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「なっ、おまえ、オレにされたこと忘れたのか? お前のこと人質にして、お前の彼氏傷つけようとしたんだぞ? お前に、か、カラダまで差し出すように言って……!」
「彼氏って……。洋平は幼馴染みだって何度も言ってるじゃないですか」
半眼で答える伊理穂。ふと目を伏せる。
「それに、ちゃんと覚えてますよ。昨日のことも。……昨日の三井先輩は、すごく怖かったです。思い出すだけで……ちょっと震えちゃうくらい。でも、今日の三井先輩は怖くありません」
「……なんでだよ」
「やだなあ、先輩。自分で気付かないんですか? 目が全然違いますよ」
言って、伊理穂は自分の目を指差した。
「いい奴と悪い奴の見分け方は、目を見て判断しろって父に教わったんです。三井先輩の今の目は、とっても綺麗です。澄んでて、だけど少し、後悔に苦しんでる目をしてます。だから、怖くありません。それに、わたしは他にももっと怖いものいろいろ知ってますから」
なんたって、父親が神奈川最強の暴走族『死神』の元総長で、幼馴染みはここいら一帯で有名な不良、そしてその両親は父親の旗上げした暴走族の元仲間なのだ。そっちのほうがアクが強い。
にこりと微笑んで言ってやると、三井の顔が泣きそうに歪んだ。
ば……っ、と言いかけた言葉を喉につっかけて、三井が顔を俯ける。
「昨日、特にお前にはどうやって謝ろうかと、夜中ずっと悩んでて……。女なのに、顔も、殴っちまったし、他にも、男としてほんとうに最低なこと、しようとして……。ほんとうに、悪かった……!」
三井の真摯な声が体育館に響く。
他の部員たちもその声音を聞いて三井の改心を理解したのか、ぴりぴりと緊張していたその場の空気が和やかに緩んだ。
伊理穂はそれを感じて、嬉しそうに微笑む。
「はい! もう気にしないでください。わたしは気にしてませんから」
言うと、三井が弾かれたように顔をあげた。
真剣な表情で伊理穂を見る。
「いや! でもそれじゃあオレの気がすまねえ! なんか罪滅ぼしさせてくれ! もちろんそんなんでオレの罪が消えるなんて思っちゃいねえけど、だけどなんかしなきゃオレは一生お前に顔向けできねえ!」
「大げさですね」
「本気だ」
「うーん……。あ! じゃあしばらくの間、マネージャー仕事のうちの力仕事、三井先輩に頼んでもいいですか? ドリンクボトル全員分運ぶのとか、わたしの腕力じゃなかなかつらくって」
伊理穂が思いついて提案すると、三井が不可解そうに眉根を寄せる。
「あ? それはもちろんかまわねえけど……。そんなことでいいのか?」
「そんなこと!? 何言ってるんですか三井先輩! すっごく助かります!」
大真面目に答えてやると、三井がぶはっと吹き出した。
はじめてみる三井の人懐こい笑顔に、部員が驚いたように目を丸くする。
「はは、そっかよ。変なやつだな、お前。――なあ、名前は?」
「伊理穂です。月瀬伊理穂」
「ふうん、そっか。よろしくな、伊理穂」
「はい!」
伊理穂は笑って答えると、じゃあ早速仕事いいですか? と三井を連れ出した。
「…………」
流川は、三井を伴って体育館を出て行く伊理穂をじっと目で追った。
伊理穂に向けられる、三井の笑顔。
流川の胸に嫌な予感がよぎる。
なんとなく、あの二人は気が合いそうな気がする。
思って流川は、さらに表情を険しくした。
三井がいきなり伊理穂を名前で呼んだのも、ひどく気に入らなかった。
「チッ。めんどくせー」
流川の胸の内側にあるどす黒い感情が、少し大きくなった。