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洋平はそれだけ言うと、ひらひらと手を振って去って行った。
その背中をしばらく見て、流川は隣りで薄く染まってる頬を小さく膨らませている伊理穂を見る。
その、湿布の貼られた右頬に静かに触れた。
びくりと体を震わせて、伊理穂が流川を見上げてくる。
その澄んだ瞳に心を落ち着かなくさせながら、流川は唇を持ち上げる。
「これ。ダイジョーブか?」
「あ、うん。ちょっとしゃべったりすると痛いけど、でも平気」
心配してくれてありがとう、と微笑む伊理穂に、流川の心がちくりと痛む。
伊理穂の頭をそっと撫でた。
「守ってやれなくて、悪かった」
「う、ううん! 全然だよ。……そんな風に言ってもらえるなんて……嬉しい、ありがとう」
薄く頬を染めて微笑む伊理穂。
その笑顔がほんとうに綺麗で、流川は抱きしめたい衝動を必死で堪えていた。
「えー、新しい部員を紹介する」
そう言って赤木が紹介してきたのは、昨日暴力沙汰で体育館を襲撃した主犯格・三井寿だった。
三井は肩口まであった髪をばっさり短く切って、一夜でスポーツマンに変身していた。
おお、ばっさり、なんて言いながら、伊理穂は昨日の夜、洋平から聞いた話を思い出す。
主犯格の三井寿が、昔バスケ部員だったこと。
元全国中学MVPで、今の三年の人たちの間ではかなり名の知れた存在だったこと。
高校一年生の頃に足を故障して、そこから少し道を踏み外してしまったこと。
……もしかしたら、バスケ部に戻ってくるかもしれないこと。
後悔の滲む様子で、すまなかったと頭を下げる三井の後頭部をぼんやり見つめながら、伊理穂は呑気にそんなことを考えた。
顔をあげた三井の伏せられた瞳を、伊理穂はまっすぐ見つめる。その中に昨日まではなかった明るい光を見つけて、伊理穂は表情をほころばせた。
昨日、もしバスケ部に戻ったとしてもあの人はもう大丈夫だと思う、と言った洋平の言葉が脳裏に浮かぶ。
洋平の言うとおりだ。
彼の目にはもう、昨日あった濁った色がない。
「これから、よろしくお願いします」
緊張と不安で震える声音で言う三井。
体育館の中はざわめくばかりで、誰も答えようとしなかった。
否定の意を濃く含む沈黙。
見かねた赤木がフォローに口を開こうとしたその時、伊理穂は三井に向けてにこりと微笑んだ。
「はい! よろしくお願いします!」
昨日、あれだけの仕打ちを受けておきながら、よろしくと微笑む伊理穂に、バスケ部全員が、特に三井が、驚いて目を剥いた。
三井は三秒間たっぷりぽかんと大口を開けて伊理穂を穴があくまで見つめたあと、湿布の貼られた伊理穂の頬を一瞥して、戸惑うように言った。
「おま……っ。よろしくって……。オレがこわくないのかよ!?」
「はい。もう怖くないですよ。全然」
「全然って……。おま……なんで……」
呆気に取られる三井に、伊理穂はへらっと表情を崩す。
「昨日、洋平に全部聞きました。全国中学MVPから今に至るまでのやさぐれ経緯」
「やさ……っ! ちょ、なんだそれ」
「え? だから、いい子な三井先輩から昨日の襲撃した悪い三井先輩になるまでの経緯ですよ。それ聞いて、ちょっと納得できたっていうか……」
そりゃグレますよねえとあははと笑うと、三井が焦ったように言葉を繋ぐ。
その背中をしばらく見て、流川は隣りで薄く染まってる頬を小さく膨らませている伊理穂を見る。
その、湿布の貼られた右頬に静かに触れた。
びくりと体を震わせて、伊理穂が流川を見上げてくる。
その澄んだ瞳に心を落ち着かなくさせながら、流川は唇を持ち上げる。
「これ。ダイジョーブか?」
「あ、うん。ちょっとしゃべったりすると痛いけど、でも平気」
心配してくれてありがとう、と微笑む伊理穂に、流川の心がちくりと痛む。
伊理穂の頭をそっと撫でた。
「守ってやれなくて、悪かった」
「う、ううん! 全然だよ。……そんな風に言ってもらえるなんて……嬉しい、ありがとう」
薄く頬を染めて微笑む伊理穂。
その笑顔がほんとうに綺麗で、流川は抱きしめたい衝動を必死で堪えていた。
「えー、新しい部員を紹介する」
そう言って赤木が紹介してきたのは、昨日暴力沙汰で体育館を襲撃した主犯格・三井寿だった。
三井は肩口まであった髪をばっさり短く切って、一夜でスポーツマンに変身していた。
おお、ばっさり、なんて言いながら、伊理穂は昨日の夜、洋平から聞いた話を思い出す。
主犯格の三井寿が、昔バスケ部員だったこと。
元全国中学MVPで、今の三年の人たちの間ではかなり名の知れた存在だったこと。
高校一年生の頃に足を故障して、そこから少し道を踏み外してしまったこと。
……もしかしたら、バスケ部に戻ってくるかもしれないこと。
後悔の滲む様子で、すまなかったと頭を下げる三井の後頭部をぼんやり見つめながら、伊理穂は呑気にそんなことを考えた。
顔をあげた三井の伏せられた瞳を、伊理穂はまっすぐ見つめる。その中に昨日まではなかった明るい光を見つけて、伊理穂は表情をほころばせた。
昨日、もしバスケ部に戻ったとしてもあの人はもう大丈夫だと思う、と言った洋平の言葉が脳裏に浮かぶ。
洋平の言うとおりだ。
彼の目にはもう、昨日あった濁った色がない。
「これから、よろしくお願いします」
緊張と不安で震える声音で言う三井。
体育館の中はざわめくばかりで、誰も答えようとしなかった。
否定の意を濃く含む沈黙。
見かねた赤木がフォローに口を開こうとしたその時、伊理穂は三井に向けてにこりと微笑んだ。
「はい! よろしくお願いします!」
昨日、あれだけの仕打ちを受けておきながら、よろしくと微笑む伊理穂に、バスケ部全員が、特に三井が、驚いて目を剥いた。
三井は三秒間たっぷりぽかんと大口を開けて伊理穂を穴があくまで見つめたあと、湿布の貼られた伊理穂の頬を一瞥して、戸惑うように言った。
「おま……っ。よろしくって……。オレがこわくないのかよ!?」
「はい。もう怖くないですよ。全然」
「全然って……。おま……なんで……」
呆気に取られる三井に、伊理穂はへらっと表情を崩す。
「昨日、洋平に全部聞きました。全国中学MVPから今に至るまでのやさぐれ経緯」
「やさ……っ! ちょ、なんだそれ」
「え? だから、いい子な三井先輩から昨日の襲撃した悪い三井先輩になるまでの経緯ですよ。それ聞いて、ちょっと納得できたっていうか……」
そりゃグレますよねえとあははと笑うと、三井が焦ったように言葉を繋ぐ。