番外編 friction
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遠ざかる洋平の背中に、伊理穂が思わずしがみついた。
洋平の体が、硬く強張る。
「違う! 違うの、洋平! そんなんじゃなくて……! そういうんじゃなくて……!!」
だからなんなのだという、確定的なことが言えない。
『違う』という言葉の繰り返しだけでは、相手に伝わるはずがなかった。
(どうしよう……!)
もどかしい。苦しい。
伊理穂は、強く手を握り締めた。
それまでこちらを振り返らなかった洋平が、背中にしがみつく伊理穂をそっとはがして振り返る。
「よ、ようへ……」
「伊理穂……」
洋平が、優しく諭すように言葉を紡ぐ。
伊理穂の頭を撫でてくれる手のぬくもりが、今はとても苦しかった。
「……いーよ、伊理穂。オレ、怒ってねぇから。だからそんな声出すなよ。……ちゃんと、三井サンに幸せにしてもらえよ?」
「……やっ」
ふるふると大きく首を振る。
洋平は最後に伊理穂に優しく微笑むと、名残惜しそうに伊理穂の頬をそっとひと撫でして、そして今度こそ背を向けて歩き出した。
「……いやぁ」
追いかけたいのに、足がすくんで動けない。
だって、なんて言えばいい。
事情を説明できないのに。どうやって誤解を解けばいいんだろう。
「洋平……! やだぁ、行かないで……っ!!」
遠ざかっていく洋平の背中に向けて、伊理穂は大声で叫んだ。
もう涙でけぶって前が見えない。
顔を覆った手の隙間から、伊理穂のくぐもった声が漏れる。
「よ……へ……っ!」
そのとき、小さくなったはずの足音が突然近くなったかと思うと、ふいに温かい腕に包まれた。
耳元で響く、洋平のどこか苦しげな声。
「……っ、そんな風に泣くなよ、伊理穂。放っておけなくなんだろ……っ?」
震える声で洋平がそう言ったかと思うと、伊理穂を抱く腕の力が強くなった。
「よう……へっ!」
伊理穂も応えるようにしてその体にしがみつく。
洋平はしばらく声もなく泣き続ける伊理穂を強く抱きしめると、切なく細められた瞳を閉じた。
そして、何かを決意したかのように、その双眸をそっと開く。
「三井サン……。すんません、さっきはかっこつけてこいつを頼みますなんて言ったけど……、やっぱり無理ッス。オレ、伊理穂のことすげー好きなんで。だから、伊理穂が誰を好きでも、オレはこいつの傍を離れませんから」
「……ああ、そうかよ……」
三井は疲れたようにため息を吐くと、力強く洋平の頭をはたいた。
「った!?」
洋平が驚いて三井を見上げる。
「あのなあ、水戸。何ひとりでつっぱしっちゃってんのかわかんねぇけど、お前が心配してるようなことなんてなんもねぇから。オレは、伊理穂がひとりで沈んだ顔して街歩いてたから、気晴らしに連れ出しただけだよ。ったく」