番外編 friction
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「あのね、あんたに頼みたいことがあるの」
「頼みたいこと?」
ほとんど吐息のような抑えた声で、結子が囁くように言う。
伊理穂はごくりとつばを飲み込んだ。
いったいどんな頼みごとなんだろう。
(わたしでできることならいいけど……)
不安になって、伊理穂は無意識で手を強く握り締めた。
結子は伊理穂の何倍もしっかりものだ。
自分なんかが果たして力になれるのだろうか。
(でも、なんとしてでも結ちゃんの力になりたい……!)
これまでだって、たくさんたくさん結子に助けられてきた。
その結子が困っているのだったら、何をおいても力になりたかった。
結子が緊張した様子で息を吸い込む。
伊理穂も次の言葉に身構えた。
そして。
「あ、あのね……! み、三井先輩の欲しいものを聞き出して欲しいの!」
「――み、三井先輩の欲しいものぉ!?」
最後の審判を待つような気持ちでいた伊理穂は、予想外の言葉を耳にして思わず大声を上げた。
慌てたように結子が伊理穂の口を塞ぐ。
「ちょ、バカ! 声が大きい!」
「ご、ごめん! だって、いったいなにを言われるのかと思ったから拍子抜けしちゃって……。でもどうして三井先輩の欲しいものなの?」
不思議に思って訊ねると、結子が気まずそうに伊理穂から視線をそらした。
奥歯になにか挟まってでもいるかのように、言いにくそうにぼそぼそと言う。
「あ、あの……。わたし三井先輩にいろいろお世話になったから……」
「うん」
「だから、その、なにか……お礼がしたくて……」
「お礼?」
ふうんと伊理穂が首を傾げると、途端に結子が伏せていた顔をあげて、激しい剣幕で伊理穂に詰め寄ってきた。
「そうよ! お礼よ! ただそれだけよ! それ以外の意味なんてなんにもないんですからね! 一ミクロもよ! だから変な詮索しないでよね! わかった!?」
「わわわ、わかった! わかったから結ちゃん! ちょっとこわいよぉ……」
伊理穂の言葉に、結子が慌てて体を離す。
「あ、ああごめん……。ちょっと興奮しちゃって」
結子から解放されて、伊理穂もホッと息を吐き出した。
仕切りなおすようにひとつ咳払いをする。
「と、とにかくお礼がしたいんだよね。そういうことならまっかせといて! わたしがばっちりリサーチしてきてあげるから!」
どんと伊理穂が自分の胸を叩いて言うと、結子が安心したように微笑んだ。
「ありがとう、伊理穂。あんたが力になってくれると頼もしいわ」
「うん!」
結子の言葉に、伊理穂の胸が弾んだ。嬉しくて思わず笑顔になる。
にこにこ微笑む伊理穂に、結子は再びぐいっと顔を近付ける。
「――伊理穂。このことは絶対誰にも内緒にしてね」
「うん、わかった」
「水戸くんにもよ! 絶対よ!」
「よ、洋平にも?」
「そうよ! ぜったい話したらダメよ! ……水戸くんになんて話されたら、絶対ばれちゃうじゃないの……」