ってねー。つまんねーこと気にすんな。久遠もくだらねーこと口にすんな」
「流川くん……」
「ちょっと、流川! くだらないことってなによ」
「オメーの存在」
「なっ! こんの冷血男っ!!」
そのまましばらく喧々囂々やりだす二人を笑って見つめながら、伊理穂は心の中では全く別のことを考えていた。
結子の、水戸くんかわいそうという言葉が、伊理穂の中でぐるぐると回る。
洋平とは生まれたときからいつも一緒にいるけれど、伊理穂が洋平の気持ちがわかったことなんてこれまで一度もなかった。
洋平はいつも自分の気持ちを隠して、優しく微笑んでしまえる人だから。
だからなるべく傍にいて、洋平の気持ちの変化に気付けるようになりたいと思っていたけれど。
だけど、それとは別に日常は進んでいくわけで……。
伊理穂は鳴り響くチャイムの音と共に、地理の教科書を机の中にしまった。
ノートはそのまま隣りの席の流川にはいと差し出す。
「ん。サンキュ」
流川は寝ていた体を起こすと、短くお礼を言ってノートを受け取った。
それに伊理穂が笑顔を返すと、お弁当を食べるのに席を移動してきていた結子が深くため息をついた。
「また性懲りもなく伊理穂は。流川なんかに貸すことないって言ってるのに。流川、あんた自分で取ってるノートあるの?」
流川が小さく首を横に振った。
それに呆れたように結子が片眉をあげる。
「まあ、もう伊理穂が何も言わないならいいけど。流川、伊理穂のノート借りるんだったら勉強もちゃんとがんばりなさいよね」
「…………」
結子の言葉に、流川はしぱしぱと瞳をしばたたかせた。
こりゃやらないわ、と肩をすくめる結子に、伊理穂が苦笑を零す。
流川は自分の席で昼食をとることが多く、最近では三人で会話をしながら食べることが増えてきた。
結子が用意した机に腰を降ろし、お弁当をつつきながらまじまじと伊理穂の頬を見つめて言った。
「それにしても頬、痕残らなくてよかったわねぇ」
「うん! これも洋平のおかげっ」
「ほんとうよ。ことある毎に湿布変えに来て、水戸くんのかいがいしさったらなかったわよね」
その様を思い出しているのか、結子がしみじみと天井を見上げながら言う。
伊理穂はそんな結子を見てくすくすと笑みを零した。
「洋平は面倒見がいいからねえ……」
「……まあ、面倒見がいいで片付けられちゃう水戸くんに、わたしは同情を禁じ得ないけどね」
「? なんで?」
「それはわたしが言うべきことじゃないから」
「?」
わけがわからないというように眉を寄せる伊理穂に、結子が大きく肩を落とす。
「ほんと、水戸くんかわいそう」
「洋平、かわいそう……?」
「あんたの世話ばっかりさせられてよ」
「…………。洋平、やっぱり迷惑かな?」
ふいに伊理穂が深刻な表情で黙り込んだ。
結子はそれに驚いたように小さく目を見開く。
「どうしたの、伊理穂。あんたがそんなこと気にするなんて」
「あ、ううん。洋平にあんまりガマンさせるのもよくないかなって」
「?」
どこか淋しそうに呟く伊理穂に、それまで黙っていた流川が小さく口を開く。
「あいつは好きでオメーの面倒見てる。だから迷惑なんて思ってねー。つまんねーこと気にすんな。久遠もくだらねーこと口にすんな」
「流川くん……」
「ちょっと、流川! くだらないことってなによ」
「オメーの存在」
「なっ! こんの冷血男っ!!」
そのまましばらく喧々囂々やりだす二人を笑って見つめながら、伊理穂は心の中では全く別のことを考えていた。
結子の、水戸くんかわいそうという言葉が、伊理穂の中でぐるぐると回る。
洋平とは生まれたときからいつも一緒にいるけれど、伊理穂が洋平の気持ちがわかったことなんてこれまで一度もなかった。
洋平はいつも自分の気持ちを隠して、優しく微笑んでしまえる人だから。
だからなるべく傍にいて、洋平の気持ちの変化に気付けるようになりたいと思っていたけれど。