番外編 ずっとこれからも
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伊理穂が自分の胸にすがりつくようにして、声を殺してむせび泣く。
しゃくり上げるたびに震える細い肩が、愛しくて儚くてたまらなかった。
その肩を優しく撫でながら、洋平は諭すように、一語一語ゆっくりと話し出す。
「バカだな、伊理穂は。何言ってんだよ。なあ、伊理穂。世界で一番愛してるお前が、一生オレと生きてくって誓ってくれて、かわいい子供を二人も産んでくれて、いつもオレのそばで笑ってくれてる。これ以上、オレはお前になにを望むっていうんだ? オレはもう、充分すぎるくらいお前に幸せにしてもらってる。だから出て行くなんて言うなよ」
「洋平……っ」
「お前がいねぇと、オレがダメになるだろ? それともなんだ。伊理穂チャンは、愛しのダンナさまがダメになってもいいのか?」
「よ、よくない……っ」
洋平の胸に顔を埋めながら、ふるふると伊理穂が首を横に振る。
洋平はそれにやわらかく微笑んだ。
「だろ? 大樹が言ったことも、あんなの本気なワケねぇだろ。あいつは、いまちょうどそういう時期なんだよ」
「……なに? そういう時期って」
伊理穂がぐすっと鼻を鳴らしながら顔をあげた。
真っ赤になった鼻が可愛らしくて、洋平はそこに唇を押し当てる。
「オレのライバルってこと」
「?」
小さく笑いながら教えてやると、伊理穂がさらに眉根を寄せた。
「なに、それ? 全然意味がわからないよ」
「はは。いーの。お前はそれで。とにかく、オレもヒナも大樹も、お前のことが大好きだってことだよ」
「……ウソ」
「ふうん。オレの言うことが信じられねえ?」
「だって洋平は優しいもの。わたしを傷つけまいとしてウソのひとつやふた……つ……んっ」
洋平は拗ねたように突き出された伊理穂の唇に自分のそれを押し当てて、伊理穂の言葉の先を奪った。
突然の口づけに無防備だった伊理穂の口内にやすやすと舌を侵入させると、洋平はいともたやすく伊理穂を甘い痺れへと誘っていく。
そのたびに伊理穂が切なそうに眉を寄せて、吐息のような囁きを漏らした。
跳ねる心臓。
ほんとうに、愛しくてたまらない。
「オレはお前にウソはつかねぇよ」
唇を離すと、赤くなった伊理穂に額を寄せて、間近で二つの綺麗な瞳を覗きこむ。
「どんなウソだって、最終的にはお前のことを傷つける。だから、オレはもうお前にはウソはつかねぇって決めたんだ。信じろよ、伊理穂。オレも、陽菜子も、大樹も、お前のことが好きだ。お前がいなくなったら、水戸家は崩壊すんだぞ? それくらいみんなに愛されてるって、ちゃんと自覚しろよ。な? 伊理穂、愛してる。お前はいつもどおり笑ってオレのそばにいろよ」
「――洋平」
伊理穂が堪えきれないというように、ぎゅっと目をつぶってぽろぽろと涙を零した。
洋平は苦笑すると、伊理穂の目尻に唇を寄せてその涙をぬぐう。
と、その時、キィと背後でドアの開く音がした。
洋平が伊理穂から体を離したのと時を同じくして、中から陽菜子と大樹が出てくる。
大樹は涙を流している伊理穂に気づくと、自分も涙を瞳にいっぱいためて伊理穂に駆け寄った。
「おかあさぁん!」
走り寄る大樹を、伊理穂がしゃがんで受け止める。
「大樹……!」
ぎゅっと、伊理穂が大切そうに大樹を抱きしめた。
大樹は伊理穂にしがみつきながら、上下する横隔膜の合間を縫って、必死で言葉を繋いでいる。
「おか、さん、ごめんな……さぁい! きらいなんて、ウ、ウソだよ! おかあさ、の、ごはん、おいし……よ! おかあさん、だ、大好き……っ! だから、いなく……ならないで……っ! ほんとうに、ごめんな、さあい!」
「大樹……っ! うん。お母さんも大樹のこと大好きよ。――ありがとう、大樹……っ!」
泣きながら抱き合う親子をしばらくの間見つめて、洋平は頃合を見て大樹を伊理穂から引き剥がした。
あっ! と叫ぶ大樹に、意地悪く微笑んでみせる。
「はい終了そこまで。大樹、お前いつまでくっついてんだよ」
「! おとうさん、ずる……い!」
大樹が顔を真っ赤にして抗議してくる。
遠くから突き刺さってくる呆れたような陽菜子の視線を感じながら、洋平は大樹から隠すように伊理穂を抱きしめて、わざと挑発するようにべっと舌を出した。
「言ったろ? 伊理穂はオレの女だって。悔しかったら大樹、お前もいいオンナ見つけな」
「ちょっと! 大樹に何言ってるの洋平?」
「むー! ずるいぞ、お母さんを独り占めして! お父さんなんてだいっきらいだー!」
「ははは。嫌いでけっこう。オレは愛してるぜ、大樹」
「……バッカじゃない」
陽菜子が遠くでぽつりと呟いた。
洋平はそれに優しく微笑むと、陽菜子にこいこいと手招きをする。
気づいた陽菜子が少しだけ嫌そうに顔をしかめながら、だけど素直にこちらにやってきた。
洋平はそんな陽菜子に破顔すると、伊理穂だけを抱きしめていた腕を解いて、愛しい家族全員をその腕に閉じ込めた。
伊理穂の驚いた声や、大樹の嬉しそうにはしゃぐ声、陽菜子の照れ隠しに怒った声が、いっぺんに洋平の耳に飛び込んでくる。
ああ。なんて幸せなんだろう。
洋平はくすぐったいような幸福な感覚が胸いっぱいに広がって、くつくつと笑い声をあげた。
最愛の妻と、かわいい二人の子供たち。
こんな幸せな日々が、どうかずっとずっと続きますように。
「お前たち、愛してるぜ」
しゃくり上げるたびに震える細い肩が、愛しくて儚くてたまらなかった。
その肩を優しく撫でながら、洋平は諭すように、一語一語ゆっくりと話し出す。
「バカだな、伊理穂は。何言ってんだよ。なあ、伊理穂。世界で一番愛してるお前が、一生オレと生きてくって誓ってくれて、かわいい子供を二人も産んでくれて、いつもオレのそばで笑ってくれてる。これ以上、オレはお前になにを望むっていうんだ? オレはもう、充分すぎるくらいお前に幸せにしてもらってる。だから出て行くなんて言うなよ」
「洋平……っ」
「お前がいねぇと、オレがダメになるだろ? それともなんだ。伊理穂チャンは、愛しのダンナさまがダメになってもいいのか?」
「よ、よくない……っ」
洋平の胸に顔を埋めながら、ふるふると伊理穂が首を横に振る。
洋平はそれにやわらかく微笑んだ。
「だろ? 大樹が言ったことも、あんなの本気なワケねぇだろ。あいつは、いまちょうどそういう時期なんだよ」
「……なに? そういう時期って」
伊理穂がぐすっと鼻を鳴らしながら顔をあげた。
真っ赤になった鼻が可愛らしくて、洋平はそこに唇を押し当てる。
「オレのライバルってこと」
「?」
小さく笑いながら教えてやると、伊理穂がさらに眉根を寄せた。
「なに、それ? 全然意味がわからないよ」
「はは。いーの。お前はそれで。とにかく、オレもヒナも大樹も、お前のことが大好きだってことだよ」
「……ウソ」
「ふうん。オレの言うことが信じられねえ?」
「だって洋平は優しいもの。わたしを傷つけまいとしてウソのひとつやふた……つ……んっ」
洋平は拗ねたように突き出された伊理穂の唇に自分のそれを押し当てて、伊理穂の言葉の先を奪った。
突然の口づけに無防備だった伊理穂の口内にやすやすと舌を侵入させると、洋平はいともたやすく伊理穂を甘い痺れへと誘っていく。
そのたびに伊理穂が切なそうに眉を寄せて、吐息のような囁きを漏らした。
跳ねる心臓。
ほんとうに、愛しくてたまらない。
「オレはお前にウソはつかねぇよ」
唇を離すと、赤くなった伊理穂に額を寄せて、間近で二つの綺麗な瞳を覗きこむ。
「どんなウソだって、最終的にはお前のことを傷つける。だから、オレはもうお前にはウソはつかねぇって決めたんだ。信じろよ、伊理穂。オレも、陽菜子も、大樹も、お前のことが好きだ。お前がいなくなったら、水戸家は崩壊すんだぞ? それくらいみんなに愛されてるって、ちゃんと自覚しろよ。な? 伊理穂、愛してる。お前はいつもどおり笑ってオレのそばにいろよ」
「――洋平」
伊理穂が堪えきれないというように、ぎゅっと目をつぶってぽろぽろと涙を零した。
洋平は苦笑すると、伊理穂の目尻に唇を寄せてその涙をぬぐう。
と、その時、キィと背後でドアの開く音がした。
洋平が伊理穂から体を離したのと時を同じくして、中から陽菜子と大樹が出てくる。
大樹は涙を流している伊理穂に気づくと、自分も涙を瞳にいっぱいためて伊理穂に駆け寄った。
「おかあさぁん!」
走り寄る大樹を、伊理穂がしゃがんで受け止める。
「大樹……!」
ぎゅっと、伊理穂が大切そうに大樹を抱きしめた。
大樹は伊理穂にしがみつきながら、上下する横隔膜の合間を縫って、必死で言葉を繋いでいる。
「おか、さん、ごめんな……さぁい! きらいなんて、ウ、ウソだよ! おかあさ、の、ごはん、おいし……よ! おかあさん、だ、大好き……っ! だから、いなく……ならないで……っ! ほんとうに、ごめんな、さあい!」
「大樹……っ! うん。お母さんも大樹のこと大好きよ。――ありがとう、大樹……っ!」
泣きながら抱き合う親子をしばらくの間見つめて、洋平は頃合を見て大樹を伊理穂から引き剥がした。
あっ! と叫ぶ大樹に、意地悪く微笑んでみせる。
「はい終了そこまで。大樹、お前いつまでくっついてんだよ」
「! おとうさん、ずる……い!」
大樹が顔を真っ赤にして抗議してくる。
遠くから突き刺さってくる呆れたような陽菜子の視線を感じながら、洋平は大樹から隠すように伊理穂を抱きしめて、わざと挑発するようにべっと舌を出した。
「言ったろ? 伊理穂はオレの女だって。悔しかったら大樹、お前もいいオンナ見つけな」
「ちょっと! 大樹に何言ってるの洋平?」
「むー! ずるいぞ、お母さんを独り占めして! お父さんなんてだいっきらいだー!」
「ははは。嫌いでけっこう。オレは愛してるぜ、大樹」
「……バッカじゃない」
陽菜子が遠くでぽつりと呟いた。
洋平はそれに優しく微笑むと、陽菜子にこいこいと手招きをする。
気づいた陽菜子が少しだけ嫌そうに顔をしかめながら、だけど素直にこちらにやってきた。
洋平はそんな陽菜子に破顔すると、伊理穂だけを抱きしめていた腕を解いて、愛しい家族全員をその腕に閉じ込めた。
伊理穂の驚いた声や、大樹の嬉しそうにはしゃぐ声、陽菜子の照れ隠しに怒った声が、いっぺんに洋平の耳に飛び込んでくる。
ああ。なんて幸せなんだろう。
洋平はくすぐったいような幸福な感覚が胸いっぱいに広がって、くつくつと笑い声をあげた。
最愛の妻と、かわいい二人の子供たち。
こんな幸せな日々が、どうかずっとずっと続きますように。
「お前たち、愛してるぜ」