番外編 friction
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#dc=1#]は今、窮地に立たされていた。
すぐ目の前には、両眉をきつく怒らせて腕を組んで立っている洋平。背後は部屋の壁。
その鋭い視線を宥めるように、伊理穂は眉尻を下げて笑む。
「よ、洋平。落ち着いてよ、ね?」
「…………」
洋平は微かに瞳を細めただけで、何も喋らない。
「洋平」
「…………」
「洋平くん」
「…………」
「ねえ、洋平ってば」
「…………」
何度呼びかけても答えない洋平に、伊理穂は困り果てて小さく息を吐いた。
洋平がぴくりとそれに反応して片眉を上げる。
「――伊理穂。お前、オレに言うことあるだろ?」
「言うこと?」
伊理穂の心臓が、ぎくりと跳ね上がった。
その僅かな動揺を見逃さずに、洋平が伊理穂のすぐ脇の壁に手をついて、上から覆いかぶさるようにして顔を覗き込んでくる。
「ここ最近、オレに黙ってなんかやってるよな?」
「や、やってないですよ」
洋平のまっすぐな視線に耐えられなくて伊理穂はふいと顔を背けた。けれどすぐにまた洋平によって正面を向かされる。
今度は顎をしっかり掴まれていて、顔を逸らすことができない。
「伊理穂」
低く唸るような洋平の声。
伊理穂は叱られた子供のように肩をすくませた。
洋平のまっすぐな瞳は、まるでサーチライトのように伊理穂の内側をすべて照らし出してしまう気がして、ちゃんと見つめ返すことができない。
――隠し事をしている時には、特に。
今からちょうど三日前。
部活に向かっていた伊理穂は、親友の結子に呼び止められた。
「伊理穂!」
「ん?」
結子は振り返る伊理穂の腕を掴むと、勢い良く走り出す。
「うわぁ、結ちゃん!?」
足をもつれさせながらも必死に結子の後をついていく伊理穂を振り返ることなく、結子はきつく伊理穂の手首を握り締めてどこかへ向けて駆け続けている。
(どうしたんだろう)
伊理穂は前を行く結子の背中を、じっと見つめた。
こんな風に結子が取り乱すなんて珍しい。
なにか大変なことでも起きたのだろうか。
繋がった結子の手から緊張が伝わってきて、伊理穂の心臓も次第に早鐘を打ち始める。
人気のない1階の階段下に着くと、結子はやっと足を止めた。
硬く強張った表情で伊理穂の顔を覗き込んで、痛いくらいに強く肩を掴んでくる。
「ゆ、結ちゃん……?」
尋常じゃない迫力に気圧されて伊理穂が少し身を引くと、結子がハッとした様子で伊理穂の肩から手を離した。
結子は気まずそうに一度こほんと咳払いをして、緊迫した表情はそのままに、伊理穂の耳にそっと顔を寄せる。
すぐ目の前には、両眉をきつく怒らせて腕を組んで立っている洋平。背後は部屋の壁。
その鋭い視線を宥めるように、伊理穂は眉尻を下げて笑む。
「よ、洋平。落ち着いてよ、ね?」
「…………」
洋平は微かに瞳を細めただけで、何も喋らない。
「洋平」
「…………」
「洋平くん」
「…………」
「ねえ、洋平ってば」
「…………」
何度呼びかけても答えない洋平に、伊理穂は困り果てて小さく息を吐いた。
洋平がぴくりとそれに反応して片眉を上げる。
「――伊理穂。お前、オレに言うことあるだろ?」
「言うこと?」
伊理穂の心臓が、ぎくりと跳ね上がった。
その僅かな動揺を見逃さずに、洋平が伊理穂のすぐ脇の壁に手をついて、上から覆いかぶさるようにして顔を覗き込んでくる。
「ここ最近、オレに黙ってなんかやってるよな?」
「や、やってないですよ」
洋平のまっすぐな視線に耐えられなくて伊理穂はふいと顔を背けた。けれどすぐにまた洋平によって正面を向かされる。
今度は顎をしっかり掴まれていて、顔を逸らすことができない。
「伊理穂」
低く唸るような洋平の声。
伊理穂は叱られた子供のように肩をすくませた。
洋平のまっすぐな瞳は、まるでサーチライトのように伊理穂の内側をすべて照らし出してしまう気がして、ちゃんと見つめ返すことができない。
――隠し事をしている時には、特に。
今からちょうど三日前。
部活に向かっていた伊理穂は、親友の結子に呼び止められた。
「伊理穂!」
「ん?」
結子は振り返る伊理穂の腕を掴むと、勢い良く走り出す。
「うわぁ、結ちゃん!?」
足をもつれさせながらも必死に結子の後をついていく伊理穂を振り返ることなく、結子はきつく伊理穂の手首を握り締めてどこかへ向けて駆け続けている。
(どうしたんだろう)
伊理穂は前を行く結子の背中を、じっと見つめた。
こんな風に結子が取り乱すなんて珍しい。
なにか大変なことでも起きたのだろうか。
繋がった結子の手から緊張が伝わってきて、伊理穂の心臓も次第に早鐘を打ち始める。
人気のない1階の階段下に着くと、結子はやっと足を止めた。
硬く強張った表情で伊理穂の顔を覗き込んで、痛いくらいに強く肩を掴んでくる。
「ゆ、結ちゃん……?」
尋常じゃない迫力に気圧されて伊理穂が少し身を引くと、結子がハッとした様子で伊理穂の肩から手を離した。
結子は気まずそうに一度こほんと咳払いをして、緊迫した表情はそのままに、伊理穂の耳にそっと顔を寄せる。