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『『死神』? 『死神』ってあの、神奈川一帯を締める族の……?』
『おいおい、やべえよ。その初代総長って言ったら、数々の恐ろしい伝説を残したやべえ男じゃねえか! そんなのに手を出したら俺たち、神奈川で生きていけねえよ!』
『ずらかるぞ!』
『お、おお!』

洋平を押さえつけた男たちが、一斉にその場を逃げ出した。

『あ、待てよ!』

この場には、秀一と主犯格、それから伊理穂と洋平だけが残される。
秀一は、内臓が冷えるような冷たい眼差しで主犯格を睨むと、薄い唇を開いた。

『オイ。二度と俺の娘と洋平に手を出すな。次手を出したら、生きて神奈川の地を踏むことはないと思え。――いいな?』
『は、はぃぃぃぃ!』

秀一が手を放すと、主犯格は脱兎のごとく逃げ出した。




伊理穂と洋平は、そのまま秀一に病院へと連れて行かれた。
診断の結果、ふたりともたいしたことはないとのことだったけれど、大事をとって一日入院することになった。
夜、洋平は自分のベッドを抜け出して、伊理穂の病室へと向かった。
頭を打った伊理穂は、個室に入れられていた。
そのドアをスライドさせて、洋平は中へと入る。

伊理穂……』

伊理穂は頭に真っ白な包帯を巻いて、殴られて腫れた頬に湿布を貼っていた。
その痛々しい姿に、洋平の息がつまる。
後悔にジンと鼻の奥が痛くなって、視界が揺らめいた。
洋平は伊理穂に近寄ると、眠る伊理穂の青白い頬をそっと撫でて、ベッドから出ていた伊理穂の手を取った。
そのちいさな柔らかい手を、洋平は優しく握りこむ。

伊理穂、ごめんな……!』
『……ん』

と、伊理穂の手がぴくりと動いた。
うっすらと瞼が開かれて、ぼんやりと視線をさまよわせる。
やがて洋平に焦点が結ばれて、伊理穂は弾かれたように体を起こした。

『ようへ……っ! い、いた……っ!』

激しい動きに傷が痛んだのか、伊理穂は途中で言葉を遮らせた。
洋平は慌てて手を伸ばして、伊理穂の体を支える。

『バカ、伊理穂。いきなり体起こすなよ。傷に触るだろ……っ』

ふいに、伊理穂が首に腕をまわして抱きついてきた。

『よ、ようへえ……っ!』

涙で掠れた伊理穂の声が、洋平の鼓膜をうつ。

伊理穂……』
『よ、洋平が、無事で、よ、よかった……っ! どこ、も、いた……く、ない? だい、じょう、ぶ?』

言葉を詰まらせながら言う伊理穂の言葉に、洋平は目を瞠った。
伊理穂だって、今まで生きてきた中で経験したことのないくらい怖ろしい思いしただろうに。
それなのに、真っ先に自分を気遣ってくれることが嬉しかった。
荒んでいた心に、じんわりとあたたかいものが広がっていく。
こんな気持ち、もう、随分前に忘れていた。

『……ああ。大丈夫だよ。伊理穂が助けてくれたから』
『ううん、違うの!』

感謝を込めて言うと、途端に伊理穂が激しくかぶりを振った。
洋平は、伊理穂のケガにさわらないように頭をそっと支えると、伊理穂を優しく抱きしめた。
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