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そんな気持ちを隠して、いつも自分に笑顔を向けてくれていたなんて。
(ぜんぜん、気付かなかった……)
洋平の父が交通事故で亡くなったのは、つい三ヶ月前のことだった。
一家の大黒柱を失ってその経済を支えるために、洋平の母である弥生は、看護士を目指して学校に通い始めた。
短期間での資格取得を目指す弥生は、朝から晩まで専門学校へと通いつめていて、その間、洋平は伊理穂の家で面倒を見ることになった。
ずっと、ずっと笑っていたのに。
洋平は、笑顔を絶やさなかったのに。
(その裏で、洋平がこんなに苦しんでたなんて)
どう謝ったらいいんだろう。
そんなつもりはなかった。
洋平をそばで支えたかっただけだったのに。
思わず伸ばした手を、洋平が乱暴に振り払う。
『さわんなって言ってんだろ! ――お前なんか、大ッ嫌いなんだよ! 二度とオレに近づくな!』
* * *
「洋平っ!」
伊理穂は勢いよく体を起こした。
その違和感に、伊理穂はハッと我に返る。
(ゆ、夢……?)
小さく震えるからだを、伊理穂はぎゅっと抱きしめる。
あれは、中学にあがったばかりの頃の夢だ。大好きな洋平から、笑顔が消えたあの日。
伊理穂は恐怖であがった息を整えて、ばくばくなる胸をおさえた。
と、ふいに何かが頬に触れた。
驚いて顔を上げると、心配そうに伊理穂の顔を覗き込む洋平と目が合った。
「洋平……?」
まだ夢現の状態でおそるおそる名前を呼ぶと、洋平が優しく微笑んでくれた。
「どうした、伊理穂。大丈夫か? 怖い夢でも見たか?」
「――洋平っ!」
これは、高校一年生の、今の洋平だ。
そう理解すると、ふいに胸がいっぱいになって、伊理穂は洋平に抱きついた。
不良グループと決着をつけて、学校から謹慎処分を言い渡されて、その日の部活が終了になる時間になっても、まだ伊理穂は目を覚まさなかった。
今日は、伊理穂の家の両親は出かけていていない。
洋平は彩子から伊理穂を引き取ると、そのまま抱きかかえて自分の家まで連れ帰った。
青白い顔で浅い呼吸を繰り返す伊理穂をそっとベッドに横たえて、自分はその脇に椅子を引き寄せて腰を降ろす。
怖い夢でも見ているんだろうか。伊理穂の形のいい眉が時折きゅっと寄せられて、小さな唇からは、呻くような声が漏れた。
洋平はその頬を優しく撫でて、眠る伊理穂の名をそっと囁く。
「伊理穂……」
洋平の脳裏に、過去の苦い記憶がよみがえる。
父親が死んですぐの頃、洋平は一度、ひどく荒れた時期がある。
憧れて尊敬していた父親を不慮の事故で突然失って、母親が看護士になるために学校へ通い始めて家へよりつかなくなって、ほとんど伊理穂の家に預けられた形になっていたあのとき。
ほんとうは感謝していたのに、被害者意識ばかりが肥大して。どうしてオレばっかりって、この世のすべてを呪った。優しく差し伸べられた伊理穂の家族の手が同情にしか見えなくて、隣で優しく笑う伊理穂に、やり場のない感情をぶつけて傷つけた。
(ぜんぜん、気付かなかった……)
洋平の父が交通事故で亡くなったのは、つい三ヶ月前のことだった。
一家の大黒柱を失ってその経済を支えるために、洋平の母である弥生は、看護士を目指して学校に通い始めた。
短期間での資格取得を目指す弥生は、朝から晩まで専門学校へと通いつめていて、その間、洋平は伊理穂の家で面倒を見ることになった。
ずっと、ずっと笑っていたのに。
洋平は、笑顔を絶やさなかったのに。
(その裏で、洋平がこんなに苦しんでたなんて)
どう謝ったらいいんだろう。
そんなつもりはなかった。
洋平をそばで支えたかっただけだったのに。
思わず伸ばした手を、洋平が乱暴に振り払う。
『さわんなって言ってんだろ! ――お前なんか、大ッ嫌いなんだよ! 二度とオレに近づくな!』
* * *
「洋平っ!」
伊理穂は勢いよく体を起こした。
その違和感に、伊理穂はハッと我に返る。
(ゆ、夢……?)
小さく震えるからだを、伊理穂はぎゅっと抱きしめる。
あれは、中学にあがったばかりの頃の夢だ。大好きな洋平から、笑顔が消えたあの日。
伊理穂は恐怖であがった息を整えて、ばくばくなる胸をおさえた。
と、ふいに何かが頬に触れた。
驚いて顔を上げると、心配そうに伊理穂の顔を覗き込む洋平と目が合った。
「洋平……?」
まだ夢現の状態でおそるおそる名前を呼ぶと、洋平が優しく微笑んでくれた。
「どうした、伊理穂。大丈夫か? 怖い夢でも見たか?」
「――洋平っ!」
これは、高校一年生の、今の洋平だ。
そう理解すると、ふいに胸がいっぱいになって、伊理穂は洋平に抱きついた。
不良グループと決着をつけて、学校から謹慎処分を言い渡されて、その日の部活が終了になる時間になっても、まだ伊理穂は目を覚まさなかった。
今日は、伊理穂の家の両親は出かけていていない。
洋平は彩子から伊理穂を引き取ると、そのまま抱きかかえて自分の家まで連れ帰った。
青白い顔で浅い呼吸を繰り返す伊理穂をそっとベッドに横たえて、自分はその脇に椅子を引き寄せて腰を降ろす。
怖い夢でも見ているんだろうか。伊理穂の形のいい眉が時折きゅっと寄せられて、小さな唇からは、呻くような声が漏れた。
洋平はその頬を優しく撫でて、眠る伊理穂の名をそっと囁く。
「伊理穂……」
洋平の脳裏に、過去の苦い記憶がよみがえる。
父親が死んですぐの頃、洋平は一度、ひどく荒れた時期がある。
憧れて尊敬していた父親を不慮の事故で突然失って、母親が看護士になるために学校へ通い始めて家へよりつかなくなって、ほとんど伊理穂の家に預けられた形になっていたあのとき。
ほんとうは感謝していたのに、被害者意識ばかりが肥大して。どうしてオレばっかりって、この世のすべてを呪った。優しく差し伸べられた伊理穂の家族の手が同情にしか見えなくて、隣で優しく笑う伊理穂に、やり場のない感情をぶつけて傷つけた。