番外編 friction
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「伊理穂?」
ふいに近くで名前を呼ばれた。
驚いて声の主を探すと、雑踏の中に三井の姿を見つけた。
「み、三井先輩!」
三井が笑顔で伊理穂に駆け寄ってくる。
「よお、伊理穂。偶然だな。今日はひとりか?」
「あ、はい」
「水戸はバイトか?」
「あ……えーと、そう……です」
「? なんだよ、歯切れわりぃな。ぼけてんのか?」
ぐしゃっと三井が伊理穂の頭を乱暴になでる。
いつもなら抵抗するけれど、今日はその気力も湧かなくて、伊理穂はされるがままになっていた。
「伊理穂? どうした?」
いつもと様子の違う伊理穂に気づいたのか、三井が気遣わしげに声をかけてくる。
「いえ、なんでもないです」
「なんでもねぇって顔じゃねーだろ。……水戸とケンカしたのか?」
「…………」
確かにケンカしたことはケンカしたけれど、それを説明するにはなぜケンカしたのかをまず話さなければならない。
残念ながら伊理穂には、洋平とケンカした理由をうまくごまかしつつ、結子に頼まれた内容も隠しつつ、状況を説明できるほど話上手ではなかった。
そもそも、三井は一番内容を知られてはいけない相手だ。
余計に話すことなんてできるわけがない。
黙りこくる伊理穂に、三井は少しだけ困ったように眉根を寄せると、よしと小さく呟いた。
「な、伊理穂。お前、今日暇か?」
「え? ああ、暇……ですけど」
伊理穂は突然の矛先の変わった話題に戸惑いながら答えた。
ほんとうは洋平のことで頭がいっぱいで、しばらくひとりになりたかったけれど、なによりこれは、結子の頼まれごとをまっとうするいいチャンスのように思えた。
早く任務を遂行して、洋平の誤解を解きたい。
言いよどみながらも肯定する伊理穂に、三井が満足そうに唇を持ち上げる。
「そっか。じゃあ今からちょっと付き合えよ」
「え、付き合うってどこにですか?」
「ゲーセンとか、その他もろもろ?」
「……目的地はないんですか」
「たまにはノープランもいいだろ? 日ごろきっちり定められた生活送ってんだからさ」
「まあ、いいですけど……」
正直遊ぶ気持ちにはなれなかったけど、いい気分転換になるかもしれない。
それに、何かしながらなら、特に怪しまれることなく欲しいものの情報も引き出せるに違いない。
伊理穂は三井と遊ぶことにした。
ボウリング、スポッチャ、カラオケ、そして最後にゲームセンターと巡っているうちに、日がとっぷりと暮れていた。
ちなみに任務は無事に遂行した。
三井の欲しいものは新しいサポーターらしい。これなら学生のお小遣いでも買えるし、きっと結子も喜んでくれるだろう。
伊理穂は最後に行ったゲームセンターで取ってもらったぬいぐるみを腕に抱えて、隣りを歩く三井を見上げる。
「三井先輩、UFOキャッチャーすっごくうまいんですね! こんなおっきいぬいぐるみ、わたし初めて取ってもらっちゃいました!」