終
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出口が見えなくて苦しかった。
目の前を流れる景色が滲んで揺らめく。
と、その時。
「……どうした?」
それまで隣りの席で眠っていたはずの流川が話しかけてきた。
いつのまに起きたのだろう。
伊理穂は慌てて涙を押し返すと、強張る頬を引っ張って笑顔を作り、流川を振り返った。
「ううん……。いよいよ、インターハイが始まるなって思って」
精一杯微笑んで見せたつもりだったけれど、流川をごまかすことはできなかったらしい。
流川は伊理穂の中の悲しみを感じ取ったのか、困ったように微笑んだ。
「ウソつくな」
「……うそじゃないよ」
強がって言葉を返すと、流川がふうっと嘆息した。
瞳を柔らかく細めて伊理穂を見つめてくる。
「……水戸のこと、考えてたんだろ?」
図星を指されて、伊理穂はハッと自分の体が強張るのを感じた。
だけど、流川の前で肯定するのはあまりにも無神経だ。
伊理穂はゆるゆると首を横に振ると、努めて平静に聞こえるよう心がけながら口を開く。
「ううん。違うよ。どうしてそんなこと」
だけど、それも流川にはなんの効果もなかったようで、流川は呆れたように瞳を細めると、おもむろに伊理穂の右頬に手を伸ばしてそこを軽くつまんだ。
強い力ではなかったけれど、そこにじんわりと痺れるような痛みが走る。
「ムリすんな。オレ相手にごまかせると思ってんのか? 仮にも元彼だぞ、オレは」
「……ふぁい」
頬をつままれながら、観念したようにふがふがと返事を返すと、流川が小さく笑んで、頬をつまんでいた手を離してくれた。
流川の大きな手は完全にそこを離れる前に、そっと赤くなった伊理穂の頬をひと撫でして去っていく。
「伊理穂。ダイジョーブだ」
「え?」
突然流川がそれまでと口調をがらりと変えて、力強く言った。
驚いて目を瞠る伊理穂の瞳を覗きこんで、もう一度同じ言葉を繰り返す。
「ダイジョーブ。伊理穂、お前は絶対水戸とうまくいく。だからんな顔すんな。ダイジョーブだ。オレを信じろ」
「…………」
妙に自信あり気に言ってくる流川に、伊理穂は呆気に取られた。
その胸に、次第にあったかいものが広がっていく。
「ふふっ。なあに、それ?」
込み上げてくる感情を抑え切れなくて、伊理穂は小さく笑った。
流川の優しさが、とてもくすぐったくて嬉しかった。
(やっぱり、いつまでも黙ってるわけにはいかない……よね)
洋平に彼女がいること。そして、伊理穂が洋平に嫌われていること。
流川は別れてからもいつだって伊理穂に優しくしてくれた。
一歩離れた場所から、いつも伊理穂を見守ってくれていた。
だから。
伊理穂は心を決めると、ゆっくりと唇を持ち上げる。
「……楓くん」
「ん?」
「あのね、洋平……ね。彼女いるの」
「彼女?」
「そう。年上の……とっても綺麗な人。だから、洋平とわたしがうまくいくなんてそんなこと、ないよ。それに、楓くんにはずっと言えなかったんだけど、わたし洋平に嫌われてるんだ。だから、だめなの」
目の前を流れる景色が滲んで揺らめく。
と、その時。
「……どうした?」
それまで隣りの席で眠っていたはずの流川が話しかけてきた。
いつのまに起きたのだろう。
伊理穂は慌てて涙を押し返すと、強張る頬を引っ張って笑顔を作り、流川を振り返った。
「ううん……。いよいよ、インターハイが始まるなって思って」
精一杯微笑んで見せたつもりだったけれど、流川をごまかすことはできなかったらしい。
流川は伊理穂の中の悲しみを感じ取ったのか、困ったように微笑んだ。
「ウソつくな」
「……うそじゃないよ」
強がって言葉を返すと、流川がふうっと嘆息した。
瞳を柔らかく細めて伊理穂を見つめてくる。
「……水戸のこと、考えてたんだろ?」
図星を指されて、伊理穂はハッと自分の体が強張るのを感じた。
だけど、流川の前で肯定するのはあまりにも無神経だ。
伊理穂はゆるゆると首を横に振ると、努めて平静に聞こえるよう心がけながら口を開く。
「ううん。違うよ。どうしてそんなこと」
だけど、それも流川にはなんの効果もなかったようで、流川は呆れたように瞳を細めると、おもむろに伊理穂の右頬に手を伸ばしてそこを軽くつまんだ。
強い力ではなかったけれど、そこにじんわりと痺れるような痛みが走る。
「ムリすんな。オレ相手にごまかせると思ってんのか? 仮にも元彼だぞ、オレは」
「……ふぁい」
頬をつままれながら、観念したようにふがふがと返事を返すと、流川が小さく笑んで、頬をつまんでいた手を離してくれた。
流川の大きな手は完全にそこを離れる前に、そっと赤くなった伊理穂の頬をひと撫でして去っていく。
「伊理穂。ダイジョーブだ」
「え?」
突然流川がそれまでと口調をがらりと変えて、力強く言った。
驚いて目を瞠る伊理穂の瞳を覗きこんで、もう一度同じ言葉を繰り返す。
「ダイジョーブ。伊理穂、お前は絶対水戸とうまくいく。だからんな顔すんな。ダイジョーブだ。オレを信じろ」
「…………」
妙に自信あり気に言ってくる流川に、伊理穂は呆気に取られた。
その胸に、次第にあったかいものが広がっていく。
「ふふっ。なあに、それ?」
込み上げてくる感情を抑え切れなくて、伊理穂は小さく笑った。
流川の優しさが、とてもくすぐったくて嬉しかった。
(やっぱり、いつまでも黙ってるわけにはいかない……よね)
洋平に彼女がいること。そして、伊理穂が洋平に嫌われていること。
流川は別れてからもいつだって伊理穂に優しくしてくれた。
一歩離れた場所から、いつも伊理穂を見守ってくれていた。
だから。
伊理穂は心を決めると、ゆっくりと唇を持ち上げる。
「……楓くん」
「ん?」
「あのね、洋平……ね。彼女いるの」
「彼女?」
「そう。年上の……とっても綺麗な人。だから、洋平とわたしがうまくいくなんてそんなこと、ないよ。それに、楓くんにはずっと言えなかったんだけど、わたし洋平に嫌われてるんだ。だから、だめなの」