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放課後。
授業も終わり、誰もいなくなった1年10組の教室で、伊理穂は窓際の自分の席で頬杖をついて、ぼおっと外を眺めていた。
眼下に広がるグラウンドには、複数の運動部がところせましとひしめき合っている。
仮入部の一年生だろうか。グラウンドの端に立って、見学をしている生徒もちらほらいた。
しばらくそれを眺めやったあと、ふぅとため息を漏らし、伊理穂は手元に視線を戻す。
『入部届け』。
そう書かれた目の前のB5の紙は、サイズの割には強い存在感を放っていて、伊理穂は不機嫌に眉を寄せた。
(なによう、ただの紙のくせに偉そうにしちゃってさ)
腹いせに、しわひとつないその用紙に人差し指と中指を置き、グッと中心に向けて力を入れた。
クシャッと軽い音を立てて、紙は無残によれよれになる。
(ふふん。ざまあみなさい)
後にそのよれよれの紙を提出しなければならないことなど、すっかり忘れて勝ち誇る伊理穂の耳に、ドタドタと騒々しい足音が届いた。
(なに?)
だんだん近づいて来る足音を確かめようと廊下に目を向けると、開いた扉の先を見知った四つの影が走り去って行った。
(洋平――?)
あの影は桜木軍団と称される、洋平たちではないか?
がたんと椅子を鳴らし立ち上がると、走り去った影の一つが引き返して来た。
やっぱり洋平だ。
伊理穂の表情が自然と綻ぶ。
「伊理穂!? お前、こんな遅くまで一人で何やってんだ?」
「うん、ちょっとね。洋平は?」
「俺は今から体育館に行くとこ。伊理穂も来るか? おもしれーもんが見れるぜ」
「おもしろいもの?」
笑いを含んでいう洋平に、伊理穂はハテナマークを頭上に踊らせる。
「花道がバスケ部に入部したんだよ」
「花道が!?」
そんな馬鹿な。
あの不良一直線の桜木花道がバスケ部!?
あまりに掛け離れすぎた現実にすぐに理解できず、伊理穂は目を白黒させた。
「花道、好きな子ができたんだ。その子にバスケ部をすすめられて――な」
な。じゃない、な。じゃ。
こっちは真剣に部活をどうするか悩んでいるというのに。
唸り声を上げて再び深く刻まれた伊理穂の眉間のしわを、洋平はきょとんと不思議そうに見やる。
「なんだ、伊理穂。どうした?」
「だってわたしはこんなに真剣に悩んでるのに~」
「悩んでる?」
「部活よ、部活! わたしは女バスに入るか、男バスでマネやるか悩んでるのに、花道は好きな子にすすめられたからもう入部済みって!!」
「――ああ。はは、動機が不純ってか?」
「ほんとよ! ちぇ~、もう花道め~」
「ははは」
恨めしげに、机にあごを乗せて突っ伏す伊理穂を見て、洋平が軽快に笑った。
伊理穂の前の席の椅子を引き、伊理穂に向かいあうようにして腰掛ける。
「そんで? 伊理穂ちゃんはどうするんですか?」
「どうしよう……」
机に突っ伏したまま伊理穂がくりっと首を傾けると、洋平が低く唸った。
「うーん……。その身長で高校でもバスケ続けるのはきついんじゃないか? そりゃもちろん、お前が女バスに選手として入るって言うなら俺は応援するけどよ」
「――やっぱりそうかな。洋平もそう思う?」
「まあな。それがすべてとは言わねえけど、どうしたって体格差はついてまわるよな」
「――……だよねえ」
はああ、と大きくため息を落とす伊理穂に洋平は小さく笑うと、その手を伸ばして伊理穂の頭にぽんぽんと軽く触れた。
「まあ、そう急ぐなよ。まだ締め切りってわけじゃないんだし、とりあえず候補のひとつでもある男子バスケ部を、花道からかいがてら見てみよーぜ」
「……だね」
「おう。さ、そうと決まれば早く行くぞ」
洋平は机に突っ伏したままの伊理穂の頭をくしゃくしゃっと撫で回すと、手を差し出して伊理穂を立たせ、体育館へと向かった。
To be continued...
授業も終わり、誰もいなくなった1年10組の教室で、伊理穂は窓際の自分の席で頬杖をついて、ぼおっと外を眺めていた。
眼下に広がるグラウンドには、複数の運動部がところせましとひしめき合っている。
仮入部の一年生だろうか。グラウンドの端に立って、見学をしている生徒もちらほらいた。
しばらくそれを眺めやったあと、ふぅとため息を漏らし、伊理穂は手元に視線を戻す。
『入部届け』。
そう書かれた目の前のB5の紙は、サイズの割には強い存在感を放っていて、伊理穂は不機嫌に眉を寄せた。
(なによう、ただの紙のくせに偉そうにしちゃってさ)
腹いせに、しわひとつないその用紙に人差し指と中指を置き、グッと中心に向けて力を入れた。
クシャッと軽い音を立てて、紙は無残によれよれになる。
(ふふん。ざまあみなさい)
後にそのよれよれの紙を提出しなければならないことなど、すっかり忘れて勝ち誇る伊理穂の耳に、ドタドタと騒々しい足音が届いた。
(なに?)
だんだん近づいて来る足音を確かめようと廊下に目を向けると、開いた扉の先を見知った四つの影が走り去って行った。
(洋平――?)
あの影は桜木軍団と称される、洋平たちではないか?
がたんと椅子を鳴らし立ち上がると、走り去った影の一つが引き返して来た。
やっぱり洋平だ。
伊理穂の表情が自然と綻ぶ。
「伊理穂!? お前、こんな遅くまで一人で何やってんだ?」
「うん、ちょっとね。洋平は?」
「俺は今から体育館に行くとこ。伊理穂も来るか? おもしれーもんが見れるぜ」
「おもしろいもの?」
笑いを含んでいう洋平に、伊理穂はハテナマークを頭上に踊らせる。
「花道がバスケ部に入部したんだよ」
「花道が!?」
そんな馬鹿な。
あの不良一直線の桜木花道がバスケ部!?
あまりに掛け離れすぎた現実にすぐに理解できず、伊理穂は目を白黒させた。
「花道、好きな子ができたんだ。その子にバスケ部をすすめられて――な」
な。じゃない、な。じゃ。
こっちは真剣に部活をどうするか悩んでいるというのに。
唸り声を上げて再び深く刻まれた伊理穂の眉間のしわを、洋平はきょとんと不思議そうに見やる。
「なんだ、伊理穂。どうした?」
「だってわたしはこんなに真剣に悩んでるのに~」
「悩んでる?」
「部活よ、部活! わたしは女バスに入るか、男バスでマネやるか悩んでるのに、花道は好きな子にすすめられたからもう入部済みって!!」
「――ああ。はは、動機が不純ってか?」
「ほんとよ! ちぇ~、もう花道め~」
「ははは」
恨めしげに、机にあごを乗せて突っ伏す伊理穂を見て、洋平が軽快に笑った。
伊理穂の前の席の椅子を引き、伊理穂に向かいあうようにして腰掛ける。
「そんで? 伊理穂ちゃんはどうするんですか?」
「どうしよう……」
机に突っ伏したまま伊理穂がくりっと首を傾けると、洋平が低く唸った。
「うーん……。その身長で高校でもバスケ続けるのはきついんじゃないか? そりゃもちろん、お前が女バスに選手として入るって言うなら俺は応援するけどよ」
「――やっぱりそうかな。洋平もそう思う?」
「まあな。それがすべてとは言わねえけど、どうしたって体格差はついてまわるよな」
「――……だよねえ」
はああ、と大きくため息を落とす伊理穂に洋平は小さく笑うと、その手を伸ばして伊理穂の頭にぽんぽんと軽く触れた。
「まあ、そう急ぐなよ。まだ締め切りってわけじゃないんだし、とりあえず候補のひとつでもある男子バスケ部を、花道からかいがてら見てみよーぜ」
「……だね」
「おう。さ、そうと決まれば早く行くぞ」
洋平は机に突っ伏したままの伊理穂の頭をくしゃくしゃっと撫で回すと、手を差し出して伊理穂を立たせ、体育館へと向かった。
To be continued...