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「ハルコチャン!」

洋平は駆けると、校門を飛び出そうとしていた晴子の姿を見つけて呼び止めた。
晴子がその声に振り返る。

「よ、洋平くん……!」

洋平は晴子のそばまで行くと、申し訳無さそうに眉尻を下げた。

伊理穂がごめんな」
「……っ。伊理穂ちゃん、ひどいよ、洋平くん……!」
「……ああ。とりあえず、ハルコチャン。場所うつそうぜ? こんなところでハルコチャンに泣かれてると、オレ、明日職員室で説教くらわされそうだからな……」

言うと、洋平は晴子を近くの公園に連れ出した。
そこで缶紅茶と缶コーヒーを買って、晴子に差し出す。

「どっちがいい? ハルコチャンの好みわかんなくて、こんなんなっちまったけど」

バツが悪そうに言う洋平に、晴子が小さく笑って首を振る。
歩いているうちに涙はおさまったようだけれど、晴子の瞳は潤んで赤くなっていた。
洋平の胸が罪悪感に痛む。

(オレが泣かせたわけじゃねぇけどな……)

長いこと伊理穂と幼馴染みでいる習性か。
なんとなく自分が憐れに思えて、洋平は口もとに自嘲をのぼらせる。

「ありがとう、洋平くん。じゃあ、紅茶もらっていい?」
「どーぞ」

洋平は缶紅茶のプルトップを開けて晴子に渡すと、自分は缶コーヒーを開けて口をつけた。
晴子もお礼を言ってそれに口をつけると、ホッと張り詰めていた息を吐きだした。
洋平はそれを見て、いたわる様に口を開く。

「大丈夫か? ハルコチャン」
「うん……。伊理穂ちゃんって、ときどきほんとうにひどい……。だって、誰がどう見たって流川くんは伊理穂ちゃんのことが好きなのに、伊理穂ちゃんだってきっとそれに気付いてるのに、なのに流川くんに片想いしてるわたしに向かって一緒にがんばろうだなんて……! あんまりだわ……」
「はは……。ほんとうに、そうだよなあ……」

痛いくらいに晴子の気持ちがわかって、洋平は思わず天を仰いだ。
この子も、自分と同じ苦しみを抱えている。
思うだけでやるせなかった。

「だけどさ、ハルコチャン。伊理穂は鈍感だから……多分、流川の気持ちに気付いてないと思うぜ」
「――ウソ! あんな誰の目にも明らかなのに!」
「だよな。俺もそう思う。だけど、伊理穂は絶対気付いてない。誓ってもいいぜ」
「洋平くん?」

確信を持って言う洋平に、晴子が不思議そうに顔をあげた。
洋平はそれに、ははと乾いた笑いを返す。

「だってさ、ハルコチャン。伊理穂のやつ、16年間もそばにいるオレの気持ちにも、ぜんっぜん気付いてないんだぜ?」

洋平の言葉に晴子が目を瞠った。

「それじゃあやっぱり、洋平くんは伊理穂ちゃんのこと……」
「――あいつにはナイショな」

困ったように笑って見せると、晴子が静かに頷いた。

「う、うん。でも本当に? 伊理穂ちゃんが気持ち気付いてないって」
「はは、本当。それどころか、オレ今流川との恋愛相談されてるの」
「うっそ!」

驚く晴子に洋平は肩を竦める。

「ほんとう。だからさ、さっきハルコチャンにあんな風に言ったのだって、伊理穂には悪気なんかないと思うぜ? むしろ、ハルコチャンのこと好きだから、ちゃんと自分の気持ちのこと言っておきたかったんだろ」
「……そうよね。伊理穂ちゃんがそんな子じゃないってわかってたのに、わたし……」

晴子が後悔に表情をゆがめ、顔を俯かせた。
洋平はそんな晴子の頭をぽんぽんと二回優しく叩くと、顔をあげた晴子を元気付けるように微笑んだ。

「大丈夫だって。あいつ、ハルコチャンのことすっげえ好きだから。きっと許してもらったってだけで大喜びするよ。……だから、あいつとこれからも仲良くしてやって、ハルコチャン」
「洋平くん……。うん、わたしも伊理穂ちゃんのこと大好き。ありがとう、洋平くん」
「はは、どういたしまして」

答えると、洋平は缶コーヒーに口をつけた。
乾いた喉に、苦味のある液体が滑り落ちていく。

「わたしも、洋平くんみたいに爽やかに応援できるようになりたいな」

ぽつりと呟かれた晴子の言葉に、洋平は苦笑する。

「ハルコチャン、オレ、全然爽やかなんかじゃないぜ?」
「ええ、ウソ!」
「ほんと。オレの心ん中、けっこうぐちゃぐちゃ。今まで突っ張って生きてきたつもりだけど、こんなだったのかって自分で自分が情けなくなるくらい……な」
「……全然そんな風に見えない……」
「ははは。まあでも、恋愛なんてそんなもんなんだろ? ……しょうがねえよな。胸が痛くなったり苦しくなったり、好きだったらさ」
「洋平くん……」

晴子がくすりと小さく笑う。

「うん、そうだね。よし、わたしも伊理穂ちゃんに負けないようにがんばらなくっちゃ!」
「だな。……でも、ハルコチャンにはもっと身近にいい男がいるかもよ?」
「え?」
「こっちのハナシ」

洋平は笑って言うと、公園の時計に目を向けた。
いつのまにかバイトぎりぎりの時間になっていた。

「おっと……」

洋平は缶コーヒーを傾けて一気に空にすると、それを近くのゴミ箱に投げ入れた。

「じゃあハルコチャン。オレバイトだから行くわ」
「あ、うん。……洋平くん、バイトがんばってね」
「サンキュー。伊理穂と花道のことよろしくな」
「うん」

笑顔で手を振ってくる晴子に見送られながら、洋平はバイトへと急いだ。
胸の中にある、大切な伊理穂の笑顔。
少しの痛みとともに、それを思い浮かべながら。



To be continued…
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