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『いい度胸だな、女。気に入ったぜ』
言うと、主犯格は伊理穂の顎に手を伸ばし、その顔を自分の方へと向けた。
再び、怒りで洋平の血が沸騰したように熱くなる。
『てめえ! 汚ねえ手で伊理穂にさわんじゃねえ!』
洋平は飛びかかろうとしたが、いとも簡単に他の不良たちに押さえ込まれた。
腹部に強力な一撃を受けて、洋平は血のにじむ胃液を吐き出してその場に倒れこむ。
その背中を、不良たちが起き上がれないように押さえつけた。
『く……そっ! 放せよ、てめえら! 伊理穂っ!』
『きゃあっ!』
洋平の目の前で、伊理穂が乱暴に押し倒された。
その時に伊理穂がひどく頭を打ちつけた振動が、地面を通して洋平にも伝わってくる。
その衝撃の大きさに、洋平は青ざめた。
『伊理穂!』
呼びかけるが、伊理穂は気を失ったようで返事がない。
『伊理穂! おい、目を覚ませ! 伊理穂!』
焦る洋平とは対照的に、伊理穂に跨った主犯格は小さく舌打ちをする。
『チッ。気絶したか。かわいく鳴く声が聞きたかったのに、残念だな』
『て……めえっ! そんな場合じゃねえだろ!? 伊理穂病院に連れてけよ! 打ち所が悪かったらどうすんだよ!』
『ハッ。そんなのオレの知ったこっちゃないね。ここで死ぬんだとしたら、この女の運が悪かっただけだろ』
『お……まえっ!』
洋平は激しい怒りに身を任せて体を大きく捩った。
だけど、四人がかりで押さえつけられた体は、どんなに力を込めてもびくりともしなかった。
『くそっ!』
悔しさとふがいなさで、洋平の視界が滲む。
その目線の先で、下品な笑い声をあげる男の手によって、伊理穂の制服がどんどんはだかれていった。
『くそっ。くそっ……!』
伊理穂を、こんな目に合わせるつもりではなかったのに。
住む世界は違ってしまったけれど、洋平は今でも伊理穂が好きだった。
だから、幸せになって欲しかったのに。
(オレのせいで……っ!)
『伊理穂っ!!』
洋平が悲痛な叫び声をあげたその時。
かつんと、地面から硬質な足音が響いてきた。
驚いて顔をあげると、伊理穂の上に馬乗りになっていた主犯格の体が、ふいに持ち上がった。
『!』
綺麗に纏められた黒髪に、切れ長の一重の瞳。すっと通った鼻筋。180cmの長身に細身の体躯。その体型によく似合った薄いストライプの入った淡い黒のスーツに身を包んだ二十代後半の男が、文字通り、主犯格の首根っこを掴んで持ち上げていた。
驚く主犯格に、その男、伊理穂の父である秀一が、冷徹な眼差しを向ける。
『貴様。うちの娘に、何してくれてるんだ?』
低く、氷の刃のように尖った静かな声音。
ぞくりと、その場にいた全員の肌が粟立つ。
ふいに不良たちが騒がしくなった。
『おい、やべえぞ。あの男、『死神』の初代総長だ』