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『違うってなにが?』
『だって、元はといえばわたしが……! わたしが洋平を苦しめたから……っ!』
『……あ?』
洋平はわけがわからなくて眉根を寄せた。
腕の中の伊理穂は、洋平の胸に顔を埋めてしゃくり上げる。
『わ、わたしが……、一年前、わたし、洋平の傍にいたのに……。誰よりも近くにいたのに、洋平がほんとうは苦しんでること、全然気付かなくて……っ。洋平のこと、こんな風になるまで追い詰めて……っ! わたしが……っ!!』
『伊理穂、違うんだ。あれはオレが……』
『ううん、いいの。もう洋平、無理しなくていいから。わたしに無理に優しくしなくていいよ。無理に微笑んだりしなくていい。わたしのこと……き、きらいなままでいい。だからお願い。ひとりでそんな風に苦しんだりしないで。気に入らないことがあれば、わたしに思いっきりぶつけていいし、腹が立つことがあれば、わたしのこと好きなだけ殴っていい。だからお願い、嫌いなままでいいから、ひとりで悲しんだりしないで……っ。誰かとケンカしたり、危険なことはしないで。全部わたしが受け止めるからっ。洋平のことは、わたしが絶対絶対守るから! だから……っ! 洋平、ごめんなさい。気付けなくって、洋平をひとりで苦しめたままで、なのに洋平の力になれてるなんてとんでもない勘違いして、こんな風になるまで洋平のこと追い詰めて、ごめんなさい! ごめんなさい……!』
『伊理穂……!』
胸を掴まれたような気がした。
腕の中で泣き続ける伊理穂。
洋平はその細い体を強く抱きしめた。
伊理穂が、自分のことでここまで苦しんでるなんて、思いもよらなかった。
(オレのために……! ほんとうは、あの時だって今までだって、お前の存在が救いだったのに、なのに自分の不幸を振りかざしてお前を傷つけたオレのために、どうして……! 伊理穂……!)
胸が詰まってどうしようもなかった。
腕の中の、この小さな女の子が愛しくて、もうどうしようもなかった。
『伊理穂、ごめんな……? お前のこと、嫌いだなんて思ったこと一度もねぇよ。いつも、お前の笑顔に救われてきたのに、なのに、自分ばっかり不幸だと思って八つ当たりして、お前を傷つけて……ほんとうにごめんな……』
『よ、ようへ……』
『伊理穂、ごめん。傷つけてごめん。一年前殴ってごめん。今日も守れなくて……ごめん。オレ、ちゃんとするから。伊理穂のこと、守れるように。ケンカも、もう二度と自分からしたりしねぇから。伊理穂、オレのせいで、ごめんな……? オレのために、ありがとう……』
『洋平……っ!』
* * *
(あの頃は、オレも青かったよな……。まあ今も、そんなに変わってねぇけど)
洋平は口元に自嘲をのぼらせる。
と、突然伊理穂が自分の名を叫んで体を起こした。
呆然とする洋平には気付かずに、伊理穂は震える体を自分で抱きしめるようにして、必死で荒い呼吸を繰り返していた。
その頬に伝う涙に気付いて、洋平はそっとそれを人差し指で拭う。
伊理穂がハッとしたようにこちらを振り向いた。
洋平と目が合うと、怯えるように名前を呼んでくる。
「洋平……?」
「どうした、伊理穂。大丈夫か? 怖い夢でも見たか?」
安心させるように微笑んで言ってやると、
「――洋平っ!」
伊理穂が突然抱きついてきた。
さっきまで思い出していた昔と不思議とリンクして、洋平は、ははと小さく笑う。
「大丈夫か、伊理穂?」
「うん! よ、洋平は……?」
「バーカ。オレは大丈夫だよ。なんせ、伊理穂の親父さんに鍛えられてんだから」
「そ、そっか。そうだよね……」