番外編 ずっとこれからも
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「!」
鋭く放たれた大樹の言葉に、伊理穂がまるで銃弾を胸に打ち込まれたかのように目を大きく見開いた。
ネクタイを緩めながら状況を見守っていた洋平も、大樹のその言葉にはたと動きを止める。
「大樹……」
「いりほなんか、ごはんもちっともうまくねーし、いっつもドジばっかりだし、ちっともお母さんっぽくないくせに! いりほなんてせかいでいちばんだいっきらいだ! いなくなっちゃえばいいのに!」
「大樹!」
洋平は大樹に歩み寄ると、いつもより少し強めにその頭にゲンコツを落とした。
大樹がハッとしたように目を見開いて、その大きな瞳にみるみるうちに涙が盛り上がっていく。うわあああんと天を仰いで大泣きした。
洋平は大きく息をついて後ろを振り返ると、そこで呆然と立ち尽くしている陽菜子に焦点を定めて、ゆっくりと口を開いた。
「ヒナ。少しの間母さんを頼めるか? 父さんは大樹にちょっと話があるから」
「う、うん。わかった」
「頼むな」
自分も泣きそうな顔で気丈に頷く陽菜子を勇気づけるように微笑むと、洋平はちらと伊理穂を見た。
よっぽどショックを受けたんだろう、愕然とした表情で微動だにしない伊理穂の姿が胸に痛い。
すぐにそばにいってやりたいけれど、大樹をこのままほうっておくわけにはいかなかった。
洋平はもどかしい自分の感情を落ちつけるように嘆息すると、泣き喚く大樹の肩を掴んで歩き出した。
「大樹。こっち来い」
ずりずりと洋平に引きずられるようにしながらあとを着いてくる大樹とともに子供部屋に入る。
ドアを閉めると、リビングからの明かりが遮断されて、一気に室内が暗くなった。
部屋はまだ厚手のカーテンが閉められておらず、レースのカーテンから入ってくる微かな月明りが、洋平と大樹の姿をぼうっと薄く浮かび上がらせる。
洋平は大樹と目線が同じ位置になるようにしゃがみ込むと、瞳をきつく細めてその顔を覗き込んだ。
「大樹。なんで父さんに叩かれたのか、わかるよな?」
しゃくり上げながら大樹が小さく頷く。
洋平は瞳を緩めると、その頭を優しく撫でた。
「よし。ちゃんと理由がわかってるのはえらいぞ。それは褒めてやる。……反省もしてるか?」
今度は大きく大樹が頷いた。
洋平はもう一度その頭を撫でてやる。
すんすんと大きく肩を上下させながら泣く大樹が愛しくて、洋平は眉尻を下げて微かに口の端を持ち上げた。
大樹が伊理穂に反抗する理由。
洋平はその理由になんとなく察しがついていた。
この年頃の子の多くが経験するもの。それは。
「なあ、大樹。母さんが好きか?」
大樹がこくりと頷いた。
「――ひとりの、オンナとして好きか?」
洋平の質問に、大樹がおずおずとはにかむように頷いた。
「そうか」
言いながら優しく頭を撫でてやると、大樹が再び声をあげて泣いて、洋平の首にすがりついてきた。
洋平はそんな息子を優しく受け止める。
「大樹。いいか、よく聞け。男なら、好きなオンナを泣かすようなことはするな。精一杯優しくして、大切にしてやれ。……母さん、今頃ショックで泣いてるぞ? いいのか、お前はそれで。母さんが悲しんでも」
「い、いやだ……っ!」
鋭く放たれた大樹の言葉に、伊理穂がまるで銃弾を胸に打ち込まれたかのように目を大きく見開いた。
ネクタイを緩めながら状況を見守っていた洋平も、大樹のその言葉にはたと動きを止める。
「大樹……」
「いりほなんか、ごはんもちっともうまくねーし、いっつもドジばっかりだし、ちっともお母さんっぽくないくせに! いりほなんてせかいでいちばんだいっきらいだ! いなくなっちゃえばいいのに!」
「大樹!」
洋平は大樹に歩み寄ると、いつもより少し強めにその頭にゲンコツを落とした。
大樹がハッとしたように目を見開いて、その大きな瞳にみるみるうちに涙が盛り上がっていく。うわあああんと天を仰いで大泣きした。
洋平は大きく息をついて後ろを振り返ると、そこで呆然と立ち尽くしている陽菜子に焦点を定めて、ゆっくりと口を開いた。
「ヒナ。少しの間母さんを頼めるか? 父さんは大樹にちょっと話があるから」
「う、うん。わかった」
「頼むな」
自分も泣きそうな顔で気丈に頷く陽菜子を勇気づけるように微笑むと、洋平はちらと伊理穂を見た。
よっぽどショックを受けたんだろう、愕然とした表情で微動だにしない伊理穂の姿が胸に痛い。
すぐにそばにいってやりたいけれど、大樹をこのままほうっておくわけにはいかなかった。
洋平はもどかしい自分の感情を落ちつけるように嘆息すると、泣き喚く大樹の肩を掴んで歩き出した。
「大樹。こっち来い」
ずりずりと洋平に引きずられるようにしながらあとを着いてくる大樹とともに子供部屋に入る。
ドアを閉めると、リビングからの明かりが遮断されて、一気に室内が暗くなった。
部屋はまだ厚手のカーテンが閉められておらず、レースのカーテンから入ってくる微かな月明りが、洋平と大樹の姿をぼうっと薄く浮かび上がらせる。
洋平は大樹と目線が同じ位置になるようにしゃがみ込むと、瞳をきつく細めてその顔を覗き込んだ。
「大樹。なんで父さんに叩かれたのか、わかるよな?」
しゃくり上げながら大樹が小さく頷く。
洋平は瞳を緩めると、その頭を優しく撫でた。
「よし。ちゃんと理由がわかってるのはえらいぞ。それは褒めてやる。……反省もしてるか?」
今度は大きく大樹が頷いた。
洋平はもう一度その頭を撫でてやる。
すんすんと大きく肩を上下させながら泣く大樹が愛しくて、洋平は眉尻を下げて微かに口の端を持ち上げた。
大樹が伊理穂に反抗する理由。
洋平はその理由になんとなく察しがついていた。
この年頃の子の多くが経験するもの。それは。
「なあ、大樹。母さんが好きか?」
大樹がこくりと頷いた。
「――ひとりの、オンナとして好きか?」
洋平の質問に、大樹がおずおずとはにかむように頷いた。
「そうか」
言いながら優しく頭を撫でてやると、大樹が再び声をあげて泣いて、洋平の首にすがりついてきた。
洋平はそんな息子を優しく受け止める。
「大樹。いいか、よく聞け。男なら、好きなオンナを泣かすようなことはするな。精一杯優しくして、大切にしてやれ。……母さん、今頃ショックで泣いてるぞ? いいのか、お前はそれで。母さんが悲しんでも」
「い、いやだ……っ!」