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(と、とにかくなにか話さなくっちゃ! な、なんでもいいから……!)
決意して口を開いたときだった。
「オイ」
「は、はぃい!」
またも流川に先を越された。
伊理穂が肩を飛び上がらせて返事をするさまを、少し傷ついた瞳で見つめながら、流川が言う。
「……着いた」
「え?」
流川が小さく顎でしゃくった先に、伊理穂の家があった。
いつの間に。
伊理穂は目を丸くする。
「あ、れ本当だ。全然気付かなかった……。あ、流川くん、送ってくれてありがとう! また明日ね!」
伊理穂は咳き込むようにそう言うと、その場を逃げ出すようにして駆け出した。
「月瀬!」
その背中に、追いかけるように流川の声が届く。
伊理穂は駆ける足を止めて振り返った。
「な、なに?」
「……オレ、なんかしたか?」
ぎくりと、伊理穂の心臓が音を立てる。
「あ、ち、違うの。ごめん、流川くん。実は今日、ちょっと体調悪くて……!」
ごまかすために言った伊理穂の言葉に、流川が小さく目を瞠った。
からからと自転車を押して伊理穂の前まで来ると、伊理穂のおでこにそっと手をあてる。
どんと心臓が爆発したように脈打った。
ドッドッドッドッと心臓が今まで聞いた事ないくらい激しい音で鼓動を始める。
(ど、どうしよう。流川くんに心臓の音が聞こえちゃう……!)
ぎゅっと伊理穂は目をきつく閉じた。
おでこにある流川のひんやりとした手の感触。
それを意識した瞬間、伊理穂の頭が真っ白になって、何も考えられなくなっていく。
伊理穂にとっては永遠にも思えるような時間が流れた後、流川がそっと伊理穂のおでこから手を離した。
流川にバレないように、伊理穂は内心でホッと息をはく。
頬が熱い。体中からは変な汗が噴き出してくる。
一刻も早くこの場を立ち去りたかった。
「少し熱い」
「え?」
「月瀬、体調の悪いときはムリすんじゃねー。言い出しにくかったらオレに言え。オレがキャプテンや先輩に言ってやる」
「流川くん……」
「今日は安静にして寝ろ。夜更かしすんな。わかったか?」
「う、うん」
伊理穂が返事をすると、流川が薄く微笑んだ。
その笑顔の優しさに、伊理穂の胸がきゅうっと締め付けられたようになる。
(流川くん……)
流川はじゃ、と言って踵を返すと、そのまま自転車に跨って帰っていった。
曲がり角を曲がってその背中が見えなくなっても、伊理穂はずっと流川の消えたほうを見つめていた。
胸には、罪悪感と嬉しさと、複雑な感情がない交ぜになって溢れかえっている。
(流川くん。変な態度とって、ウソついてごめんね……)
きっと、きっと明日には普通に接せられるようにがんばるから。
誓うように流川の消えた曲がり角をじっと見つめて、伊理穂は心の中で呟いた。
To be continued…