番外編 ずっとこれからも
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「うん」
大樹がこくりと頷いたのを見届けると、洋平は小さく微笑んで子供部屋を後にした。
「ヒナ。悪い、ありがとな。今度は子供部屋で大樹を見ててやってくれるか?」
洋平はリビングに戻ると、そこで台所に立つ伊理穂の背中をじっと不安げに見つめていた陽菜子に声をかけた。
戻ってきた洋平に、陽菜子がホッとしたようにこちらを振り返る。
「うん、わかった。お父さん、お母さんのことよろしくね」
最後の言葉を伊理穂に聞こえないよう洋平にそっと耳打ちして、陽菜子が子供部屋へ消えていく。
その背中を見送って、洋平は台所に立つ伊理穂にそっと近づいた。
「伊理穂」
優しく声をかけると、びくりと伊理穂の肩が震える。こちらを振り返らずに、伊理穂が焦ったように喋りだした。
「あ、洋平。ごめんね、まだご飯準備できてなくて……。あの、先お風呂入ってきていいよ。そっちは準備できてる……か……ら……!?」
伊理穂の声が小さく震えていて、だけどそれを必死に隠そうとしているのが伝わってきて、洋平は思わずたまらなくなって伊理穂を後ろから抱き締めた。
伊理穂が腕の中で驚いたように小さく息を呑む。
その頬に、洋平は唇を寄せた。
少ししょっぱい、涙の味。
だけど、頑なにこちらを振り返ろうとしない伊理穂に、洋平の胸が苦しくなる。
「伊理穂」
もう一度名前を呼ぶと、伊理穂が大きく息を吸い込んだ。
「よ、洋平。ごめんね」
「なにがだよ」
「わたし、きっとこの家を出たほうがいい……よね。大樹にあんな風に思われてたなんて、ほんと……母親失格……」
泣いているのが自分にバレていると気づいてないはずないだろうに、それでも伊理穂は気丈な態度を崩さなかった。
洋平は黙ってそんな伊理穂を抱きしめる腕の力を強めた。
今は胸のうちにある弱音や不安を、全部吐き出させてやりたかった。
伊理穂の頭になぐさめるように頬を寄せると、伊理穂がそれに導かれるようにして喋りだす。
「ご飯も……おいしくないもの、無理に食べさせてたみたいだし……あんなにお母さんお母さんって言ってくれてた大樹に、いつのまにかこんなに嫌われちゃって……。一番最低なのは、自分がどうして大樹をあんなに傷つけたのかわからないことなの。わたし、大樹になにしちゃったんだろう。どうしてあの子にあんな風に言わせるまで、あの子のことを傷つけてることに気づけなかったんだろう。……こんなの、母親って言える……? わたし、大樹に愛情注いでたつもりが、きっとそれを押し付けてたんだよね……。だから、こんな風に……っ」
いよいよ我慢できなくなったのか、伊理穂の声に次第に涙が滲みはじめた。
洋平の胸も、伊理穂の苦しみに呼応してきつく締めつけられていく。
「洋平にも……ほんとうに申し訳ない……。洋平はわたしたちのために一生懸命お仕事がんばってくれて、わたしたちのこと一生懸命養ってくれてるのに。いつだってあたたかい優しさでわたしたちに幸せをくれてるのに。なのにわたしのせいでこんなことになって……。ほんとうに、ごめんなさい。わたし、任された家庭も守れなくて、洋平に優しくしてもらう資格なんて……ない……っ。こんなんじゃ、かわいいこどもたちも洋平のことも、全然幸せにできてない……! ほんとうに、ごめんなさい……!」
「伊理穂……」
洋平は両手で顔を覆うようにして泣き始めた伊理穂の体を正面に向けると、その細い体を力強く抱きしめた。
大樹がこくりと頷いたのを見届けると、洋平は小さく微笑んで子供部屋を後にした。
「ヒナ。悪い、ありがとな。今度は子供部屋で大樹を見ててやってくれるか?」
洋平はリビングに戻ると、そこで台所に立つ伊理穂の背中をじっと不安げに見つめていた陽菜子に声をかけた。
戻ってきた洋平に、陽菜子がホッとしたようにこちらを振り返る。
「うん、わかった。お父さん、お母さんのことよろしくね」
最後の言葉を伊理穂に聞こえないよう洋平にそっと耳打ちして、陽菜子が子供部屋へ消えていく。
その背中を見送って、洋平は台所に立つ伊理穂にそっと近づいた。
「伊理穂」
優しく声をかけると、びくりと伊理穂の肩が震える。こちらを振り返らずに、伊理穂が焦ったように喋りだした。
「あ、洋平。ごめんね、まだご飯準備できてなくて……。あの、先お風呂入ってきていいよ。そっちは準備できてる……か……ら……!?」
伊理穂の声が小さく震えていて、だけどそれを必死に隠そうとしているのが伝わってきて、洋平は思わずたまらなくなって伊理穂を後ろから抱き締めた。
伊理穂が腕の中で驚いたように小さく息を呑む。
その頬に、洋平は唇を寄せた。
少ししょっぱい、涙の味。
だけど、頑なにこちらを振り返ろうとしない伊理穂に、洋平の胸が苦しくなる。
「伊理穂」
もう一度名前を呼ぶと、伊理穂が大きく息を吸い込んだ。
「よ、洋平。ごめんね」
「なにがだよ」
「わたし、きっとこの家を出たほうがいい……よね。大樹にあんな風に思われてたなんて、ほんと……母親失格……」
泣いているのが自分にバレていると気づいてないはずないだろうに、それでも伊理穂は気丈な態度を崩さなかった。
洋平は黙ってそんな伊理穂を抱きしめる腕の力を強めた。
今は胸のうちにある弱音や不安を、全部吐き出させてやりたかった。
伊理穂の頭になぐさめるように頬を寄せると、伊理穂がそれに導かれるようにして喋りだす。
「ご飯も……おいしくないもの、無理に食べさせてたみたいだし……あんなにお母さんお母さんって言ってくれてた大樹に、いつのまにかこんなに嫌われちゃって……。一番最低なのは、自分がどうして大樹をあんなに傷つけたのかわからないことなの。わたし、大樹になにしちゃったんだろう。どうしてあの子にあんな風に言わせるまで、あの子のことを傷つけてることに気づけなかったんだろう。……こんなの、母親って言える……? わたし、大樹に愛情注いでたつもりが、きっとそれを押し付けてたんだよね……。だから、こんな風に……っ」
いよいよ我慢できなくなったのか、伊理穂の声に次第に涙が滲みはじめた。
洋平の胸も、伊理穂の苦しみに呼応してきつく締めつけられていく。
「洋平にも……ほんとうに申し訳ない……。洋平はわたしたちのために一生懸命お仕事がんばってくれて、わたしたちのこと一生懸命養ってくれてるのに。いつだってあたたかい優しさでわたしたちに幸せをくれてるのに。なのにわたしのせいでこんなことになって……。ほんとうに、ごめんなさい。わたし、任された家庭も守れなくて、洋平に優しくしてもらう資格なんて……ない……っ。こんなんじゃ、かわいいこどもたちも洋平のことも、全然幸せにできてない……! ほんとうに、ごめんなさい……!」
「伊理穂……」
洋平は両手で顔を覆うようにして泣き始めた伊理穂の体を正面に向けると、その細い体を力強く抱きしめた。