番外編 ずっとこれからも
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「だろう? 父さんもいやだ。母さんにはいつでも元気に笑っていて欲しい。お前だってそうだろ?」
大樹がぶんぶんと大きく何度も頷いた。
「お、お父さんは……お母さんを泣かしたことないの……?」
「ん? あー……」
大樹の言葉に、洋平の喉がグッとつまった。
ほんとうのことを話すべきか否か、脳が一瞬でフル回転する。
少し悩んだ末に洋平は腹を決めた。
よし、と呟いて大樹の肩を掴んで、涙に潤んだ大樹の両の瞳を真剣に見つめる。
「大樹。お前の初恋記念に、父さんもお前をひとりの男として本音で話してやる」
「ほんねって?」
「ほんとうの気持ちってことだ。実は、父さんも母さんを泣かせたことがある。何度も何度も、父さんがダメな男だったせいで、母さんには悲しい思いをさせた」
「……お、お父さんはつよくてやさしくてかっこいいのに、それでもダメなの?」
「はは。なんだ大樹。嬉しいこと言ってくれるな。――父さんもな、母さんのことが好きで好きでどうしようもなくて、ときどきさっきの大樹みたいになっちまうことがあったんだ。母さんのことが大好きなのに、嫌いだって言ったり、ほかにも……たくさん……」
「ふうん?」
思い出して目を伏せた洋平に、大樹が不思議そうに相槌を打った。
洋平は再び大樹に視線を戻すと、口端を引いてごまかすような笑みを浮かべ、話を続ける。
「だけどな。母さんはいつも、そのたびに父さんを許してくれて……。父さんは、そんな母さんがほんとうにほんとうに大好きで、心の底から母さんを幸せにしたいって思ったんだ。だから父さんは母さんと結婚したし、かわいい娘の陽菜子と、かわいい息子のお前が生まれた」
言いながら、大樹の目元の涙をぬぐう。
大樹がすこしだけ嬉しそうに瞳を細めた。
「大樹。お前の目から見て、母さんはどうだ? いま幸せそうか?」
「うん! お母さん、すごく幸せそう。オレの幼稚園の友達もね、みんなうちのお母さんがうらやましいって言うんだ。きれいで、優しくて、ごはんもおいしくて、みんながみんな、オレのお母さんが自分のお母さんだったらいいのにって。でも、お母さんはオレだけのお母さんだもん」
「ああ、なるほど……。それでか」
今の大樹の言葉で、なぜ大樹が突然伊理穂が好きだなんて思い始めたのかひどく合点がいった。
冗談にしろ本気にしろ、自分の友達にそんな風に言われ、自慢に思う反面自分の母親がもしもほんとうに取られたらと思うとこわかったんだろう。
この年頃の子供がもつ、母親に対する当たり前の独占欲。
誰にも渡したくなくて、だから幼いながらに必死になって。
だけど伝わらなくて、伝えられなくて、もどかしい感情は刃となって相手に向かう。
(…………。大樹も、好きな女の愛し方がオレに似ちまいそうだなあ……)
洋平は胸の奥でそんなことを思った。
昔、高校生の時に伊理穂の父親である秀一に言われた言葉を思い出す。
お前は女の愛し方が征樹にそっくりだと、自分に似れば伊理穂と変にすれ違わずにすんだのに残念だったなと。伊理穂と付き合い始めてしばらくしてから言われたこの言葉。
どうやら将来の大樹にもあてはまりそうだ。
(こいつも苦労するな……)
洋平はクッと小さく笑うと、がしがしと息子の頭を撫でた。
その乱暴な手つきに、大樹が驚いてわっと声をあげる。
「大樹。お前が母さんを好きになる気持ちはわかる。伊理穂はほんとにかわいいもんな。でもあれは父さんのだ。いくらかわいい息子のお前でも、絶対に譲ってなんかやんねぇぜ?」
「! オ、オレだって負けないもん!」
「へぇえ。……よし。じゃあ、どっちが母さんをより大切にできるか勝負だ」
「! ま、負けない!」
「はは。まずは母さんにさっきのこと謝れよ? 勝負はそれからだ。……できるか?」
「……も、もうちょっと時間が経ったら……」
小さく唇を尖らせて大樹が言った。
洋平はその言葉に破顔する。
「はは! いい子だ大樹。じゃあまずは父さんが母さんの機嫌を取ってくるから、お前はここでお姉ちゃんと20分待機だ。いいな」
大樹がぶんぶんと大きく何度も頷いた。
「お、お父さんは……お母さんを泣かしたことないの……?」
「ん? あー……」
大樹の言葉に、洋平の喉がグッとつまった。
ほんとうのことを話すべきか否か、脳が一瞬でフル回転する。
少し悩んだ末に洋平は腹を決めた。
よし、と呟いて大樹の肩を掴んで、涙に潤んだ大樹の両の瞳を真剣に見つめる。
「大樹。お前の初恋記念に、父さんもお前をひとりの男として本音で話してやる」
「ほんねって?」
「ほんとうの気持ちってことだ。実は、父さんも母さんを泣かせたことがある。何度も何度も、父さんがダメな男だったせいで、母さんには悲しい思いをさせた」
「……お、お父さんはつよくてやさしくてかっこいいのに、それでもダメなの?」
「はは。なんだ大樹。嬉しいこと言ってくれるな。――父さんもな、母さんのことが好きで好きでどうしようもなくて、ときどきさっきの大樹みたいになっちまうことがあったんだ。母さんのことが大好きなのに、嫌いだって言ったり、ほかにも……たくさん……」
「ふうん?」
思い出して目を伏せた洋平に、大樹が不思議そうに相槌を打った。
洋平は再び大樹に視線を戻すと、口端を引いてごまかすような笑みを浮かべ、話を続ける。
「だけどな。母さんはいつも、そのたびに父さんを許してくれて……。父さんは、そんな母さんがほんとうにほんとうに大好きで、心の底から母さんを幸せにしたいって思ったんだ。だから父さんは母さんと結婚したし、かわいい娘の陽菜子と、かわいい息子のお前が生まれた」
言いながら、大樹の目元の涙をぬぐう。
大樹がすこしだけ嬉しそうに瞳を細めた。
「大樹。お前の目から見て、母さんはどうだ? いま幸せそうか?」
「うん! お母さん、すごく幸せそう。オレの幼稚園の友達もね、みんなうちのお母さんがうらやましいって言うんだ。きれいで、優しくて、ごはんもおいしくて、みんながみんな、オレのお母さんが自分のお母さんだったらいいのにって。でも、お母さんはオレだけのお母さんだもん」
「ああ、なるほど……。それでか」
今の大樹の言葉で、なぜ大樹が突然伊理穂が好きだなんて思い始めたのかひどく合点がいった。
冗談にしろ本気にしろ、自分の友達にそんな風に言われ、自慢に思う反面自分の母親がもしもほんとうに取られたらと思うとこわかったんだろう。
この年頃の子供がもつ、母親に対する当たり前の独占欲。
誰にも渡したくなくて、だから幼いながらに必死になって。
だけど伝わらなくて、伝えられなくて、もどかしい感情は刃となって相手に向かう。
(…………。大樹も、好きな女の愛し方がオレに似ちまいそうだなあ……)
洋平は胸の奥でそんなことを思った。
昔、高校生の時に伊理穂の父親である秀一に言われた言葉を思い出す。
お前は女の愛し方が征樹にそっくりだと、自分に似れば伊理穂と変にすれ違わずにすんだのに残念だったなと。伊理穂と付き合い始めてしばらくしてから言われたこの言葉。
どうやら将来の大樹にもあてはまりそうだ。
(こいつも苦労するな……)
洋平はクッと小さく笑うと、がしがしと息子の頭を撫でた。
その乱暴な手つきに、大樹が驚いてわっと声をあげる。
「大樹。お前が母さんを好きになる気持ちはわかる。伊理穂はほんとにかわいいもんな。でもあれは父さんのだ。いくらかわいい息子のお前でも、絶対に譲ってなんかやんねぇぜ?」
「! オ、オレだって負けないもん!」
「へぇえ。……よし。じゃあ、どっちが母さんをより大切にできるか勝負だ」
「! ま、負けない!」
「はは。まずは母さんにさっきのこと謝れよ? 勝負はそれからだ。……できるか?」
「……も、もうちょっと時間が経ったら……」
小さく唇を尖らせて大樹が言った。
洋平はその言葉に破顔する。
「はは! いい子だ大樹。じゃあまずは父さんが母さんの機嫌を取ってくるから、お前はここでお姉ちゃんと20分待機だ。いいな」