番外編 ずっとこれからも
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「ただいまー」
「おかえりなさい」
「お? なんだ、今日はヒナがお出迎えか? はは、珍しいな」
仕事が終わって家に帰ると、妻の伊理穂でなく娘の陽菜子 が洋平を出迎えた。
陽菜子は今年小学四年生になる上の娘で、歳のわりには少しませたところのある利発な女の子だ。
肩口で切り揃えられた洋平譲りの黒髪をさらりと揺らして、これまた洋平譲りの黒い瞳に凛とした輝きをのせて、帰ってきた父親を複雑な表情で見上げてきている。
洋平は娘の目を見てその意味するところに気づくと、眉尻を下げて苦笑した。靴を脱いで陽菜子の頭を撫でると、ため息混じりに胸に浮かんだことを問う。
「……大樹 が、また母さんをいじめてるのか?」
大樹とは、幼稚園年中の下の息子だ。
伊理穂譲りの栗色の髪と瞳。誰の血を引いたのか、活発でやんちゃな性格。
きっと自分の父親の征樹に似たんだろう。時々遊びに来る母親の弥生も、大樹を見ては征樹にそっくりだと、よく言っていたのを思い出した。
大学を卒業してすぐ結婚した最愛の妻伊理穂と、かわいい娘の陽菜子にかわいい息子の大樹。
家族4人で幸せな毎日を送っていた水戸家だったけれど、このところ少しだけ問題が発生していた。
つい最近まで大のお母さん子だった大樹が、突然伊理穂に反発するようになったのだ。
「そ。もうお父さんなんとかしてやってよ。大樹ったらほんとバカ。お母さんもくっだらないこと真に受けすぎ! もー、いくつになっても鈍いんだから!」
ぷりぷりとまるで親子の立場が逆転したように自分の母親をそう評す娘に、洋平はくつくつと肩を震わせる。
「はは。まあ、そういうなよヒナ。母さんはそこがかわいいとこなんだから」
「もー! お父さんはすぐそうやってお母さんを甘やかす! だーからお母さんはいつまでたっても鈍感なままなんでしょー!? この前だってお母さん、授業参観に来たときツトムくんのお父さんに言い寄られてたんだよ! お母さん鈍だからぜんっぜん気づいてなかったけど!」
「……それはほんとうか、ヒナ」
陽菜子の言葉に洋平は神妙な顔をした。
ツトムくんとは陽菜子のクラスメイトの男の子だ。数年前に両親が離婚したらしく、今は父親と二人暮しだと聞いている。
まさかその父親が伊理穂に言い寄ろうとは。これはたしかに、そこがかわいいところなんだなどと呑気なことは言っていられない。
「今度ゆっくり、ツトムくんのお父さんと話さないとな」
「うん、ぜったいだよ! でもまずはこっち」
言って陽菜子が呆れたような視線をリビングのドアに移した。
そのドアの奥から、内容まではわからないが大樹が伊理穂にわめきちらしている声が漏れ聞こえている。
頭に伊理穂の泣きそうな顔と、大樹の拗ねたような怒り顔が浮かんだ。
(やれやれ。帰ってきてそうそう大変だ)
洋平は小さく嘆息すると、リビングのドアを引き開けた。
「ただいま」
意識して穏やかな声を出すと、伊理穂と大樹のふたりが勢いよく洋平を振り返った。
その二人の表情があまりにも洋平の想像通りで、洋平は小さく苦笑する。
「今日も激しくやってんな。伊理穂、とりあえず腹減ったから夕飯頼めるか?」
「あ、うん。いますぐ……」
台所へ向かおうとした伊理穂の背中に、大樹が怒鳴り声をあげる。
「なんだよ! いりほのバカ! 今オレと話してんだろ!? いっつもいっつもお父さんばっかりひいきして!」
伊理穂もその言葉に眉をあげて大樹を振り返った。
「大樹! だからお母さんのことを名前で呼ぶのはやめなさいって言ってるでしょう!?」
「なんだよ! お母さんお母さんて……! いりほなんか……いりほなんか、だいっきらいだ!」
「おかえりなさい」
「お? なんだ、今日はヒナがお出迎えか? はは、珍しいな」
仕事が終わって家に帰ると、妻の伊理穂でなく娘の
陽菜子は今年小学四年生になる上の娘で、歳のわりには少しませたところのある利発な女の子だ。
肩口で切り揃えられた洋平譲りの黒髪をさらりと揺らして、これまた洋平譲りの黒い瞳に凛とした輝きをのせて、帰ってきた父親を複雑な表情で見上げてきている。
洋平は娘の目を見てその意味するところに気づくと、眉尻を下げて苦笑した。靴を脱いで陽菜子の頭を撫でると、ため息混じりに胸に浮かんだことを問う。
「……
大樹とは、幼稚園年中の下の息子だ。
伊理穂譲りの栗色の髪と瞳。誰の血を引いたのか、活発でやんちゃな性格。
きっと自分の父親の征樹に似たんだろう。時々遊びに来る母親の弥生も、大樹を見ては征樹にそっくりだと、よく言っていたのを思い出した。
大学を卒業してすぐ結婚した最愛の妻伊理穂と、かわいい娘の陽菜子にかわいい息子の大樹。
家族4人で幸せな毎日を送っていた水戸家だったけれど、このところ少しだけ問題が発生していた。
つい最近まで大のお母さん子だった大樹が、突然伊理穂に反発するようになったのだ。
「そ。もうお父さんなんとかしてやってよ。大樹ったらほんとバカ。お母さんもくっだらないこと真に受けすぎ! もー、いくつになっても鈍いんだから!」
ぷりぷりとまるで親子の立場が逆転したように自分の母親をそう評す娘に、洋平はくつくつと肩を震わせる。
「はは。まあ、そういうなよヒナ。母さんはそこがかわいいとこなんだから」
「もー! お父さんはすぐそうやってお母さんを甘やかす! だーからお母さんはいつまでたっても鈍感なままなんでしょー!? この前だってお母さん、授業参観に来たときツトムくんのお父さんに言い寄られてたんだよ! お母さん鈍だからぜんっぜん気づいてなかったけど!」
「……それはほんとうか、ヒナ」
陽菜子の言葉に洋平は神妙な顔をした。
ツトムくんとは陽菜子のクラスメイトの男の子だ。数年前に両親が離婚したらしく、今は父親と二人暮しだと聞いている。
まさかその父親が伊理穂に言い寄ろうとは。これはたしかに、そこがかわいいところなんだなどと呑気なことは言っていられない。
「今度ゆっくり、ツトムくんのお父さんと話さないとな」
「うん、ぜったいだよ! でもまずはこっち」
言って陽菜子が呆れたような視線をリビングのドアに移した。
そのドアの奥から、内容まではわからないが大樹が伊理穂にわめきちらしている声が漏れ聞こえている。
頭に伊理穂の泣きそうな顔と、大樹の拗ねたような怒り顔が浮かんだ。
(やれやれ。帰ってきてそうそう大変だ)
洋平は小さく嘆息すると、リビングのドアを引き開けた。
「ただいま」
意識して穏やかな声を出すと、伊理穂と大樹のふたりが勢いよく洋平を振り返った。
その二人の表情があまりにも洋平の想像通りで、洋平は小さく苦笑する。
「今日も激しくやってんな。伊理穂、とりあえず腹減ったから夕飯頼めるか?」
「あ、うん。いますぐ……」
台所へ向かおうとした伊理穂の背中に、大樹が怒鳴り声をあげる。
「なんだよ! いりほのバカ! 今オレと話してんだろ!? いっつもいっつもお父さんばっかりひいきして!」
伊理穂もその言葉に眉をあげて大樹を振り返った。
「大樹! だからお母さんのことを名前で呼ぶのはやめなさいって言ってるでしょう!?」
「なんだよ! お母さんお母さんて……! いりほなんか……いりほなんか、だいっきらいだ!」