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「流川くん?」
「……月瀬」
「ん?」
「後悔、してねーか?」
「後悔?」
流川の言葉に、伊理穂は首を傾げた。
後悔って一体何に。
わからなくて天を仰ぐ。
「……男子バスケ部の、マネージャーになったこと」
流川が、ぽつりと囁くように言った。
上を向いていた顔を戻すと、流川のこわいくらい真剣な瞳と目が合って、伊理穂の体は縛られたように動けなくなる。
流川の、切れ長の漆黒の瞳。
吸い込まれそうになる。
「月瀬?」
思わず流川に見とれてしまっていた伊理穂は、流川に名前を呼ばれてハッと我に返った。
途端に激しく脈打ちはじめる心臓をごまかすように、慌てて言葉を紡ぐ。
「あ、こ、後悔なんてしてないよ。流川くんが誘ってくれたのはきっかけにはなったけど、マネージャーになるって決めたのはわたしだし。それに、この身長だと、やっぱり高校でバスケやるには厳しいと思うから」
伊理穂は身長が148㎝しかない。
バスケをやれるどころか、普通の女子の平均身長にも遥かに満たない数字だ。
バスケは大好きで続けたかったけれど、世の中にはどうしようもないこともある。
なんとなく切ない気持ちになって、だけどそれを悟られたくなくて微笑むと、流川の手が髪に触れた。
驚いて顔をあげると、流川は風に遊ばれていた髪を優しく耳にかけてくれた。
どくんと心臓が大きく跳ねる。
流川の瞳が、優しい色に染められていく。
「流川……くん?」
逸る心臓。
声が震えないように細心の注意を払ってその名を呼ぶと、流川が伊理穂の頬をそっとひと撫でするように手を離した。
「オレは、月瀬のプレースタイルが好きだ」
「え?」
「去年。月瀬が出てる試合を一度だけ見た。コートにいる選手と比べたら、まるで大人と子供みてーで、なのにそれでも自分にできることを必死で考えて一生懸命な月瀬のプレーを見て、月瀬はバスケがほんとうに好きなんだなって思った」
「…………」
流川の言葉に、伊理穂の鼻の奥がツンと刺激されて、目頭が熱くなった。
脳裏によみがえる、当時の記憶。
まわりの選手はみんな大きくて、まともに戦ったら敵わない相手ばっかりだった。
上のパスは通らない。
だから足元を通して。ドリブルは低く。動きは機敏に。
それでも上からのパスを簡単に通されて、悔しい思いをいっぱいした。
そうだ。中学最後の試合も、自分の頭上をパスが通って、それで逆転のシュートを決められて負けたんだっけ。
伊理穂の胸に、じんわりとあの日の悔しさがよみがえってくる。
思わずにじみかけた視界に伊理穂はハッとなると、泣きそうになっていたのをごまかす様に微笑んだ。
流川はその間も自分から目を逸らすことなくじっと見ていて、もしかしたら泣いていたのがバレてしまったかもしれないな、なんて思いながら、伊理穂は唇を持ち上げる。
「まさか憧れの流川くんがそんな風に言ってくれるなんて……。嬉しい」
「……オレが、月瀬を全国に連れてってやる」
「!」
伊理穂は驚いて流川を見た。
真剣な瞳。
捕まったように動けない。
「男子バスケ部のマネージャーになったこと、後悔させねー」
「流川くん……」
真摯に伝えてくる流川に伊理穂の胸がきゅうっと苦しくなった。
泣くのを堪えるような表情で流川に微笑む。
「ありがとう。全国に行けるの、楽しみにしてるね」
「オウ」
胸がうるさい。
頬が熱い。
再び歩き出した流川の隣りを、伊理穂は切ないような胸の痛みを感じながら歩いた。
To be continued…