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ハッとするほど綺麗なその表情に、洋平は息を呑む。
伊理穂は嬉しそうに流川の話を続けているが、もう洋平の頭にはなにも入ってこなかった。
魅入られたように伊理穂の顔をじっと見つめる。
見たことのない、伊理穂の表情。
生まれた頃からずっと一緒にいるのに、こんなに綺麗な、伊理穂の女の表情を引き出すことができるのが、自分ではなく流川だということに、思わず胸がつまった。
まるで知らない、オンナの顔。
洋平の胸が、ぎゅうっと痛みに縮まる。
(こうやって、お前はどんどんオレの知らないオンナになっていくんだな。そうして近い将来、オレのそばからいなくなるんだ……)
喉元まで寂しさとも悲しさともなんともつかないような何かが込み上げてきて、洋平はそれを必死に飲み下した。
叫びたいような、泣きたいような、そんな気持ちだった。
と。
「ちょっと、洋平! 聞いてる!?」
伊理穂の怒ったような声にハッと洋平は我に返ると、眉間に皺を寄せる伊理穂にバツが悪そうに微笑んだ。
「ああ、わりいわりい、ちょっと今一瞬考え事してた」
「もー!」
ぷくっと頬を膨らませる伊理穂の頬をつついて、洋平は言う。
「はは、悪かったよ。で、なんだって?」
「だから! 今日一緒に帰ってるときね? わたしが変な誤解して泣いちゃったら、流川くんが優しく抱きしめて、慰めてくれたの」
「――!」
心臓がばくんと嫌な音を立てる。
抱きしめた。流川が、伊理穂を。
大事ななにかを、壊されたような気持ちになった。
(伊理穂の感触を知ってるのは、オレだけだったのに……)
どんどんなくなっていく。
自分だけが知っている伊理穂がどんどん消えて、自分の知らない流川だけの伊理穂にどんどん塗りかえられていく。
胸が苦しくて、頭がどうにかなってしまいそうだ。
「そうか。よかったな」
どこか遠くで、自分が伊理穂に笑顔でそう言っているのを感じた。
伊理穂はそれに、洋平の知らない、綺麗なオンナの笑顔でうんと頷いた。
息ができない。呼吸がとまる。
「抱きしめてくれるなんて、流川くんもちょっとはわたしのこと好いてくれてるってことだよね?」
「まあ、そうだろうな」
「ね。洋平から見て、わたしってどうかな?」
「は? どうって?」
「かわいいとか普通とかおへちゃとかそういうこと! ね、洋平から見てわたしはどう思う?」
少しだけ緊張した表情で、伊理穂は真剣にそんなことを聞いてくる。
まるで拷問だ。
「ああ。そういうことね。はいはい、伊理穂チャンはかわいいよ」
「心がこもってなーいー! ちゃんと真面目に、真剣に答えて!」
伊理穂がぷうと頬を小さく膨らませる。
洋平は目を細めてそれを見つめると、その頬に手をそっと添えた。
親指の腹で、その白くすべらかな頬をそっと撫でる。
こんな風に気軽に伊理穂に触れることも、きっともうすぐできなくなる。
この頬も、唇も、声も、髪も、伊理穂を形成するもの全部全部、こんなに愛しくてたまらないのに――。
苦しい。
どうして、伊理穂は自分を好きじゃないんだろう。どうして。
(オレは、こんなにお前を愛してるのに……)
伊理穂は嬉しそうに流川の話を続けているが、もう洋平の頭にはなにも入ってこなかった。
魅入られたように伊理穂の顔をじっと見つめる。
見たことのない、伊理穂の表情。
生まれた頃からずっと一緒にいるのに、こんなに綺麗な、伊理穂の女の表情を引き出すことができるのが、自分ではなく流川だということに、思わず胸がつまった。
まるで知らない、オンナの顔。
洋平の胸が、ぎゅうっと痛みに縮まる。
(こうやって、お前はどんどんオレの知らないオンナになっていくんだな。そうして近い将来、オレのそばからいなくなるんだ……)
喉元まで寂しさとも悲しさともなんともつかないような何かが込み上げてきて、洋平はそれを必死に飲み下した。
叫びたいような、泣きたいような、そんな気持ちだった。
と。
「ちょっと、洋平! 聞いてる!?」
伊理穂の怒ったような声にハッと洋平は我に返ると、眉間に皺を寄せる伊理穂にバツが悪そうに微笑んだ。
「ああ、わりいわりい、ちょっと今一瞬考え事してた」
「もー!」
ぷくっと頬を膨らませる伊理穂の頬をつついて、洋平は言う。
「はは、悪かったよ。で、なんだって?」
「だから! 今日一緒に帰ってるときね? わたしが変な誤解して泣いちゃったら、流川くんが優しく抱きしめて、慰めてくれたの」
「――!」
心臓がばくんと嫌な音を立てる。
抱きしめた。流川が、伊理穂を。
大事ななにかを、壊されたような気持ちになった。
(伊理穂の感触を知ってるのは、オレだけだったのに……)
どんどんなくなっていく。
自分だけが知っている伊理穂がどんどん消えて、自分の知らない流川だけの伊理穂にどんどん塗りかえられていく。
胸が苦しくて、頭がどうにかなってしまいそうだ。
「そうか。よかったな」
どこか遠くで、自分が伊理穂に笑顔でそう言っているのを感じた。
伊理穂はそれに、洋平の知らない、綺麗なオンナの笑顔でうんと頷いた。
息ができない。呼吸がとまる。
「抱きしめてくれるなんて、流川くんもちょっとはわたしのこと好いてくれてるってことだよね?」
「まあ、そうだろうな」
「ね。洋平から見て、わたしってどうかな?」
「は? どうって?」
「かわいいとか普通とかおへちゃとかそういうこと! ね、洋平から見てわたしはどう思う?」
少しだけ緊張した表情で、伊理穂は真剣にそんなことを聞いてくる。
まるで拷問だ。
「ああ。そういうことね。はいはい、伊理穂チャンはかわいいよ」
「心がこもってなーいー! ちゃんと真面目に、真剣に答えて!」
伊理穂がぷうと頬を小さく膨らませる。
洋平は目を細めてそれを見つめると、その頬に手をそっと添えた。
親指の腹で、その白くすべらかな頬をそっと撫でる。
こんな風に気軽に伊理穂に触れることも、きっともうすぐできなくなる。
この頬も、唇も、声も、髪も、伊理穂を形成するもの全部全部、こんなに愛しくてたまらないのに――。
苦しい。
どうして、伊理穂は自分を好きじゃないんだろう。どうして。
(オレは、こんなにお前を愛してるのに……)