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自分の中で感情に折り合いをつけられなくなって、爆発してしまったあの時。
ケンカして、悪いこともたくさんやって、ほんとうに堕ちるとこまで堕ちていた。
だけど。
(あのとき、そんなオレを見捨てないでくれて、泥ぬまから救いだしてくれたのもお前だったんだよな、伊理穂)
あの時、伊理穂を守るって誓ったのに。
伊理穂の、包帯が押し当てられた頬を見つめ、洋平はあの日に思いを馳せる。
* * *
中二の五月。
伊理穂と絶交宣言をしてから、もう一年近く経った。
なのに、伊理穂はどんなに冷たくあしらっても、しつこいくらいに自分に接触するのを諦めようとしなかった。
中学に入って仲良くなった不良仲間、桜木、大楠、野間、高宮がその都度冷やかしてきて、ほんとうにもう勘弁してほしい。伊理穂はそんなんじゃないのに。
洋平は一人で帰路に着きながら、うんざりとしたため息をついた。
(これ以上オレに近づくんじゃねえよ。オレはもう、昔のオレとは違うんだ)
心の中で、伊理穂に言う。
一年前。伊理穂をひどく傷つけたあの日から、伊理穂の笑顔を見ていなかった。
もう大好きな伊理穂の笑顔を、心に描くことすらもできない。
毎日ケンカして、盗みだってやって。
自分は、こんなに変わってしまった。
伊理穂とはもう、住む世界が違ってしまったのだ。
今ではあの日の自分がいかに愚かで浅はかだったかわかるけれど、それを理解したからといって、のうのうと昔のように戻れるわけがなかった。
なのに、伊理穂はそれがわからないのだろうか。
あんなに怯えた表情で、体だって小さく震わせてるくせに。
(なのに洋平、洋平って毎日毎日……。ほんと、ばっかじゃねえの)
それが逆に自分と伊理穂の距離を思い知らせて、オレを苦しくさせるのに。
と、そんなことを思いながら曲がり角を折れたときだった。
『よう、水戸。待ってたぜ』
『――!』
視線を上げると、そこには数十人の不良グループがいた。
中に、見覚えのある顔がひとつあって、洋平は合点がいく。
あれは、この前、こっぴどくボコボコにしてやったやつだ。
(なるほど。仕返しに来たってわけね)
さすがの洋平も、この人数をひとりで相手するのはちょっと厳しい。
洋平は虚勢を張ると、嘲るように口の端を持ち上げて、見知った顔を睨みつけた。
『随分大勢連れてきたんだな』
『お前に痛い目みせてやるために、プライドもなにもかもぜんぶかなぐり捨てたんだよ。覚悟しろよな』
言葉と共に殴りかかってきたそいつのこぶしを、洋平はひらりと身をかわしてよけた。
『がっ……は。……くそっ』
なんとか人数を五人まで減らすことはできたものの、もうそれ以上はもう無理だった。
力尽きて倒れこんだ洋平を取り囲んで、残った不良たちが容赦なく蹴りを入れてくる。
(くそっ! こんなやつら、一対一なら負けねぇのに……!)
体を小さく丸めて、頭を腕で庇って、必死でその暴行に耐えていると。
ケンカして、悪いこともたくさんやって、ほんとうに堕ちるとこまで堕ちていた。
だけど。
(あのとき、そんなオレを見捨てないでくれて、泥ぬまから救いだしてくれたのもお前だったんだよな、伊理穂)
あの時、伊理穂を守るって誓ったのに。
伊理穂の、包帯が押し当てられた頬を見つめ、洋平はあの日に思いを馳せる。
* * *
中二の五月。
伊理穂と絶交宣言をしてから、もう一年近く経った。
なのに、伊理穂はどんなに冷たくあしらっても、しつこいくらいに自分に接触するのを諦めようとしなかった。
中学に入って仲良くなった不良仲間、桜木、大楠、野間、高宮がその都度冷やかしてきて、ほんとうにもう勘弁してほしい。伊理穂はそんなんじゃないのに。
洋平は一人で帰路に着きながら、うんざりとしたため息をついた。
(これ以上オレに近づくんじゃねえよ。オレはもう、昔のオレとは違うんだ)
心の中で、伊理穂に言う。
一年前。伊理穂をひどく傷つけたあの日から、伊理穂の笑顔を見ていなかった。
もう大好きな伊理穂の笑顔を、心に描くことすらもできない。
毎日ケンカして、盗みだってやって。
自分は、こんなに変わってしまった。
伊理穂とはもう、住む世界が違ってしまったのだ。
今ではあの日の自分がいかに愚かで浅はかだったかわかるけれど、それを理解したからといって、のうのうと昔のように戻れるわけがなかった。
なのに、伊理穂はそれがわからないのだろうか。
あんなに怯えた表情で、体だって小さく震わせてるくせに。
(なのに洋平、洋平って毎日毎日……。ほんと、ばっかじゃねえの)
それが逆に自分と伊理穂の距離を思い知らせて、オレを苦しくさせるのに。
と、そんなことを思いながら曲がり角を折れたときだった。
『よう、水戸。待ってたぜ』
『――!』
視線を上げると、そこには数十人の不良グループがいた。
中に、見覚えのある顔がひとつあって、洋平は合点がいく。
あれは、この前、こっぴどくボコボコにしてやったやつだ。
(なるほど。仕返しに来たってわけね)
さすがの洋平も、この人数をひとりで相手するのはちょっと厳しい。
洋平は虚勢を張ると、嘲るように口の端を持ち上げて、見知った顔を睨みつけた。
『随分大勢連れてきたんだな』
『お前に痛い目みせてやるために、プライドもなにもかもぜんぶかなぐり捨てたんだよ。覚悟しろよな』
言葉と共に殴りかかってきたそいつのこぶしを、洋平はひらりと身をかわしてよけた。
『がっ……は。……くそっ』
なんとか人数を五人まで減らすことはできたものの、もうそれ以上はもう無理だった。
力尽きて倒れこんだ洋平を取り囲んで、残った不良たちが容赦なく蹴りを入れてくる。
(くそっ! こんなやつら、一対一なら負けねぇのに……!)
体を小さく丸めて、頭を腕で庇って、必死でその暴行に耐えていると。