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伊理穂は自分のふいの思い付きに、一人頭に疑問符を浮かべた。
と。
「とにかく! 毒盛るくらいなら最初からお前の胃の心配なんてしないで、とっくにさっきボッコボコにされてっから大丈夫だよ」
大きく咳払いをして言う洋平。
伊理穂はそれに得心した様子で頷き返す。
「そうだよね」
「そうそう」
「ふふ。ほんとうに二人は仲が良いね。わたし、幼馴染みなんていないから、なんか羨ましいなあ」
その様子を見ていた晴子が、ほんとうに羨ましそうに口を開いた。
伊理穂はそれに顔をほころばせる。
「いいでしょ!? 自慢の幼馴染みなんだー! 不良だけどね」
こそっと最後のせりふを晴子の耳元で囁くと、晴子が小さく吹き出した。
洋平がそれに片眉を上げる。
「伊理穂チャン。いまなーんかオレの悪口言ったでしょ」
「言ってませんよー」
ねー、と晴子と笑い合う。
と、その時、体育館に黄色い歓声が響き渡った。
なにごとかと声の元に視線を移せば、そこには先ほど伊理穂を取り囲んだ三人の女の子たちがいた。
彼女たちの見ている先には、当然流川。
伊理穂の胸に、ちくりと小さな棘が刺さる。
「いいなあ、あの子達は」
隣りで晴子がぽつりと呟く。
「流川くんのこと、あんなにまっすぐ好きって言えて、わたしにはできないから少しだけ羨ましい……」
あんな風には応援したくないけどね、とぺろっと舌を出して晴子が言う。
伊理穂はそれに小さく笑みを返した。
そうだ、晴子も流川が好きなんだった。
(それなら、ちゃんと言わなきゃだよね)
伊理穂も流川を好きだってこと。
思って伊理穂は心の中で気合を入れた。
言おうと口を開いて、けれど次の瞬間なんとなく心細くなって、伊理穂は隣りに立つ洋平の制服の裾を掴んだ。
それに気付いた洋平がこちらを見た気配がしたけれど、長年の付き合いで伊理穂の空気の変化を感じ取ったのか、何も言っては来なかった。
掴んだ洋平の制服からパワーをもらって、伊理穂は再び決意を固めて口を開く。
「あ、あのね晴子ちゃん!」
「うん?」
なあにと晴子がかわいらしい笑みを浮かべて振り向く。
それを見て一瞬しぼみそうになった決意を、洋平の服の裾をぎゅっと握り締めることで取り戻して、伊理穂は言う。
「あのね、実は、わたしも流川くんのことが好きなのっ」
「え……っ」
晴子の瞳が、驚愕に見開かれていく。
伊理穂はそんな晴子の表情の変化を複雑な気持ちで見つめながら、焦ったように言葉を繋ぐ。
「あのね、だけどね、これは晴子ちゃんを牽制したかったりとか、ましてや敵対したいってわけじゃなくて、その、一緒にがんばろうねってことが言いたくって……!」
伊理穂のその言葉に、晴子は傷ついたように顔を歪ませた。
すぐに俯いてしまった晴子に、伊理穂は慌ててその顔を覗き込む。