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「おお、いい匂いだな」
「もう出来るから座ってて」
「ん。あ、さっき千鶴さんから伊理穂の制服と鞄預かったぞ。そのままオレのベッドに置いてあるから」
「ありがとー!」
千鶴とは伊理穂の母親だ。洋平の母同様、伊理穂の母も自身のことを名前で呼ばせていた。
伊理穂が洋平の部屋に泊まった翌日は、伊理穂が七時十五分までに自宅に戻らないと、千鶴が伊理穂の部屋から洋平に制服と鞄を手渡すのが習慣になっている。
伊理穂は対面キッチンから洋平がテーブルに着いたのを確認すると、目の前のカウンターに牛乳をのせた。
洋平がそれを取って空いたカウンターに、今度は焼きあがったパンをのせる。
最後に目玉焼きを皿にとると、それを持って伊理穂もテーブルに着いた。
胸の前で両手を合わせ、いただきますと食べ始める。
「伊理穂。昨日も言ったと思うけどオレは今日もバイトだから。帰りは花道か流川に送ってもらえよ」
「うん、わかった」
「もし誰も送ってくれそうになかったら、その時はオレに連絡しろ。大楠でも忠でも高宮でもとにかく誰かしら行かせるから」
食パンを頬張りながら言う洋平に、伊理穂は笑顔を零した。
「うん」
洋平はこんな風に、いつも自分のことを大事にしてくれる。
伊理穂にはそれがこの上なく嬉しかった。
「ありがとう、洋平」
伊理穂が笑顔でお礼を言うと、洋平も優しく微笑んでくれた。
「おはよう」
入り口付近にいたクラスメートに挨拶をして教室へ入ると、伊理穂は自分の席へと向かった。
いつも遅刻ぎりぎりの流川が、今日は珍しく登校してきていた。
椅子を引く伊理穂に、流川が机に突っ伏していた体を起こして、挨拶をしてくる。
「ウッス」
「おはよう、流川くん」
「ん。月瀬、今日は?」
「え?」
流川はいつも単語が少ない。
何を指しているのかわからずに伊理穂が首を傾げると、流川がじっと見上げてきた。
長い前髪の間から覗く切れ長の瞳に見つめられて、伊理穂の胸がどきどきと鼓動を早める。
「今日の帰り」
「ああ。今日も洋平はバイトだって」
「じゃあ、今日はオレが送る」
流川の言葉に、伊理穂の心臓がとくとくと脈打ち始めた。
本当に送ってくれるなんて。
はやまる心臓を抱えて、伊理穂は言葉を紡ぎ出す。
「いいの? ほんとうに」
こくりと流川が無言で頷く。
伊理穂の胸にくすぐったいような感覚がはしった。
「ありがとう、流川くん。それじゃあよろしくね」
流川は小さく頷くと、また机に突っ伏した。