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夢小説設定
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「晴子ちゃん……?」
「……どいよ」
「え?」
聞き取れなくてもう一度訊ね返すと、晴子がキッと顔をあげた。
悲しみと苦しみがその表情からはうかがいしれて、伊理穂の胸がぎゅっとつかまれたようになる。
「はるこ……ちゃん?」
「伊理穂ちゃん、ひどい! ひどいわ……! そんなの、そんなこと……! 伊理穂ちゃん、自分のほうが流川くんに近いってわかってて、わたしなんかが伊理穂ちゃんに敵うわけないって、そうわかっててそんなこと言うんでしょう……!?」
「え、違う、晴子ちゃん。わたし、そんなつもりじゃ……」
「ひどいよ、伊理穂ちゃん……!」
晴子の瞳から、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていく。
「はるこちゃ……」
「伊理穂ちゃんなんか大ッ嫌い!」
「!」
ぐさりと、なにか尖ったものが伊理穂の心臓に突き刺さった。
晴子は踵を返してその場から去っていく。
「あ、晴子ちゃ……」
頭が混乱して、うまく考えられない。
どうしよう、晴子を傷つけてしまった。
でも追いかけなくては。
思って伊理穂が駆け出そうとしたとき。
「伊理穂」
洋平が伊理穂の肩を掴んだ。
伊理穂はハッとなって洋平にすがりつく。
「よ、洋平……! どうしよう、わたし、わたし晴子ちゃんを……っ!」
「大丈夫、大丈夫だから。伊理穂、落ち着け。な?」
「う、うん……」
伊理穂の瞳からも、次々と涙が流れてきた。
洋平は伊理穂の涙をそっと親指の腹で拭うと、伊理穂の頭を優しく撫でた。
「伊理穂。晴子ちゃんはオレに任せろ。お前が今追いかけるのは逆効果だから。な?」
小さい子をあやすような、柔らかい洋平の声音が伊理穂の耳に響く。
あたたかい、安心する声。
伊理穂の混乱が、すうっと静まっていく。
「うん……! 洋平、わたし、晴子ちゃんのこと大好きなの。だから……」
「わかってるよ」
洋平が優しく微笑む。
伊理穂の悲しみに沈んだ心にやわらかな光がさして、だんだんとあたたかくなっていく。
「わかってる。だから安心しろ。な? オレがちゃんと晴子ちゃんと話しつけてくるから」
「うん……っ」
洋平は伊理穂の頭をもう一度優しく撫でると、晴子の後を追ってその場を走りだした。