21
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
胸をかきむしりたいほど苦しくて、受け入れがたい現実が真実で、それならせめてこの想いを大声で吐き出したいのに、それさえもできない。
ベッドの窓から見える洋平の部屋。その明かりがついていた。
今声を張り上げて叫んだら、隣りにいるだろう洋平に気づかれてしまう。
もしも泣き声を聞かれたら、嫌だという気持ちに関係なく、条件反射で洋平が来てしまうかも知れない。
『伊理穂は洋平が守りましょう』
そんな呪いから、一日だって早く解放してあげたかった。
伊理穂はのろのろと顔をあげると、涙で霞む視界に必死に目をこらしながら、窓の鍵に手を伸ばした。
洋平との玄関代わりに使っていた窓。
この部屋に来てから今まで、一度も閉めた事のなかったその鍵。
洋平に嫌いだと言われた後も、どうしても閉めることのできなかったその鍵。
伊理穂はそこに震える指をかけると、ぐっと力を込めて錠をおろした。
かちゃんと響く、はじめて聴くその音。
伊理穂の瞳からさらに涙があふれて、胸をぎゅうぎゅうと締め上げた。
(これでほんとうに、何もかも……終わり)
伊理穂の中の洋平との大切な思い出が、濃い霧に覆われて霞んでいく。
もう二度と戻らない日。
(ううん……。最初からあんな時間、存在してなかったんだよね……)
洋平の心と体を犠牲にすることで手にしていた、洋平との優しいまやかしの時間。
あまりにも長すぎたその時。
これで、ほんとうに終わりだ。
決別しなくては。
洋平のことを忘れられなくても、忘れなくては。
そうでないと、洋平がいつまでも幼い頃に掛けられた呪いに縛られたままになってしまう。
ほんとうに彼を思うなら、いい加減覚悟を決めなくてはいけない。
伊理穂は震える喉に無理矢理酸素を吸い込んだ。
向かいに見える窓の明かり。涙で揺らめくそこを見つめて、伊理穂は言った。
「さよなら……洋平」
合宿の終わった次の日、洋平は結子を公園に呼び出した。
結子と直接番号交換したわけじゃないけれど、以前伊理穂と結子と三人でお弁当を食べたときに、伊理穂が洋平と結子のケータイを奪って、『洋平も結ちゃんもわたしの大切な人なんだから、ふたりとも仲良くしてね。はい、これ番号。登録しといたから!』と嬉しそうに笑って言っていたのを思い出したのだ。
そのときの笑顔が、まぶたの裏によみがえって、洋平の胸がずきんと痛んだ。
「伊理穂……」
洋平の予想が正しければ、合宿中はすでに伊理穂は流川と別れて苦しんでいたはずだ。
それなのに、そんな伊理穂が無理して必死で浮かべていた笑顔を見て、呑気にも伊理穂が元気になったと思っていたなんて、あまりの自分のお気楽加減に吐き気がした。
伊理穂のことを真正面から見つめていたら、もしかしたらその苦しみに気づけていたかもしれないのに。
「くそっ」
吐き出すように呻いたその時、背後でじゃりりと地面の砂を踏みしめる音が聞こえた。
振り返ると、そこに結子と、なぜか三井がいた。
「三井サン……?」
洋平は眉根を寄せてその名を呼んだ。
三井は洋平が自分に気づいたことがわかると、ぐっと洋平の胸倉を掴んできた。
「…………」
ベッドの窓から見える洋平の部屋。その明かりがついていた。
今声を張り上げて叫んだら、隣りにいるだろう洋平に気づかれてしまう。
もしも泣き声を聞かれたら、嫌だという気持ちに関係なく、条件反射で洋平が来てしまうかも知れない。
『伊理穂は洋平が守りましょう』
そんな呪いから、一日だって早く解放してあげたかった。
伊理穂はのろのろと顔をあげると、涙で霞む視界に必死に目をこらしながら、窓の鍵に手を伸ばした。
洋平との玄関代わりに使っていた窓。
この部屋に来てから今まで、一度も閉めた事のなかったその鍵。
洋平に嫌いだと言われた後も、どうしても閉めることのできなかったその鍵。
伊理穂はそこに震える指をかけると、ぐっと力を込めて錠をおろした。
かちゃんと響く、はじめて聴くその音。
伊理穂の瞳からさらに涙があふれて、胸をぎゅうぎゅうと締め上げた。
(これでほんとうに、何もかも……終わり)
伊理穂の中の洋平との大切な思い出が、濃い霧に覆われて霞んでいく。
もう二度と戻らない日。
(ううん……。最初からあんな時間、存在してなかったんだよね……)
洋平の心と体を犠牲にすることで手にしていた、洋平との優しいまやかしの時間。
あまりにも長すぎたその時。
これで、ほんとうに終わりだ。
決別しなくては。
洋平のことを忘れられなくても、忘れなくては。
そうでないと、洋平がいつまでも幼い頃に掛けられた呪いに縛られたままになってしまう。
ほんとうに彼を思うなら、いい加減覚悟を決めなくてはいけない。
伊理穂は震える喉に無理矢理酸素を吸い込んだ。
向かいに見える窓の明かり。涙で揺らめくそこを見つめて、伊理穂は言った。
「さよなら……洋平」
合宿の終わった次の日、洋平は結子を公園に呼び出した。
結子と直接番号交換したわけじゃないけれど、以前伊理穂と結子と三人でお弁当を食べたときに、伊理穂が洋平と結子のケータイを奪って、『洋平も結ちゃんもわたしの大切な人なんだから、ふたりとも仲良くしてね。はい、これ番号。登録しといたから!』と嬉しそうに笑って言っていたのを思い出したのだ。
そのときの笑顔が、まぶたの裏によみがえって、洋平の胸がずきんと痛んだ。
「伊理穂……」
洋平の予想が正しければ、合宿中はすでに伊理穂は流川と別れて苦しんでいたはずだ。
それなのに、そんな伊理穂が無理して必死で浮かべていた笑顔を見て、呑気にも伊理穂が元気になったと思っていたなんて、あまりの自分のお気楽加減に吐き気がした。
伊理穂のことを真正面から見つめていたら、もしかしたらその苦しみに気づけていたかもしれないのに。
「くそっ」
吐き出すように呻いたその時、背後でじゃりりと地面の砂を踏みしめる音が聞こえた。
振り返ると、そこに結子と、なぜか三井がいた。
「三井サン……?」
洋平は眉根を寄せてその名を呼んだ。
三井は洋平が自分に気づいたことがわかると、ぐっと洋平の胸倉を掴んできた。
「…………」