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夢小説設定
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「だいたいああいう生徒はろくな大人になりはしないんだ」
「――え?」
「弱いものをいじめて、強いものになびいて、気に入らなければすぐに暴力で解決しようとする。あんなやつらは人間のクズだ」
「!」
「いいか、月瀬。ああいう連中とは……」
ついに伊理穂の怒りが爆発した。
「洋平のことよく知りもしないくせに、勝手なこと言わないで!」
突然廊下から響いてきた伊理穂の怒号に、夢の世界に飛び立とうとしていた流川は一瞬で現実に引き戻された。
何事かと廊下のほうへ視線を向ける。ちょうど廊下側の生徒が興味を惹かれて開けた窓から、担任の加藤と対峙してる伊理穂の姿が見えた。
(月瀬……?)
伊理穂は今まで見たこともないくらい怒っていた。
顔を真っ赤に染めて、体を怒りに震わせて、泣きそうに潤んだ瞳で加藤を鋭く睨みつけている。
対する加藤は、伊理穂のその様子に驚いたように立ち尽くしていた。
伊理穂は一度何かを堪えるように唇を噛み締めると、やがて感情を爆発させるようにその口を開いた。
「洋平は弱いものイジメなんて絶対しません! 洋平はすっごく優しい人なんだから! 確かに不良だしケンカだってするしリーゼントだし授業態度もろもろは不真面目かもしれないけど、それでも洋平は人間のクズなんかじゃない! なのに、どうしてっ……!」
伊理穂の瞳から涙が零れた。
流川はそれを見て、胸をつかまれた様にハッとなる。
洋平のために流す涙。その姿があまりに綺麗で、流川は言葉を失った。
(月瀬……)
流川の胸に鈍い痛みが走る。
そこからじんわりと痺れるような痛みが全身に広がって、流川は震える息を吐き出した。
心臓が細い糸でぎゅうぎゅう縛り上げられてるみたいだ。
苦しい。
「洋平、の、こと……、そんな……、見た目だけで悪く……言うっ……!」
伊理穂が嗚咽のあまり言葉をつかえさせたとき。
「伊理穂!」
別の声が乱入した。
足音が近づいてきたかと思うと、流川の見つめる窓の奥に洋平が現れた。
洋平は伊理穂に駆け寄ると、加藤から伊理穂を庇うように立った。
洋平のクラスである7組は、流川たち10組と同じ階だ。
きっと騒ぎに気付いて駆けつけてきたのだろう。
視界の先の伊理穂は洋平に気付くと、その背中にすがりつくようにして抱きついた。
洋平は後ろに首をめぐらせて、それを困ったような優しい瞳で見つめると、すぐに目の前の加藤を見た。
この辺りを占めている不良とは思えない、爽やかな笑顔を浮かべて、洋平が言う。
「先生。オレ、こいつとは幼馴染みなんです。だからいじめたりなんかしませんよ」
「み、水戸! お前のクラスはまだショートホームルームの最中だろう!」
洋平の声にハッと我に返った加藤が、取り繕うように声を荒くする。
「はい。でも、こいつの声が聞こえたんで」
洋平は伊理穂を振り向かずに親指で自分の背後を示した。
今度は困ったように眉尻を下げて笑う。
「オレは確かに不良なんで、先生に何言われようと全然構わないんですけど、こいつのことはほっといてやってもらえますか?」