9
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
伊理穂はホッと息をつくと、洋平から体を離した。
流れる涙を乱暴に拭って、安心したような笑顔を見せる。
洋平は、愛しさに目を細めてそんな伊理穂の笑顔を見つめると、おもむろに伊理穂の額にでこぴんをくらわせた。
「った!」
驚いた伊理穂が、目を丸くして洋平を見てくる。
「ちょ、洋平、なにすんの!?」
「なにって伊理穂チャン。これからお説教タイム」
「え、お説教……?」
にっこり笑って言ってやると、伊理穂の表情がコチンと固まった。
あからさまに洋平から視線を外しながら、恐る恐る言う。
「えーと、洋平さん。お説教っていったい……」
「きょ・う・の・こ・と・に、決まってんだろー!」
たっぷり含みを持たせて言うと、洋平は伊理穂の頬をぎゅうっとつねりあげた。
伊理穂が声にならない悲鳴をあげて、両手をバタバタさせる。
「~~~~っ! い、いはい、いはいいはい、ひょうへー!」
「…………」
洋平は伊理穂の目が涙目になったのを確認すると、ぱっとその手を放した。
赤くなった伊理穂の頬を今度は優しく撫でながら、洋平は爆発しそうになる感情を必死で抑えて、伊理穂に言う。
「花道に聞いたぞ」
「え?」
「……オレのために、あいつに自分のカラダ差し出そうとしてたって」
「――! いや、違うよ、それ、多分花道夢を見てたんじゃないかなあはははははははは」
「伊理穂」
険のある表情で名前を呼んでやれば、ごまかし笑いをしていた伊理穂が、とたんにしゅんと小さくなった。
蚊の鳴くような細い声で、ごめんなさいと囁く。
洋平は盛大にため息をつくと、伊理穂の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「な、伊理穂チャン。ほんとうにはされないと思ったのか?」
「え?」
「あいつらにカラダを差し出すって言っても、ほんとうにはされないと思ったんだろ? だから軽々しくそんな条件のんだんだ。違うか?」
洋平の言葉に、伊理穂が弾かれたように顔をあげる。
「それは違うっ! わたし、ちゃんとわかってるもん! それがどういうことなのか。それに、仮にもわたしは昔この関東全域を占めていた暴走族『死神』初代総長・月瀬秀一の娘。……ろくでもない人は、ほんとうにろくでもないんだってことも、きちんと言い聞かされてる。だから、ちゃんと覚悟の上で条件を飲んだの」
「おまっ、なんで……!」
瞬間沸騰しかけた怒りを、洋平はふうとため息をついて冷やすと、なんとか冷静に言葉をつむぎだす。
「伊理穂。お前さあ、流川が好きなんだろ?」
「う、うん……」
瞬時に薄く染まる頬。洋平はそれにちくりと胸を痛めながら、言葉を続ける。
「だったらさ、もっと自分のこと大事にしろよ。オレなんかのために、お前自分のカラダ差し出してどうすんだよ」
「だ、だって……!」
「言い訳すんな。さっきはオレが間に合ったからよかったけど、そうそう毎回タイミングよく現れたりなんてできないんだぜ? マンガじゃないんだから。そこんとこわかってるか? ほんとうに、あんなところで、好きでもない男のために、好きでもない男に処女奪われちゃったりしたら、どうするつもりだったんだよ。なあ。そんなの、ダメに決まってんだろ!」
感情を堪えきれなくて、洋平は少しだけ声を荒げてしまった。
伊理穂は一瞬怯えたように肩を竦めたかと思えば、キッと顔を上げて洋平の瞳を強く見返してきた。