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(伊理穂……っ!)
洋平は伊理穂がそのトラウマを語った日のことを思い出してゾッとした。
どれほどの苦しみを抱えて、合宿中笑顔でいたんだろうか。
そんなこと気づきもしないで、自分は伊理穂にひどいことばかり言って、自分のくだらないプライドのために、余計に伊理穂を傷つけて。
『伊理穂もして欲しいのか? 流川がいなくて淋しいから?』
この言葉がどれほどの破壊力を持っていたのか、今初めて理解して洋平は叫び出したくなった。
胸に浮かんだ大好きな伊理穂の笑顔が、ばらばらに砕け散る。
こんなことなら伊理穂から離れるのではなかった。
伊理穂はいつだって洋平の傍にいてくれて、いつだって元気をくれたのに。なのに自分は伊理穂を傷つけることしかしていない。
愛しているのに。何よりも大切なのに。
(伊理穂……っ!!)
夥しい感情の渦が洋平の中を激しく駆け巡った。
(伊理穂、伊理穂、伊理穂……! どうすれば、傷を癒してやれる……っ。どうすれば……っ! オレはどうすればいいんだ……っ)
そのとき、流川が淡々と言い放った。
「おめーが伊理穂を支えてやりゃーいいじゃねーか」
「――は!?」
「おめー、最近伊理穂に冷たくしてるんだって? もうオレとのことは気にしねーでいーんだ。おめーが支えてやれよ」
「――バ……カ言ってんじゃねぇよ! んなことできるかよ……っ! オレはあいつをこれ以上ないってくらい深く傷つけたんだ。もう二度と顔向けできねぇよ……」
洋平は顔を伏せて言った。
と、流川がぽつりと呟く。
「……じゃあ、伊理穂はずっとあのまんまだな。泣いて、苦しんで、絶望して。この先の気が遠くなるような人生を、アイツはそうやってひとりで生きていくんだな」
「――! それ……はっ!」
「傷つけたんなら、謝りゃーいい。許してもらえるまで、何度も何度も」
「謝って許してもらえるようなことじゃ……っ!」
叫ぶように言った言葉に、流川が鋭い声音を滑り込ませる。
「そうやってかっこつけて、自分守ってんだけだろ。てめーは、伊理穂に拒絶の目で見られんのがこえーだけだ。だからそうやって逃げてる」
「!!」
ハッと洋平は目を瞠った。
突然視界がクリアになったような気がして、洋平は図星をさされたことを悟る。
愕然と黙り込んだ洋平を見て、流川が落ち着いた声音で言葉を続ける。
「元気に笑って欲しーなら、てめーで支えて見せろよ、水戸。……一度くらい、感情のままにぶつかってみてもいーんじゃねーか? 好きなんだろ、伊理穂が。愛してんだろ? じゃあ伝えりゃいーじゃねーか。アイツにオレはもういねー。だいいち、お前たちのカンケーがもう冷え切ってるってんなら、それを伝えたところで、これ以上マイナスになんてなんねー。だけど、気持ちを伝えれば、もしかすると幼馴染みのカンケーには戻れるかもしんねーだろ。そうなったら伊理穂は少しでも救われる。どっちが大切なんだ。てめーの気持ちと、伊理穂の気持ち。動いてもマイナスにはならねーんなら、やる事はひとつだろ?」
流川の言葉に、洋平は目が覚めたような気がした。
流川の言うとおりだ。
もしも許されるのならば、もう一度伊理穂の傍に戻りたい。
嫌いだ何て嘘だと言って、本当は愛していると伝えたい。
彼氏になりたいなんて望まないから、せめてもう一度、幼馴染みとして伊理穂の傍にいさせてほしかった。
(伊理穂……)
「…………。流川……お前……」
なんでそんなことを。その言葉は、流川に遮られた。
「他に用がねーんなら、オレは帰る。じゃあな、水戸」
「あ、おい、流川!」
引き止める洋平の声にも振り返らずに、流川は去っていった。
流川は歩いて公園まで出ると、小さくため息をついた。
その拍子に、口の中にぴりっとした痛みが走った。
さきほど洋平に殴られたときに、どうやら頬の内側を切ったようだった。
口の中にじんわりと鉄の味が広がって、胸が悪くなる。
流川は血を吸うと、それをペッと地面に吐き出した。
とそこに、
「おーおー、ずいぶん派手にやられたな」
「え、ちょっと殴られたの? 大丈夫?」
三井と結子が現れた。
三井が悪戯っ子のように歯を見せて笑いながら言う。
「流川。水戸のパンチ、すげー効くだろ」
「不意打ちだったから」
「はは! ほんっと負けず嫌いだな、お前は。オレも体育館に乗り込んだとき、アイツが相手でさ。すっげーボッコボコにされたんだよなー。アイツとはもう二度とやり合いたくねーぜ」
「……次は負けねー」
「あーのーね。あんたたちそんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ。とりあえず流川、ほっぺ湿布貼っとく?」
監督にバレたらやばいんじゃない? という結子の言葉に甘えて、流川は殴られた頬に湿布を貼ってもらった。
ひやりとした感触が頬に心地よい。
「ねえ……。水戸くん、どうだったの?」
「あ、そうだ流川。アイツ、どうだったんだ?」
思い出したように訊ねる三井に、流川は顔を向ける。
「多分……大丈夫」
「うまくまとまりそう?」
「あれで動かなかったら、今度こそ伊理穂はオレがもらう」
「あ!? 何言ってんだよ、次はオレだろ!」
「ちょっと! あんたたちなに言ってんのよ! 水戸くんじゃなきゃまったく意味がないでしょうが!」
「うるせーぞ、結子! さらっと傷つくこと言ってんじゃねーよ!」
「うるさいってなんですか!」
と、またいつものように結子と三井が喧々囂々やり出した。
流川はそれには目もくれずに、ひとり先ほど洋平に言われたことを思い出していた。
『お前に惹かれていく伊理穂も、お前と付き合うことになって嬉しそうに笑ってた伊理穂も、悔しいくらいに綺麗で、幸せそうで……っ! オレじゃあ、一生かけてもさせてやれないような笑顔を、伊理穂にさせたのはお前なのに……!』
もうそれだけで充分だった。
洋平のあの言葉は、確かに伊理穂が自分のことを好きだった、その証拠だった。
自然、流川の頬が緩んでいく。
(よかったな、伊理穂。幸せになれよ)
ぎゃーぎゃーうるさい結子と三井の喧騒に少し眉をひそめながら、流川は空を見上げて、同じ空のもとにいる伊理穂を思った。
To be continued…
洋平は伊理穂がそのトラウマを語った日のことを思い出してゾッとした。
どれほどの苦しみを抱えて、合宿中笑顔でいたんだろうか。
そんなこと気づきもしないで、自分は伊理穂にひどいことばかり言って、自分のくだらないプライドのために、余計に伊理穂を傷つけて。
『伊理穂もして欲しいのか? 流川がいなくて淋しいから?』
この言葉がどれほどの破壊力を持っていたのか、今初めて理解して洋平は叫び出したくなった。
胸に浮かんだ大好きな伊理穂の笑顔が、ばらばらに砕け散る。
こんなことなら伊理穂から離れるのではなかった。
伊理穂はいつだって洋平の傍にいてくれて、いつだって元気をくれたのに。なのに自分は伊理穂を傷つけることしかしていない。
愛しているのに。何よりも大切なのに。
(伊理穂……っ!!)
夥しい感情の渦が洋平の中を激しく駆け巡った。
(伊理穂、伊理穂、伊理穂……! どうすれば、傷を癒してやれる……っ。どうすれば……っ! オレはどうすればいいんだ……っ)
そのとき、流川が淡々と言い放った。
「おめーが伊理穂を支えてやりゃーいいじゃねーか」
「――は!?」
「おめー、最近伊理穂に冷たくしてるんだって? もうオレとのことは気にしねーでいーんだ。おめーが支えてやれよ」
「――バ……カ言ってんじゃねぇよ! んなことできるかよ……っ! オレはあいつをこれ以上ないってくらい深く傷つけたんだ。もう二度と顔向けできねぇよ……」
洋平は顔を伏せて言った。
と、流川がぽつりと呟く。
「……じゃあ、伊理穂はずっとあのまんまだな。泣いて、苦しんで、絶望して。この先の気が遠くなるような人生を、アイツはそうやってひとりで生きていくんだな」
「――! それ……はっ!」
「傷つけたんなら、謝りゃーいい。許してもらえるまで、何度も何度も」
「謝って許してもらえるようなことじゃ……っ!」
叫ぶように言った言葉に、流川が鋭い声音を滑り込ませる。
「そうやってかっこつけて、自分守ってんだけだろ。てめーは、伊理穂に拒絶の目で見られんのがこえーだけだ。だからそうやって逃げてる」
「!!」
ハッと洋平は目を瞠った。
突然視界がクリアになったような気がして、洋平は図星をさされたことを悟る。
愕然と黙り込んだ洋平を見て、流川が落ち着いた声音で言葉を続ける。
「元気に笑って欲しーなら、てめーで支えて見せろよ、水戸。……一度くらい、感情のままにぶつかってみてもいーんじゃねーか? 好きなんだろ、伊理穂が。愛してんだろ? じゃあ伝えりゃいーじゃねーか。アイツにオレはもういねー。だいいち、お前たちのカンケーがもう冷え切ってるってんなら、それを伝えたところで、これ以上マイナスになんてなんねー。だけど、気持ちを伝えれば、もしかすると幼馴染みのカンケーには戻れるかもしんねーだろ。そうなったら伊理穂は少しでも救われる。どっちが大切なんだ。てめーの気持ちと、伊理穂の気持ち。動いてもマイナスにはならねーんなら、やる事はひとつだろ?」
流川の言葉に、洋平は目が覚めたような気がした。
流川の言うとおりだ。
もしも許されるのならば、もう一度伊理穂の傍に戻りたい。
嫌いだ何て嘘だと言って、本当は愛していると伝えたい。
彼氏になりたいなんて望まないから、せめてもう一度、幼馴染みとして伊理穂の傍にいさせてほしかった。
(伊理穂……)
「…………。流川……お前……」
なんでそんなことを。その言葉は、流川に遮られた。
「他に用がねーんなら、オレは帰る。じゃあな、水戸」
「あ、おい、流川!」
引き止める洋平の声にも振り返らずに、流川は去っていった。
流川は歩いて公園まで出ると、小さくため息をついた。
その拍子に、口の中にぴりっとした痛みが走った。
さきほど洋平に殴られたときに、どうやら頬の内側を切ったようだった。
口の中にじんわりと鉄の味が広がって、胸が悪くなる。
流川は血を吸うと、それをペッと地面に吐き出した。
とそこに、
「おーおー、ずいぶん派手にやられたな」
「え、ちょっと殴られたの? 大丈夫?」
三井と結子が現れた。
三井が悪戯っ子のように歯を見せて笑いながら言う。
「流川。水戸のパンチ、すげー効くだろ」
「不意打ちだったから」
「はは! ほんっと負けず嫌いだな、お前は。オレも体育館に乗り込んだとき、アイツが相手でさ。すっげーボッコボコにされたんだよなー。アイツとはもう二度とやり合いたくねーぜ」
「……次は負けねー」
「あーのーね。あんたたちそんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ。とりあえず流川、ほっぺ湿布貼っとく?」
監督にバレたらやばいんじゃない? という結子の言葉に甘えて、流川は殴られた頬に湿布を貼ってもらった。
ひやりとした感触が頬に心地よい。
「ねえ……。水戸くん、どうだったの?」
「あ、そうだ流川。アイツ、どうだったんだ?」
思い出したように訊ねる三井に、流川は顔を向ける。
「多分……大丈夫」
「うまくまとまりそう?」
「あれで動かなかったら、今度こそ伊理穂はオレがもらう」
「あ!? 何言ってんだよ、次はオレだろ!」
「ちょっと! あんたたちなに言ってんのよ! 水戸くんじゃなきゃまったく意味がないでしょうが!」
「うるせーぞ、結子! さらっと傷つくこと言ってんじゃねーよ!」
「うるさいってなんですか!」
と、またいつものように結子と三井が喧々囂々やり出した。
流川はそれには目もくれずに、ひとり先ほど洋平に言われたことを思い出していた。
『お前に惹かれていく伊理穂も、お前と付き合うことになって嬉しそうに笑ってた伊理穂も、悔しいくらいに綺麗で、幸せそうで……っ! オレじゃあ、一生かけてもさせてやれないような笑顔を、伊理穂にさせたのはお前なのに……!』
もうそれだけで充分だった。
洋平のあの言葉は、確かに伊理穂が自分のことを好きだった、その証拠だった。
自然、流川の頬が緩んでいく。
(よかったな、伊理穂。幸せになれよ)
ぎゃーぎゃーうるさい結子と三井の喧騒に少し眉をひそめながら、流川は空を見上げて、同じ空のもとにいる伊理穂を思った。
To be continued…