「花道～っ！ しっかり～っ！」
「おおっ、伊理穂！」

花道は顔をあげると、練習を放り出して伊理穂の方にやってきた。

「はっはっは。どうだ、この天才・桜木花道の華麗なドリブルさばきは！」
「うん、まだまだだね」

にっこり笑顔で言い放つ。

「ぐぬっ!? なにがだどがだ!?」
「え～。まず、ドリブルがぎこちない。リズムが一定じゃないし、ボールを叩きつけてる感じ。もっと、叩きつけるんじゃなくて、ボールが手の平に吸い付くようなイメージだよ。それに、ボールを見ながらドリブルなんて、うまい下手の前に、論外」

一息でそこまで言い放つと、花道ががっくりとうなだれた。

「……相変わらず伊理穂は手厳しいな」
「大好きなバスケのことだからね」
「だがしかぁ～し！ こんなことではこの天才・桜木はへこたれたりしなーいっ！ 特訓あるのみ！ ふんぬ～っ！」

妙な気合を入れると、花道は再びドリブル練習に戻った。
その様子をくすくす眺めていると、不意に名前を呼ばれた。

「月瀬」
「流川くん」

同じクラスの流川楓。バスケ部期待の新人が、ボールを小脇に抱えて伊理穂の目の前に立っていた。

「見学？」
「うん。男バスはどんな感じなのかなって」
「ふーん。――それで？」
「え？」
「マネージャー」
「ああ」

言葉少なに聞いてくる流川だが、それでも自分のことを気にしてくれいるのだとわかって、伊理穂はうれしくなった。
にっこりと微笑む。

「そうだね。どうしようかなあ」
「……伊理穂、流川と知り合いなのか？」

それまで黙っていた洋平が、ふと口をはさんだ。
流川は洋平をちらりと一瞥すると、興味無いといわんばかりにすぐに視線を伊理穂に戻した。
内心面白くなくて、洋平は少し眉を寄せる。

「うん。同じクラスなの」
「へえ」
「なに、洋平？ 眉間に皺寄ってる」

伊理穂が自分の眉間に人差し指を当てながら、洋平の真似をするようにむうっと皺を寄せてみせる。
洋平はそんな伊理穂に笑って見せると、その頭を優しくぽんぽんと叩いた。
その動作に、流川の眉がぴくりと動く。

「ははっ。なんでもないよ。ただ、流川の方から話しかけるなんてめずらしいなと思ってな」
「――ふたりは、どんな知り合い？」

今度は流川が伊理穂にたずねる。

「洋平は幼馴染なの。小さいころからずっと一緒なんだよ！」
「幼馴染……ね」
「……なんだよ」
「――別に」

洋平と流川が睨み合ったそのとき。
ドガッという音ともに、流川の頭が不自然に前に倒れた。