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夢小説設定
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「いや! やだやだ洋平、お願いやめて!」
「おーい、伊理穂ちゃん。オレたちはケンカしてもいいの~?」
どこか淋しそうに呟く大楠に、伊理穂は顔を向ける。
「大楠くんたちは……がんばって! でも洋平はだめ!」
「うわ、ひでー」
「まあしょうがねえよ。伊理穂ちゃんだもんな」
「泣くな、大楠」
「はっはっは」
緊張感の欠けるやり取りをする花道たちに苦笑を零しながら、洋平は伊理穂の頭を優しく撫でる。
「伊理穂、大丈夫だから。あぶねえからお前はあっちに行ってろ。な?」
「いや! いやっ!」
伊理穂は洋平の体にきつく抱きついて、大きくかぶりを振った。
洋平が困ったように嘆息する気配が、体を通して伝わってくる。
伊理穂はそんな洋平の体を離すまいと、さらに抱きしめる腕に力を込めた。
胸に嵐のように恐怖が渦巻く。
洋平が殴られたところを想像するだけで、体が震えた。
伊理穂の内側を食い荒らすような激しい感情が、全身を駆け巡る。
洋平が傷つく事のほうが、自分がそうされることよりも、何倍も恐怖だった。
必死で洋平に縋りついていると、洋平が伊理穂と目線を合わせるように腰を折ってきた。
「伊理穂……」
洋平は切ないような表情で伊理穂の瞳から溢れる涙を拭うと、顔を寄せてくる。
「洋平……?」
「ごめんな」
そんな洋平の声が聞こえたと思ったら、伊理穂の首に鈍い衝撃が走った。
「!」
ぐるんと世界がまわる。
視界が、狭まっていく。
「よ……へ……」
切なそうに微笑む洋平の笑顔を最後に、伊理穂は意識を手放した。
洋平は、ぐったりと力をなくした伊理穂の体を左腕でしっかり抱きとめると、その頭を優しく撫でた。
それを見ていた彩子が、咎めるように声を上げる。
「水戸洋平……アンタ!」
「すんません、アヤコサン。こいついるとケンカできないんで」
洋平はバツが悪そうに言って、流川に顔を向ける。
「流川。悪いがこいつ見ててやってくれないか……って、お前なんだその血。すげーケガだな。誰にやられたんだよ」
流川の顔は半分以上血に染まっていた。
トレーニング着にも、夥しい量の血が飛び散っている。
流川は腕につけたリストバンドで、ぐいと無造作にその血を拭うと、切るような眼差しで洋平を睨みつけた。
「これくらいなんでもねー」
「はは。とてもそうは見えねぇけどな」
「てめーこそ、月瀬になにしやがる」
「……これが、一番安全なんだよ。手刀のことなら心配すんな。ちゃんと痕も、後遺症も残らねえようにやってっから」