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「結ちゃん、おはよー!」
「伊理穂、おはよう。今日も元気ね」
伊理穂は洋平と別れて自分のクラスに行くと、早速新しく出来た友達に挨拶をした。
肩口まで伸びたさらりとまっすぐな髪に、優しそうな瞳の彼女は、久遠結子という。
伊理穂が湘北高校に入って、初めて出来た友達だ。
入学時や、進級当初によくある、出席番号順の席で、結子が伊理穂の前だったのがきっかけだった。
一見大和撫子な結子が、実は案外ドライで過激な性格をしていることを、伊理穂はこの二週間でだいぶ把握しはじめてきた。
最初は驚いたけど、むしろ今の方が楽しくていいと伊理穂は思う。
「わたしは元気だけが取り柄だもん」
「そう? 伊理穂の元気は、見てるこっちも明るくなれるからいいわね。私は好きよ」
「結ちゃん……。大好きっ!!」
「はいはい、ありがと」
言って抱きつこうとした伊理穂を、伊理穂の額を手のひらで押さえ込むことで防いだ結子は、興味なさそうにお礼を言った。
伊理穂がつまらなそうに小さく口を尖らせる。なにか文句を言おうと口を開きかけたそのとき、ガラリと派手な音を立てて教室の扉が開き、長身の男子が眠そうにあくびをしながら入ってきた。
クラスの女子が、ざわざわと色めき立つ。
「あ、流川くん」
伊理穂は、その男子を認め呟いた。
流川楓は、伊理穂の隣の席の男子だった。無愛想だけど、なかなか端整な顔立ちをしていて、いち早くクラスの女子の人気を一身に集めていた。
流川はまだ開ききっていない目をごしごしこすりながら、自分の席へとやってくる。伊理穂はそんな流川に笑いながら挨拶をした。
「流川くん、おはよう」
「…………? ああ、月瀬か。はよす」
「おはよう、流川君」
「…………?」
続けて挨拶した結子に、流川は首を少し右に傾けた。
その流川の反応に、結子の眉毛がぐっと跳ね上がる。
「相変わらず失礼な男ね、流川楓。同じ富ヶ丘中出身で、中3のときに同じクラスだった久遠結子よ。いい加減覚えてくれないかしら」
「――ああ。悪い。寝起きで記憶力が…」
「うそよ、うそ。毎回じゃない。伊理穂はすぐに覚えたくせに、腹立つ男ねまったく」
「いや、だってこいつは――」
「ん? なに、流川くん?」
伊理穂は、自分の方を指差して何か言いかけた流川に、にこにこと微笑みかけた。
流川は小さく首を振ると、
「いや。なんでもねえ」
と呟いて、机につっぷした。
学校はこれからだと言うのに、完全に寝る体勢に入った流川に、結子は悪態をついた。
「この、三年寝太郎」
「あはは。どうどう」
よっぽど忘れられていたことが悔しかったのか、流川に鼻息も荒くそう言い放つ結子を伊理穂は宥めた。
「そんなことより結ちゃん。部活、決めた?」
「部活?」
「そう。そろそろ仮入部期間になるでしょ? 結ちゃんは、中学のときは何部だったの?」
「吹奏楽部よ」
「へえ、吹奏楽部! 何の楽器やってたの?」
「何やってたと思う?」
「んん? ん~~……」
伊理穂は、眉間にシワを刻み、腕組をして考える。
「わかったっ! フルート!」
「ブブー、ハズレ~。正解はトランペットでした」
「えっ! トランペット!? ってあの花形の?」
「そうよ」
「ふうん。なんか意外」
「そうかな。よくぴったりだって言われるんだけど」
「ええ~? どんなとこが?」
「そうねえ。決め所を外さないところかしら」
「ああ、なるほど……」
言われてみれば確かにそのとおりだ。
伊理穂はその的を得た表現にくすくす笑みをもらすと、話題を元に戻した。
「じゃあ、結ちゃんは高校も吹奏楽部?」
「ううん。高校では文芸部に入ろうかと思ってるの」
「文芸部!」
ほええと、伊理穂は感嘆の息をもらした。
文芸部。自分とは縁遠い部活だ。本は読むけれど、伊理穂は体を動かすことの方がもっと好きだった。
結子は伊理穂の驚きように苦笑しながら、頷いた。
「そう。文芸部。昔から、文章を書くことが好きだったのよね。ちょっと本格的にやってみようかしらと思って」
「へえ。いいね。物語を書くの?」
「まあ、そんなとこ」
「できたら読みたいな」
「いいのができたらね。それで、伊理穂はどこに入るの?」
話を振られて、伊理穂は低く唸った。
「う~ん、それがね。ちょっと迷ってるんだよね」
「ふうん?」
「中学の時はバスケ部に入ってたんだけど、高校ではどうしようかと思って」
「違う部活を考えてるの?」
伊理穂は、身長が148cmしかない。
普通の一般女子としても、伊理穂の身長は高いとは言えないが、バスケットプレイヤーとしてはその身長は致命的だろう。
その辺も考えながら、結子は尋ねる。
「ううん。そうじゃなくて、選手として女子バスケ部に入るか、マネージャーとして男子バスケ部に入るか悩んでるの。この身長でしょ? 中学の時は、それでも自分のできることを精一杯やってればなんとかなったけど、高校じゃあねえ……。そうはいかないと思うんだよね」
「なら男子バスケ部でマネージャーすりゃあいい」
「わっ」
急に割り込んだ新たな声に、伊理穂は肩を飛び上がらせた。
いつの間に起き上がったのか、割り込んだ声の主、流川がもう一度口を開く。
「男子バスケ部でマネージャーすりゃあいい。月瀬なら大歓迎だ」
「――ありがとう」
予想もしなかった流川の言葉に、伊理穂は一瞬呆気に取られたが、すぐに顔をほころばせた。
流川は、おうと無愛想に言うと、また机に突っ伏した。
伊理穂は流川に言われた言葉を心の中で反芻して、またへへと笑った。
その様子を見て、結子が気味悪そうに眉根を寄せる。
「ちょっとなによ伊理穂。気持ち悪いわね」
「え~、だってうれしくって」
「なにが?」
「んもう。結ちゃんはわかってないなぁ。富ヶ丘中の流川楓って言ったら、バスケやってる人たちの間では知らない人はいないってくらい有名なんだから。その天下の流川楓にだよ? 大歓迎って言われたんだよ? うれしいじゃない」
「そんなに有名だったの? こいつ」
確かに中学時代からやたら騒がれてはいたが、それは顔の良さと、ちょっとバスケができるからだと思っていた。
しかし、彼のバスケのうまさは『ちょっとできる』程度では収まらなかったらしい。
結子は、少しうさんくさそうに流川の頭の後ろを眺めた。
「そうだよ。――男子バスケ部のマネージャー、ちょっと真剣に考えちゃうなあ」
そう伊理穂が夢見がちにつぶやいた時、授業の始まりを告げるチャイムの音が校舎に鳴り響いた。
「伊理穂、おはよう。今日も元気ね」
伊理穂は洋平と別れて自分のクラスに行くと、早速新しく出来た友達に挨拶をした。
肩口まで伸びたさらりとまっすぐな髪に、優しそうな瞳の彼女は、久遠結子という。
伊理穂が湘北高校に入って、初めて出来た友達だ。
入学時や、進級当初によくある、出席番号順の席で、結子が伊理穂の前だったのがきっかけだった。
一見大和撫子な結子が、実は案外ドライで過激な性格をしていることを、伊理穂はこの二週間でだいぶ把握しはじめてきた。
最初は驚いたけど、むしろ今の方が楽しくていいと伊理穂は思う。
「わたしは元気だけが取り柄だもん」
「そう? 伊理穂の元気は、見てるこっちも明るくなれるからいいわね。私は好きよ」
「結ちゃん……。大好きっ!!」
「はいはい、ありがと」
言って抱きつこうとした伊理穂を、伊理穂の額を手のひらで押さえ込むことで防いだ結子は、興味なさそうにお礼を言った。
伊理穂がつまらなそうに小さく口を尖らせる。なにか文句を言おうと口を開きかけたそのとき、ガラリと派手な音を立てて教室の扉が開き、長身の男子が眠そうにあくびをしながら入ってきた。
クラスの女子が、ざわざわと色めき立つ。
「あ、流川くん」
伊理穂は、その男子を認め呟いた。
流川楓は、伊理穂の隣の席の男子だった。無愛想だけど、なかなか端整な顔立ちをしていて、いち早くクラスの女子の人気を一身に集めていた。
流川はまだ開ききっていない目をごしごしこすりながら、自分の席へとやってくる。伊理穂はそんな流川に笑いながら挨拶をした。
「流川くん、おはよう」
「…………? ああ、月瀬か。はよす」
「おはよう、流川君」
「…………?」
続けて挨拶した結子に、流川は首を少し右に傾けた。
その流川の反応に、結子の眉毛がぐっと跳ね上がる。
「相変わらず失礼な男ね、流川楓。同じ富ヶ丘中出身で、中3のときに同じクラスだった久遠結子よ。いい加減覚えてくれないかしら」
「――ああ。悪い。寝起きで記憶力が…」
「うそよ、うそ。毎回じゃない。伊理穂はすぐに覚えたくせに、腹立つ男ねまったく」
「いや、だってこいつは――」
「ん? なに、流川くん?」
伊理穂は、自分の方を指差して何か言いかけた流川に、にこにこと微笑みかけた。
流川は小さく首を振ると、
「いや。なんでもねえ」
と呟いて、机につっぷした。
学校はこれからだと言うのに、完全に寝る体勢に入った流川に、結子は悪態をついた。
「この、三年寝太郎」
「あはは。どうどう」
よっぽど忘れられていたことが悔しかったのか、流川に鼻息も荒くそう言い放つ結子を伊理穂は宥めた。
「そんなことより結ちゃん。部活、決めた?」
「部活?」
「そう。そろそろ仮入部期間になるでしょ? 結ちゃんは、中学のときは何部だったの?」
「吹奏楽部よ」
「へえ、吹奏楽部! 何の楽器やってたの?」
「何やってたと思う?」
「んん? ん~~……」
伊理穂は、眉間にシワを刻み、腕組をして考える。
「わかったっ! フルート!」
「ブブー、ハズレ~。正解はトランペットでした」
「えっ! トランペット!? ってあの花形の?」
「そうよ」
「ふうん。なんか意外」
「そうかな。よくぴったりだって言われるんだけど」
「ええ~? どんなとこが?」
「そうねえ。決め所を外さないところかしら」
「ああ、なるほど……」
言われてみれば確かにそのとおりだ。
伊理穂はその的を得た表現にくすくす笑みをもらすと、話題を元に戻した。
「じゃあ、結ちゃんは高校も吹奏楽部?」
「ううん。高校では文芸部に入ろうかと思ってるの」
「文芸部!」
ほええと、伊理穂は感嘆の息をもらした。
文芸部。自分とは縁遠い部活だ。本は読むけれど、伊理穂は体を動かすことの方がもっと好きだった。
結子は伊理穂の驚きように苦笑しながら、頷いた。
「そう。文芸部。昔から、文章を書くことが好きだったのよね。ちょっと本格的にやってみようかしらと思って」
「へえ。いいね。物語を書くの?」
「まあ、そんなとこ」
「できたら読みたいな」
「いいのができたらね。それで、伊理穂はどこに入るの?」
話を振られて、伊理穂は低く唸った。
「う~ん、それがね。ちょっと迷ってるんだよね」
「ふうん?」
「中学の時はバスケ部に入ってたんだけど、高校ではどうしようかと思って」
「違う部活を考えてるの?」
伊理穂は、身長が148cmしかない。
普通の一般女子としても、伊理穂の身長は高いとは言えないが、バスケットプレイヤーとしてはその身長は致命的だろう。
その辺も考えながら、結子は尋ねる。
「ううん。そうじゃなくて、選手として女子バスケ部に入るか、マネージャーとして男子バスケ部に入るか悩んでるの。この身長でしょ? 中学の時は、それでも自分のできることを精一杯やってればなんとかなったけど、高校じゃあねえ……。そうはいかないと思うんだよね」
「なら男子バスケ部でマネージャーすりゃあいい」
「わっ」
急に割り込んだ新たな声に、伊理穂は肩を飛び上がらせた。
いつの間に起き上がったのか、割り込んだ声の主、流川がもう一度口を開く。
「男子バスケ部でマネージャーすりゃあいい。月瀬なら大歓迎だ」
「――ありがとう」
予想もしなかった流川の言葉に、伊理穂は一瞬呆気に取られたが、すぐに顔をほころばせた。
流川は、おうと無愛想に言うと、また机に突っ伏した。
伊理穂は流川に言われた言葉を心の中で反芻して、またへへと笑った。
その様子を見て、結子が気味悪そうに眉根を寄せる。
「ちょっとなによ伊理穂。気持ち悪いわね」
「え~、だってうれしくって」
「なにが?」
「んもう。結ちゃんはわかってないなぁ。富ヶ丘中の流川楓って言ったら、バスケやってる人たちの間では知らない人はいないってくらい有名なんだから。その天下の流川楓にだよ? 大歓迎って言われたんだよ? うれしいじゃない」
「そんなに有名だったの? こいつ」
確かに中学時代からやたら騒がれてはいたが、それは顔の良さと、ちょっとバスケができるからだと思っていた。
しかし、彼のバスケのうまさは『ちょっとできる』程度では収まらなかったらしい。
結子は、少しうさんくさそうに流川の頭の後ろを眺めた。
「そうだよ。――男子バスケ部のマネージャー、ちょっと真剣に考えちゃうなあ」
そう伊理穂が夢見がちにつぶやいた時、授業の始まりを告げるチャイムの音が校舎に鳴り響いた。