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「おお! 洋平、大楠。花道がなんか新しい練習するみたいだぞ! 痴話喧嘩はその辺にして見てみろよ」
「痴話喧嘩じゃねえよ、デブ!」
くだらねーこと言ってんなと高宮に蹴りを喰らわす大楠に苦笑を滲ませながら、洋平は体育館の中に視線を戻した。
学校指定のダサいジャージに身を包んで。背中まである茶色のふわふわの髪を耳のところで二つに結んで。そんな田舎臭い格好をしているのに、伊理穂は体育館にいるどの女子よりも一番綺麗に見えた。そのことが洋平の鼻の奥をつんと刺激して、たまらなく胸が苦しかった。
「じゃあ次はボールハンドリングの基礎だよ!」
「ボールハンドリング?」
眉根を寄せる花道に伊理穂は笑ってみせると、ボールハンドリングの見本を見せた。
伊理穂の細い体を中心に、ボールがくるくるとなめらかな軌道を描く。
まるで新体操をしているようなその華麗な動きに、それを見ていた男子が全員息を呑んだ。
そんなことには気付きもせずに伊理穂はボールを手の平に戻すと、無邪気に笑って花道に差し出す。
「はい、やってみて」
思わず見とれていた花道も、それでハッと我に返った。
伊理穂からボールを受け取ると、花道は不敵に口角を持ち上げる。
「みてろよ、伊理穂」
「うん」
花道はボールを抱えて気合をためると、さきほどの伊理穂の動作を三倍速で真似てみせた。
その驚きの速さに、体育館中がおおっとどよめく。
賞賛の注目を浴びる中、伊理穂はおかしそうに笑いながら目尻の涙を拭った。
「あっはは、なにそれ花道、はっやー! 上手すぎだよ! すごいね、ボールコントロールがいいのかな?」
「そ、そうだろう!」
花道は練習の手を止めると、肩で息をしながら伊理穂の言葉に得意気にで頷いた。
持っていたボールを床に置くと、意気揚々と胸を張って他の部員の練習するコートへと歩き出す。
「さ、これでみんなと一緒に練習を……」
伊理穂はそんな花道を慌てて追いかけた。
「わ、待って花道。まだだよ、まだ覚えなきゃいけない基礎はたくさん……」
と、花道が急に立ち止まった。
追いかけていた伊理穂は、花道の背中におもむろに顔を打ち付ける。
「いたっ! 花道、なんで急にとま……る……。……あ、赤木先輩」
188㎝の花道の肩越しからも確認できる頼れるキャプテン・赤木の姿を見て、伊理穂はぱぁっと表情を輝かせた。
赤木は伊理穂に任せろとでも言うように片目をつぶると、すぐに表情を引き締めて花道の前に立ちはだかった。
「どこへ行く」
「いや……みんなと一緒に……」
「ドリブルだ!」
愛想笑いを浮かべて言う花道に、赤木が取りつく島もなく言い放った。
表情を止めた花道に、息を呑むような沈黙が体育館を包む。
「…………」
しばらくの間それが続き、伊理穂がいい加減花道を宥めようとしたその時。
花道が予想外の行動に出た。
なんと花道は、立ちはだかる赤木の横を通りすぎようとしたのだ。